NVIDIAとAMDに高性能GPU対中輸出規制。BATのクラウド事業大打撃か

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

大企業注目記事

NVIDIAとAMDに高性能GPU対中輸出規制。BATのクラウド事業大打撃か

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)とAMDは8月31日、米政府から一部の高性能GPUの対中輸出を停止するよう通達を受けたことを相次いで明らかにした。対象となるのはNVIDIAの「A100」「H100」およびこの2種類のチップを使用するシステム、さらにAMDの「MI250」だ。

GPUとは画像処理装置のことで、主に画像処理や汎用計算に用いられる。画像処理はもともとCPUが担っていたが、NVIDIAとAMDの2社が画像処理に特化したGPUを開発し、巨大市場に成長した。GPUはAI産業に欠かせないチップであり、データセンターやスーパーコンピューター、エッジコンピューティングなどの分野で活用されている。

国家間の技術競争の裏では、利害が渦巻いている。輸出規制の報道後、NVIDIAとAMDの株価はいずれも下落した。中国のスーパーコンピューター業界やIT御三家BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)は緊急に代替品を手配する必要に迫られ、長期的なサプライチェーンの安全性に対して警鐘が鳴らされる事態となった。

一方で、ここ数年に誕生したばかりのGPUスタートアップにとっては「朗報」と言えよう。GPUスタートアップの創業者は「GPUの国産化を進めるうえでの、大きな節目となる出来事」と語る。

スパコン狙い撃ち、BATのクラウド事業は大ダメージ

今回の輸出規制の対象となったGPUは基本的に、64ビットを使用する「倍精度浮動小数点(FP64)」演算が可能なハイエンド製品だ。使用するビット数が大きいほど精度が高く、より複雑な演算に対応できる。一般的にFP64はスーパーコンピューターの重要な指標であり、主に天気予報や天体物理シミュレーションなどの科学計算に活用されている。輸出規制が報じられたことで、中国政府や研究機関のスーパーコンピューターへの影響が危惧されている。

さらにBATを含む大手インターネット企業も軒並み大打撃を被ることになる。現在、中国ではほぼ全てのクラウドサービスベンダーが、データセンターのAIコンピューティングにNVIDIA A100チップを採用しており、NVIDIA側が発表した顧客リストの中にはアリババやテンセント、バイドゥ、浪潮(Inspur、インスパー)、レノボなどの大企業が含まれている。

例えばバイドゥのクラウド事業部門「百度智能雲(Baidu AI Cloud)」は、同社の法人向けAI戦略の立役者として、すでにスマート金融、スマートシティ、スマート製造業、スマート医療などの分野で実用化されている。この膨大なコンピューティングとAIのニーズを満たすため、バイドゥは以前からGPUにNVIDIA A100を採用してきた。

アリババもすでに医療や金融、製造業などの分野でNVIDIA A100を使用しており、テンセントはデータ分析や動画分析の分野に導入している。

現在、全ての面でNVIDIA A100の代わりを務められる中国製品はまだ存在しない。ある業界関係者は、BATを含むインターネット企業にとって、まだ規制を受けていないNVIDIAのローエンドGPUに切り替えることが1つの選択肢になるのではと語る。

NVIDIA創業者のジェンスン・フアン氏は、輸出規制のニュースの直後すぐさま解決策を示し、顧客のニーズを満たすため最高の代替品を用意する考えもあることを示した。しかし、A100のフル性能を必要とするような高負荷の処理の場合「代替品では明らかに不十分だ」とも認めている。BATがNVIDIAのローエンドGPUで本来の演算能力や処理速度を実現しようとすれば、消費電力や占有面積が増え、結果的に運用コストの増加を招いてしまう。

NVIDIAの失速で生まれるチャンス

基盤技術を巡る両国間の争いは、半導体大手のNVIDIAとAMDにとっても手痛い一撃だ。

単体GPUの世界市場ではNVIDIAが81%のシェアを獲得したが、ゲーム業界の冷え込みや暗号資産市場の暴落に伴い、同社のゲーミング事業の売上高は2022年5~7月期に33%減少した。主力事業にたびたびブレーキがかかるなか、輸出規制を受けたデータセンター事業がNVIDIAの業績をけん引する重要な柱となっている。同じ5~7月期に、データセンター事業の売上高は前年同期比61%増の38億ドル(約5500億円)となり、全体の収益の6割を占めた。

加えて中国はNVIDIA、AMD両社が最も重視する市場だ。NVIDIAの場合、2022年会計年度(2021年2月~2022年1月)の売上高270億ドル(約3兆9000億円)のうち、中国市場の売上高は全体の4分の1を超える71億ドル(約1兆円)に達している。AMDもほぼ同様の状況だ。

今回の新たな輸出規制がNVIDIAへ与える打撃は大きく、短期的には売上高にも影響が出るとみられる。NVIDIAは8~10月期の業績予想のなかで、中国メーカーがA100やH100の代替品を購入しない場合、中国市場での損失額は4億ドル(約580億円)近くに上ると語った。

視点を変えると、中国のGPUスタートアップにとっては絶好のチャンスといえる。中国GPU企業の関係者によると、これまでBATを含む企業は国産GPUの導入にそれほど前向きではなかったが、今回の件でGPUサプライチェーンのリスク管理に注目が集まり、国産GPU受け入れに対する市場の認識が高まったという。

中国のGPUメーカーはこれまでNVIDIAに追いつこうと必死に走ってきた。NVIDIA A100のリリース後、理論値ではA100に匹敵する演算性能の製品が複数の中国スタートアップから発表されている。

もちろん潜在的なリスクも無視できない。中長期的な状況は依然として警戒が必要であり、国際関係における次の政策を注視していなければならないと、前出の関係者は語る。とはいえ、中国のGPU産業全体がさらに速度を上げて猛追するべき時であることは間違いない。
(翻訳・畠中裕子)

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録