人工衛星によるCO2観測進む中国、「データ活用」が最大の課題に

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中国政府が脱炭素政策「ダブルカーボン(双碳)」目標を掲げてから、さまざまな業界で二酸化炭素(CO2)排出削減のニーズが増大している。このニーズを満たす第一歩はCO2の量を正しく知ること、つまりCO2データのモニタリングと収集だ。

業界では人工衛星を活用した試みが進んでいる。中国は8月4日、炭素観測衛星「句芒号」を搭載したロケット「長征4号乙」を打ち上げた。この地球観測衛星は森林の高さや面積、植物が放出するクロロフィル蛍光などを観測し、これらの要素から森林が吸収・貯蔵できるCO2量を示す「炭素貯留量」を算出することができる。

人工衛星を活用した観測は成熟した方法となっている。現在のところCO2吸収量を追跡する中国のデータ会社の多くが、海外の衛星データを利用している。「句芒号」は中国でも数少ないCO2検出用の人工衛星としてピンポイントの情報を取得でき、中国の炭素モニタリングがリモートセンシング時代に突入したことを印象づけるものとなっている。

句芒号のCO2観測の仕組み

中国はこの数年、いくつもの地球観測衛星を打ち上げてきた。2016年に最初のCO2観測用人工衛星を打ち上げ、今年4月にもレーザーでCO2濃度の変化をモニタリングする衛星を打ち上げた。

句芒号は森林の炭素貯留量を計測することに焦点を当てて設計された。レーザーと光学カメラを活用したこの計測方法では、レーザーの反射から森林の高さを算出するとともに、赤外線や紫外線などを検出するマルチスペクトルカメラで植生分布を立体的に描き出し、森林の生育状況を確認できる。

また、句芒号には森林の光合成やPM2.5の数値を測定できる検出器や画像生成器が搭載されている。いずれも森林の観測を想定したもので、樹木の高さや直径から樹木1本当たりの炭素貯留量を算出することができ、森林全体の炭素貯留量を把握できるようになっている。

人工衛星の作動イメージ動画(動画:航空五院)

ただ、現時点で人工衛星が一度に計測できる範囲や観測周期など、民間データ会社にとって最も重要な指標のいくつかは非公開のままだ。

CO2データサービスを提供する「行星数拠(PlanetData)」の白純鈺CEOによると、CO2排出権取引を目的としてCO2データを購入する顧客は、取引する炭素資産を必要に応じてモニタリング・分析できるかどうかにこだわるという。そのためには人工衛星のデータを素早く処理することが必要だが、中国ではこの分野を手がける企業はごくわずかであり、主要データが全て公開されたとしても、それをすぐさま活用するのは困難だ。

中国国内のCO2排出権取引で参考にされるリモートセンシングデータは、多くが海外に依存している。句芒号のデータが公開されたとしても、現在世界で打ち上げられている炭素観測衛星の数では、データ更新のニーズを満たすのは難しい。リモートセンシングによるCO2データ分析を手がける企業にとって、この「データ不足」が頭痛の種になっている。

解決にはほど遠いデータ活用の問題

中国の人工衛星や航空宇宙技術は世界のトップクラスに比肩する。しかし、衛星が収集した情報をいかに迅速に処理して、一般のビジネス客が必要とするCO2データを作成できるかがより重要になる。

とはいえ中国の衛星データを利用するのは多くが国の研究機関で、地球規模の変化や国家レベルのニーズに注目しているため、市場におけるビジネス利用と方向性が異なる場合が多い。このため衛星打ち上げ能力のないデータ活用企業は、データを入手できても、その活用場面は非常に限られたものとなってしまう。

世界のCO2排出権取引市場が現在急成長しており、2021年の取引額は前年の2.6倍となる7600億ユーロ(約110兆円)に達した。今後もさらなる増加が見込まれ、CO2排出量や貯留量のデータに対するニーズもますます高まることが予想される。

短期的にみれば、炭素観測衛星の打ち上げに関して中国は十分な実力を備えていると言える。しかしビジネス面ではさらなる補強が不可欠だ。各国また各企業にCO2データが必須となる時代が到来したとき、膨大な数の商業衛星企業やデータ活用企業がそろっていて初めてそのニーズに応えることができるだろう。
(翻訳・畠中裕子)

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