第2のエヌビディアになれるか。投資一身に受ける「製品なき」スタートアップ

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第2のエヌビディアになれるか。投資を一身に受ける「製品なき」スタートアップ

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2019年末、「壁仞科技(Biren Technology)」(以下、壁仞)という聞きなれない社名が投資家の間に広まった。最大の理由はその評価額の高さだ。同社は米半導体大手「エヌビディア(NVIDIA)」を目標に設立されたGPU(画像処理半導体)メーカーで、その後、2020年6月に実施したシリーズAで、評価額は2億ドル(約220億円)近くに達した。

壁仞はその後の1年間で複数回の資金調達を実施。調達額は計47億元(約800億円)となり、評価額は一気に10億ドル(約1100億円)へと高騰した。出資者は、公開されているだけで47社に上る。

同社は現在、新たな資金調達を実行中で、現時点の評価額は20億ドル(約2200億円)とさらに倍になっている。ちなみに公開データによると、昨年は中国のAIチップ関連企業が調達した資金が計1400億元(約2兆3800億円)を超え、過去最高を記録した。

しかし壁仞は今日に至るまで製品を正式にリリースしておらず、テープアウトすらしていない。「パワーポイントだけでこれほど多額の資金を調達できたのか」と不満を漏らす投資家もいる。

壁仞という会社の評価はその創業者である張文氏に負うところが大きい。張氏は資本市場を熟知していることで知られている。ウォール街では、勤めていた投資銀行でも弁護士としても大規模なM&Aを手掛け、中国に戻ってからは基金を設立している。

張氏はその後、画像認識技術の「商湯科技(センスタイム)」総裁を務めている。1年余りの在任期間中には、上海でもひときわ目を引く航空母艦のような外観の中国本社ビル「商湯科技大厦」の建設で政府との交渉を担当した。商湯科技の資金調達方式(調達できる資金は全て調達する)は大いに賛否が分かれるところだが、壁仞の手法もかなりそれに近いと言えるだろう。

急速に資金調達を進める狙いとは

GPUは半導体の分野で最も複雑だが、ニーズも最も大きい。AIの実用化シーン、例えば自動運転、ディープラーニング、新薬開発などでその中核をなすのがGPUだ。

世界最大のGPUメーカー、エヌビディアは市場の8割以上を独占しており、時価総額は約3000億ドル(約33兆円)に上る。壁仞はエヌビディアをベンチマークにしていると明言してきた。張氏は投資家らに対し、エヌビディアの旗艦モデル「A100」より何倍も優れた製品を作るつもりだとアピールしている。

半導体業界に突如現れたかに見える壁仞だが、実はそこには明確な理屈がある。壁仞に出資する「雲九資本(Sky9 Capital)」の創業パートナー、曹大容氏は36Krに対し「半導体企業の進む道というのは決まっていて、強い企業がますます強くなるものだ」と話した。人材と資金を確保でき、優れた製品を作り出す可能性が大きければ、後から参入した企業に追い越される可能性は小さい。特にGPUのように米国企業が市場を押さえている分野では、一旦目立つ企業が現れれば資金がそこに集中するのは自然な流れだという。

壁仞が巨額の資金を急速に調達する手法を取った理由はここにある。消費者向けインターネット企業の資金調達方法も同様だ。できる限り多額の資金を調達するのは同業他社の資金調達を阻む狙いもある。市場を占拠してから収益化を行うというやり方だ。

壁仞の誕生は必然だった。2018年以降、大型の投資案件は減っている。数少ない人気トピックの中でも消費者向け製品の分野は分散しすぎており、医療分野はハードルが高すぎた。壁仞の手がける半導体は想像力をかき立てる分野だった。スペシャリストが集結している上、経験豊富な創業者の存在という要素も加わり、壁仞は投資家たちの期待にぴったり合致したのだ。

壁仞1社だけでは投資家たちの期待を満足させることはできない。昨年、GPUの分野に新たな企業2社が誕生した。「沐曦集成電路(METAX)」と「摩爾線程(Moore Threads)」だ。2社とも壁仞のように頻繁に資金調達を行い、毎回10数億元(約170~320億円)を調達している。

現在、中国の半導体業界では、利益を出すことよりもスタートラインに立つことが重要であり、試合に参加さえできれば資金は何とかなると考えられているようだ。

米国依存脱却へ政府も後押し 加熱する中国半導体業界、2020年投資額が2兆円超(一)

(翻訳・山口幸子)

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