IoTフィットネス用品の最先端企業「Move it」が目指す未来

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IoTフィットネス用品の最先端企業「Move it」が目指す未来

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中国広州市にIoT技術を活用したフィットネス用品で有名な企業がある。

広州市迅茄軟件科技有限公司は、2014年12月に設立されたスタートアップ企業だ。その将来性を見込まれ、設立してわずか3年後の2017年には、中国の大手総合家電メーカーの小米(シャオミ)から100万ドル、2019年にはベンチャーキャピタルより200万ドルと、既に多額の資金調達に成功している。

開発したIoT商品は、ダンベル、ボクシンググローブ、フラフープ、縄跳び等、多岐にわたるが、その中でも主力商品は、最初にリリースした「スマートダンベル」だ。

このスマートダンベルは、スマホアプリと連動させデータの蓄積だけでなくトレーナーによる指導も行えるため、効果的にトレーニングできているかも可視化される。そのため家にいながらにして、誰もが正しいフォームで効果的にトレーニングすることが可能だ。このサービス設計の根幹には、開発者の「忙しい人でも健康になれるように」という思いがある。

今回、取材を受けてくれたのは、当初の立ち上げメンバーの一人である香港出身のOscar。Oscarは幼少期より運動が好きで特にテニスが得意だった。その実力は、香港の学生代表選手として、国際試合に参加したほどだ。

ハードワークで体調に異変、起業のきっかけに

Oscarはカナダの大学に進学し電子工学を学んだ。彼は大学院まで進んだ後、当時中国に進出していたアメリカの大手携帯メーカーであるモトローラの中国支社に就職した。

理想の企業に就職でき、やりがいを感じる一方で、就労時間は長かった。ある日、健康診断でコレステロール値等に異常が発見された。運動はもともと好きだったためジムにも入会してはいたが、ほとんど通えていなかった。そもそも毎日が職場と自宅の行き来だけの生活となっており、ワーク・ライフ・バランスが崩れていたのだ。

ある日、同じ大学を卒業した中国人同級生の集まりに参加したOscarは、皆が同じ悩みを抱えていることを知った。皆、学生時代は週2~3回は運動していたが、就職してからは忙しく、Oscarと同じく職場と自宅を行き来するだけの生活になっていたのだ。

そこで彼らは忙しい人でも手軽に健康になれる商品を作ることを決意。2014年、互いに同じ境遇にいたメンバーが集まり「Move it」は始まった。立ち上げメンバーの一人として、Oscarもプロジェクトに参加。この立ち上げメンバーは、全員が海外への留学経験があり、海外での知識・経験を活かし、VC、メーカー、金融機関など各分野で活躍していた。

商品開発に立ちはだかる課題

事業の立ち上げ期、運動不足を手軽に解消するためにスマホアプリを作るという考えはあったものの、スマホのアプリだけでは自分たちが知っている運動のやりがいを利用者に体験させるのは難しい。

そこで考え抜いた末に、当時まだ誰も実現していなかった、トレーニングするための道具とアプリを繋げリアルとバーチャルを融合させる、という方法に行き着いた。

最初に取り組んだのはIoTダンベルの開発だ。この製品開発では、主に二つの課題に直面することになる。

1つ目が精密機器の耐久性だ。振動に弱い精密機器を、ダンベルにどう組み込むか。ダンベルとして使われる以上、上下の運動に強く、落とした時にも衝撃に耐えられる設計が必要だった。

2つ目がバッテリーの取り付けである。ダンベルの運動データをスマホのアプリに転送する以上、ダンベルも充電する必要がある。異なる重さのダンベルを使い分けたいユーザーのために、バッテリーをダンベルから着脱可能にする必要があったが、バッテリーをはめ込む部分が緩すぎたら落ちてしまい、きつすぎるとバッテリーが外せなくなる。また、ただでさえ運動というのは多くの人にとって続けるのが難しいものだ。少しでも利用者の心理的負荷を減らすためバッテリーをできるだけ長持ちさせる必要がある。そこで、ダンベルの機能は必要最低限の運動データの送信のみとし、シンプルな設計にした。

