バフェット氏の売却で株価急落。中国BYD、成長維持に欠かせない新たなストーリーとは

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著名投資家ウォーレン・バフェット氏が、中国電気自動車(EV)大手「比亜迪(BYD)」株の保有を減らし始めた。同氏の率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイは8月24日、保有するBYD株のうち133万株を売却、1株当たりの平均売却価格は277.1香港ドル(約5100円)で、売却額は約3億6900万香港ドル(約67億8000万円)に上った。8月25日から9月1日にかけて、さらに171万6000株を売却し、1株の平均売却価格262.72香港ドル(約4800円)で、約4億5000万香港ドル(約82億7000万円)を現金化した。

バフェット氏は2008年9月にBYD株(1株あたり8香港ドル)2億2500万株を約18億香港ドル(約330億円)で取得。これまでの14年間で、売却したのは初めてのことだ。公表されているのは、バフェット氏が持ち株を300万株減らしたという事実だけだが、市場はさらなる株式売却の先触れではないかと懸念している。

持ち株比率の全体的な変化を見るに、バフェット氏の売却にはまだ開示されていない部分があると見られる。香港証券取引所の開示規則では、大株主の持ち株比率が一定の割合を超えて増減した場合にのみ開示することになっている。つまり、バフェット氏の株式売却に遅れて情報が開示されるということだ。

BYDは駆動用電池(ブレードバッテリー)、ハイブリッド技術(DM-i)、EVプラットフォーム(e3.0)という技術的リードで、1株当たりの株価を350元(約7200円)まで上げ、時価総額は1兆元(約20兆円)を突破、その後は300~350元(約6100~7200円)で推移してきた。それがバフェット氏の売却後には一気に300元を割り込み、9月27日時点では1株当たり273元(約5500円)、時価総額は7975億元(約16兆円)となっている。

これまで駆動用電池、ハイブリッド技術、EVプラットフォームに頼って蓄積してきた優位性は徐々に崩れつつあり、新エネルギー車の販売台数だけではもはや株価の急成長を支えられなくなっている。BYDの時価総額を支えるために、創造力に富んだ新たな成長ストーリーが必要となっている。

新たなストーリー:スマート化、海外進出、高級路線

現時点で、BYDの株価低迷の打開策となりそうなストーリーは3つ、スマート化、海外進出、高級路線だ。このうち後者2つについては、中間決算ですでに方針が発表されている。

昨年夏から1年のうちに、BYDは15の国や地域に進出を果たした。これは過去数年をかけて進出した国に並ぶ数だ。今年8月末時点で、BYDの乗用車は32の国や地域で販売されている。同社の王伝福董事長の言葉を借りれば、今年は海外展開における重要な年になるという。

BYDはドイツや日本、スウェーデンなど伝統的な自動車立国に進出するだけでなく、日本車が9割以上を占める東南アジアを始め、まだ市場が十分に発展していない中東やアフリカなどの新興市場への参入も計画している。米国はEV・バッテリーともに国内産を義務づける排他的な政策があるため、現時点では進出を考えていない。

2021年以降、BYDは広東省深汕特別合作区や広西チワン族自治区南寧市など、港に近い土地を自動車産業パーク建設用地として大量に購入してきた。生産能力はすでに完成車30万台およびバッテリー45ギガワット時を備えている。

海外市場の需要にすぐさま応えるため、BYDは輸送用の船舶を自社で購入する準備まで進めている。報道によるとBYDは現在、1隻8400万ドル(約120億円)の自動車運搬船を6~8隻購入することで交渉を行っており、2025年以降に順次納品される見込み。

高級路線については、メルセデス・ベンツとの合弁メーカー「騰勢(Denza)」の全株式を取得して同ブランドを傘下に収め、販売部門や流通体制を立ち上げた。8月に発売された第1号モデル「騰勢D9」は、予約価格が33万5000~46万元(約670万~920万円)と、BYDで販売中の高級車「漢(Han)」シリーズよりさらに高い価格帯となっている。別の高級車ラインも今年末に発表され、100万元(約2000万円)を超える高級オフロード車も同時に登場する予定だ。

一方で、スマート化事業はBYDが比較的遅れている分野だろう。この点で最も成功しているのはテスラだ。テスラは2019年からチップやコンピューティングプラットフォームを自社開発に切り替え、オートパイロットシステムを「フルセルフドライビング(FSD)」に移行するとともに、サブスプリクション(定額課金)型のビジネスモデルを切り開いた。FSDは今年3月にバージョン10.11へと更新され、価格は9月5日に1万5000ドル(約215万円)に値上げされた。

FSDの浸透率と価格の推移

今後、テスラの時価総額8000億ドル(約115兆円)を支えていく柱となるのは、純粋な自動車販売ではなく、既存ユーザー向けの継続的なOTAアップデートによる収益だろう。しかもスマート化したことで、ソフトウエアの更新によりカーオーナーの利用体験を絶えず向上させることができる。国信証券の試算によると、テスラのソフトウエアやスマートドライビング関連事業は同社の時価総額のうち80%以上を占めるという。中国では理想(Li Auto)や蔚来汽車(NIO)がこれに倣い、あらかじめ高性能のハードウエアを組み込んでおき、後からソフトウエアへの課金で収益を上げるテスラ方式を採用している。

話をBYDに戻すと、業界で最初に「前半戦はEV化、後半戦はスマート化」を唱えたのは王伝福董事長だが、同社はスマート化に対して「あればなお良い」という保守的な姿勢にとどまっている。コストパフォーマンス維持のため、BYDに標準装備されているハードウエア性能も比較的低いものだ。

BYDは全面的なスマート化の前に、ドメインコントローラーとシャシーバイワイヤ技術の確立を目指していると、ある業界関係者は語る。これはBYDが過去に行った垂直統合とも一致しているが、前述の2つの基盤技術は幅広い産業に関わるため、1社だけでどうにかなるものではない。

昨年2月以降は、AIチップメーカー「地平線機器人(Horizon Robotics)」やLiDAR開発企業「RoboSense(速騰聚創)」への出資、自動運転スタートアップ「Momenta」との合弁会社設立、バイドゥと自動駐車システム開発に関する緊密な提携など、積極的な動きを見せてきた。とはいえ現時点で、自動運転の分野で技術的優位を築くまでには至っていない。
(翻訳・畠中裕子)

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