テスラの自滅にほくそえむアップル。欲しいのはブランド力より人材

アップルはテスラを買収すべきだと言われるようになって久しい。最近は、アップルも自動車分野への野心を隠さない。だが、アップルに詳しい独立系アナリストのニール・サイバート氏は、アップルの自動車戦略を詳細に分析したうえで、「テスラはアップルに何ももたらさない」と結論付け、買収に否定的な見方を示した。

ブランド、カリスマ経営者が共通点

アップルとテスラには共通点が多い。非常に強力なブランド力を有し、顧客の忠誠心が高く、忠誠心を裏切らない商品を開発している。また、両社ともに遠い将来を見通せるリーダーがいた。アップルにはスティーブ・ジョブズ、テスラにはイーロン・マスク。それらの共通点によって、アップルがトランスポーテーション事業に参入するにはテスラ買収が最短の道と考える人が多いのだろう。

しかし、テスラ買収はアップルにとって意味はない。アップルが活用できるのは、テスラの人材くらいだからだ。

アップルの自動車開発プロジェクト「タイタン」はこの数カ月、明らかな拡大を見せている。

■アップルはカリフォルニア州の道路で自動運転テストを行っているが、テスト車両はこの数カ月で、27台から66台に増えた。
■アップルはアリゾナ州で自動運転車のテスト事業を拡大中。アリゾナは自動運転車開発の第二の拠点になりそうだ。
■報道によると、アップルはフォルクスワーゲンと共同で、自動操縦飛行機の開発を行っている。
■アップルは最近、グーグルの自動運転車Waymo(ウェイモ)のテストや開発に関わったエンジニアと、テスラでModel 3の開発を担当した主力エンジニアを雇用した。

2015年にプロジェクト・タイタンの存在が明らかになった際、多くの人が、その実現性を疑問視した。アップルは専門知識を持たず、ゼロから始めないといけなかったからだ。

アップルはiPhoneのときとは違い、プロジェクト・タイタンを率いる人材を外部から登用した。プロジェクトが進展すると、設計者とエンジニアの摩擦も生じた。LinkedInのデータによると、プロジェクト・タイタンのために外部から登用された人材のうち、40%は既にアップルを去っている。大部分は2016年8月から2017年初めにかけて離職した。その間にアップルは、アップルの商品をよりよく知る人材を他の事業部からプロジェクト・タイタンにピックアップしたのだろう。報道によると現在、プロジェクト・タイタンには2000-2500人が従事している。

キャッシュでテスラを買えるアップル

プロジェクト・タイタンの目標をよりよく理解するには、アップルがデザイン主導のカルチャーを持つ企業であることを認識する必要がある。アップルの強みは、既存の商品カテゴリーに、デザインを用いて斬新かつ世界を変えるような商品を追加する点にある。

テスラは、人々が本当に魅力的だと思う電気自動車の開発に成功した。高級車に必要な、性能や風格といった従来の指標でも競争する能力がある。だが、テスラはこれらの価値は将来的に重要性が薄れ、今後の重点は利便性や個性に移行するとみている。

アップルはトランスポーテーション事業に意欲を見せる。そしてテスラは人気面でも性能面でも最高レベルの自動車メーカーだ。多くの人が、アップルはテスラを買うべきだと考えているし、財力的にはそれは可能な選択肢だ。アップルは1290億ドルの現金があり、700億ドルでテスラを買って、すぐに自動車メーカーに仲間入りすることもできる。

しかし、アップルにはその必要はない。

■アップルにとってみれば、ブランド力と商品力の強さだけでは、買収する理由として足りない。もっと多くのことが必要だ。
■アップルはM&Aを収入を増やすツールと考えていない。
■アップルはM&Aによって顧客を獲得する必要がない。アップルは10億ユーザーを抱え、今後も自力でユーザーを増やすことができるからだ。しかもアップルのユーザーの大半はスマホやタブレット市場の中で、高価格帯を好んで使う層だ。

そもそも、アップルは買収で新たな商品カテゴリーに参入することに興味がない。アップルにとって、M&Aは現有商品ラインを増強するためであったり、商品開発の過程で足りない技術を補うツールなのだ。したがって、アップルが企業を買収するときは以下の2点を考えている。

■買収によって、現在開発中の商品に必要な技術を得ることができるか。
■買収によって、人材を得られるか。アップルの資源に限りがある分野の一つは人材だ。特に新業界に参入するときは、それを助ける知識や専門技能を持つ人材が必要になる。

アップルのM&Aの歴史を見れば、その原則を知ることができる。P.A. Semi、AuthenTec、LinX、Metaioの例を見ても、アップルが必要としていたのは技術と人材だった。

アップルからテスラに移ったエンジニアの「政変」

もしアップルがテスラに興味を示すとすれば、目的は人材だろう。

2000年代、テスラはアップルから優秀なスタッフを獲得した。当時、アップルは自動車に関心を見せず、テスラとアップルの間で人材争奪戦が起きたのは2014年以降だ。

ただし環境は変わった。この数カ月、テスラは苦境続きだ。最初の量産車であるModel 3も納車が進んでいない。

イーロン・マスクの権力は強大だが、それがいいことかは分からない。マスク氏は最近、「テスラの製造の問題を解決できるのは自分だけだ」と語ったが、この言葉に不安を感じた人も多い。

おそらくアップルにとってはテスラから人材を奪う好機だ。テスラが不安定な時期に、プロジェクト・タイタンは着実に進展している。テスラは幹部の離職が相次ぎ、内部に問題があることが露呈している。そして最も注目されているのは、ダグ・フィールド氏の離職だ。

フィールド氏は彼は2013年にアップルからテスラに移り、エンジニア部門のナンバー2として、自動車エンジニアリングとModel 3プロジェクトの責任者を務めていた。かつては電動立ち乗り二輪車を開発するセグウェイで最高技術責任者(CTO)を務め、アップルではMacのデザインも担当していた。

アップルを飛び出したフィールド氏の「出戻り」は、アップルとテスラのどちらにとっても、政変と言える。

テスラは今、自動車製造の過酷な現実の中にいる。一方、アップルのプロジェクト・タイタンは自動車のテスト段階に入った。アップルにとってはテスラを買わずとも、優秀な人材を獲得できるチャンスが到来するかもしれない。
(翻訳・浦上早苗)

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