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中国ショート動画アプリ「快手(Kuaishou、海外版はKwai)」の宿華CEOが7月22日、ブルームバーグの独占取材に応じ、2017年にバイトダンス(字節跳動)の張一鳴氏と繰り広げた買収合戦について初めて言及した。その買収の対象となっていたのはショート動画プラットフォーム「Musical.ly」、今や世界的な大ヒットアプリとなっている「TikTok」の前身だ。
「当時はあまり資金がなかった」。宿CEOは買収のチャンスを逃してしまった時を振り返り、こう述べる。「確かに大きな影響をもたらす出来事だったが、これで全てが決まったわけではない」
2017年、Musical.ly創業者の朱駿氏と陽陸育氏は設立3年の同社を売却しようと考えていた。当時、Musical.lyのユーザーは米国で1000万人。買収の意向を示した企業には豪華な顔ぶれが並んだ。Facebook、YouTubeのほか、中国で勢力を増し始めた快手とバイトダンス(字節跳動)も名乗りを上げた。
最終的には張一鳴氏率いるバイトダンスが10億ドル(約1100億円)近くで買収することが決まる。バイトダンスは傘下のニュースアグリゲーター「今日頭条(Toutiao)」が安定した収益モデルを確立しており、その潤沢な資金に物を言わせた形だ。一方、依然としてコミュニティーの育成に力を注いでいた快手は買収合戦から脱落する。
バイトダンスはMusical.lyをTikTokに改名し、自社の強力なアルゴリズム技術を投入して、中国企業の海外事業としてはかつてないほどの業績を成し遂げた。今や、米国がTikTok最大の市場となっており、シンガポールに本社を設置する話も進んでいる。
米モバイルアプリ調査会社「Sensor Tower」のアプリストアデータによると、ショート動画アプリ「TikTok」とその中国国内版「抖音」は、Facebook系列(WhatsApp、Messenger、Facebook 、Instagram)以外のアプリとしては初めて総ダウンロード数が30億回を突破したという。
しかし今年に入って、快手は海外市場で自分なりの戦い方をつかんできたようだ。快手の2021年第1四半期の財務報告書によると、海外市場の月間アクティブユーザー(MAU)の平均が1億人を超えており、今年4月には1億5000人以上に増加している。現在、全世界における快手の全製品のMAUは10億人で、一方のバイトダンスは19億人だ。
TikTokのコピーではなく、自社の成功を海外で再現
今回の取材の中で、宿CEOは重要な情報をいくつか明かしている。
第一に、上場したことで快手が十分なキャッシュフローを得たことだ。今年初めの香港上場で調達した50億ドル(約5500億円)余りの資金で、ブラジルやインドネシアなどでの事業展開を計画し、TikTokが幅をきかせている米国市場を回避しようとしている。今年末までに、海外チームの規模をこれまでの倍の2000人に増やし、グローバル製品の海外展開を一気に推し進めたい考えだ。
宿CEOはMusical.ly買収で慎重になりすぎたことから教訓を学んだ。今回は十分な資金があり、ライバルのバイトダンスはさまざまな事情から上場延期となっている。まさにチャンスと言えよう。
第二に、快手はTikTokをまねるのではなく、自身の強みを生かして国内での成功経験を海外市場で再現したいと考えている。
宿CEOに言わせると、快手の理念は彼自身の経験と価値観の上に成り立っており、同業他社とは大きく異なっているのだという。快手の海外事業責任者・仇広宇(Tony Qiu)氏の言葉通りだ。「我々のプラットフォームはオシャレなリップシンクやダンス動画ばかりではない。快手は普通の人でも楽しめるものだ」
目下、ブラジルやインドネシアなどの市場を開拓している快手だが、そこではさらに優位に戦えるという。
現在、快手のグローバルアプリにはKwai、Snack Video、Zynnがある。特に成功を収めているのがKwaiで、2021年上半期にはブラジルやメキシコでのダウンロード数が7600万回を超えた。Snack Videoはインドネシアやパキスタンなどでユーザーが増加し始めている。
快手の海外ユーザー1億5000万人のほぼ半数は南米市場のユーザーだが、南米ではTikTokとの正面対決が避けられない。サッカー文化の色濃い南米で勢力を拡大するため、快手は南米サッカー連盟が主催するコパ・アメリカ2021のスポンサーとなり、今後1年間に1000万ドル(約11億円)を投じてスポーツコンテンツの制作者をサポートする計画を打ち出した。
上場以降、快手の株価はピーク時の400香港ドル(約5600円)余りから145香港ドル(約2000円)にまで落ち込んでいる。今年第1四半期のデイリーアクティブユーザー(DAU)の平均は2億9500万人、MAU平均は5億2000万人で、前年同期比5%の増加にとどまっている。ユーザー数の増加がボトルネックに差し掛かっていることは明らかだ。
海外市場の開拓はグローバル企業を目指す快手にとって必要な戦略であり、ユーザー数の伸び悩みという難局を打開するうえでも有効な方策となるだろう。
(翻訳・畠中裕子)
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