いずれの課題も商品化できるクオリティになるまで幾度もテストを重ねた。自社に開発・設計・テストまでできるメンバーがいたからこそ、圧倒的なスピードでPDCAを回すことができたのだ。

また、事業のコンセプトである「忙しい人でも手軽に健康になれる」を実現するためには、正しいトレーニングメニューが必要だ。そこで、プロのトレーナーによるトレーニングメニューの作成、さらに実際の利用方法を説明する動画の撮影も行い、アプリで視聴できるようにした。

また、一見難航しそうなダンベルとアプリのデータ通信は、Oscarの得意分野であったため、開発は滞りなく進んだ。

商品の開発には約1年半の時間を要した。創始者のIvanがソフトウェアを開発し、メンバーの1人が大手外資企業の生産管理をしていたことから、商品の量産化に至るまでは早かった。

初クラウドファンディングで収めた「成功」

2016年10月、Oscer達は手始めに米国で有名なクラウドファンディングサービスのINDIEGOGOで販売を始めることにした。

結果は大成功だった。この商品は市場に受け入れられたのだ。

世界中の多くの人が運動習慣を身に着けたいと考えているが、運動習慣のない人が自宅で本格的なトレーニングを行うことは難しい。続けるための気力はもちろんのこと、結果に結びつけるための正しいフォームがわからないためだ。そうした、多くの人がぶつかるであろう課題を解決することができる「スマートダンベル」には、当然のごとく初月で700件以上の注文が入った。

この成功から、スマートダンベルに大きな可能性を感じたOscer達は、更に販路を拡大すべく、投資会社を探すことにした。ベンチャーキャピタルに勤めていたメンバーがコネクションと経験を活かし、出資者を募ることにした。そこで早々に出資の名乗りを上げたのが小米だ。当時、小米はスマートフォン事業以外に、家庭用のIoT商品の開発にも力をいれていた。Move itのクラウドファンディングにおける成功を知った小米は、自社開発ではなくMove itに投資し、自社の販売ルートを使ってMove itが開発した商品を販売することにしたのだ。小米から100万ドルの出資を受け、さらには販売ルートを拡大できた影響力は大きく、一気に販売台数を伸ばし、Move itはその名を中国全土に広めていくことになった。

マッチング可能なフィットネスプラットフォーム目指す

現在、Move itの商品は中国だけでなく、日本・アメリカ・ヨーロッパなど10か国以上で販売されている。

ダンベル以外の商品も続々と開発・販売されている中、同社は次のビジョンを見据えている。それは、より手軽に確実な運動を行うことができるプラットフォーム作りだ。

Move itは今、トレーナーとトレーニングしたい人をリアルタイムでオンラインマッチングさせるプラットフォームを開発している。こうした仕組みさえあれば、トレーナーはジム等に所属する必要がなくなり、個人トレーナーとして活動が可能となる。また、トレーニングしたい人もスキマ時間に自宅で気軽にトレーナーから指導を受けることができる。このシステムにより、自分にとって必要なトレーニングを細かく指導してもらえるようになり、より健康的な体作り・体力維持につなげることができる。

全てを圧倒的なスピードで進める中国の開発力

プロジェクトの開始から商品化まで1年半というと、かなり早いと思うかもしれないが、市場の変化が速い中国では実は一般的なスピード感だ。専門分野を持つメンバーを集めて、早急に開発した結果である。

またMove itの場合、クラウドファンディングという、ベンチャー企業でも参入しやすいプラットフォームで大きな成功を収めており、そうした実績があったため初期から多額の投資や販売ルートの斡旋を受けることに成功している。

開発力や人脈があっても実績は簡単には作れない。自分たちでできる小さな成功体験から次のステップに上がるというやり方は、日本企業の新規事業やベンチャー企業にとっても参考になるだろう。

■ 執筆者
三井 元(ミツイ ゲン)
株式会社クララオンライン コンサルティング事業部 コンサルタント

中国人民大学 経済学院 卒業。
長野県出身、高校から単身中国に渡り、2002年から2018年まで中国で生活。大学卒業後は、現地の法律事務所でクライアントマネージャーとして、法律コンサルティング業務に従事、香港及び中国大陸で起業経営。現在は、主に中国進出戦略の策定と事業リスクに関わる中国法規制領域を支援。

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