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9カ月に及んだ買収劇がついに幕を下ろした。
テンセント(騰訊)がゲーミングスマホメーカー「Black Shark(黒鯊)」を買収する計画だと報じられたのは今年初め。買収後、Black Sharkはテンセントの任宇昕氏が統括する「プラットフォームおよびコンテンツ事業グループ(PCG)」に統合される予定だと関係者が明かしていた。
しかし最近の情報によると、テンセントはすでに買収を断念したという。この決定により、Black Sharkは組織調整を迫られ、大規模なリストラが行われている。事情に通じた人物によると従業員の半数近くが解雇となり、特に大きく削減されたのが今年設立されたばかりのVR部門だという。
この件について、Black Shark側は「ノーコメント」としている。
Black Sharkはテンセントに統合された後、VR分野に注力する計画だった。そのため、過去10カ月間にVRチームの拡大を進め、技術スタッフを大規模に募集してきた。しかし今では、同社のウェブサイト上でこれらの採用情報を見ることはできなくなっている。
今回の買収が成立しなかった大きな原因の1つは、ゲーミングスマホ部門で出荷台数トップを誇るBlack Sharkに「独占的行為」の疑いがあり、関係当局から申請の許可が得られなかったことだという。
加えて、テンセントは2022年第2四半期(4~6月)の純利益が前年同期比56%減と大幅に減少したことから、コスト削減と効率化のため、同四半期から非中核事業の撤退と営業費用の削減を進めてきた。テンセントにとって、苦手なハードウエア分野はいったん脇に置き、まずは収益が落ち込んでいるゲームや広告事業のテコ入れをすることが当然の選択といえるだろう。
VR・AR事業の模索を続けるテンセント
VRで最も重要なのは、ハードウエアとコンテンツ・エコシステムだ。テンセントの強みは、膨大なSNSユーザーとスティッキネス(粘着性)の高いゲーム・エコシステムであり、メタバースへの入口を除いて全てがそろっている。テンセントがBlack Sharkの買収を決めてVR分野に乗り出そうとしたのも、欠けている入口部分を補完するための重要な措置だったのだ。
しかし買収が頓挫したことで、ゲーミングスマホ以外にVRという新たな方向性を探るBlack Sharkの夢は砕け散った。メタバース参入を進めたいテンセントもBlack Sharkという足がかりを失い、別のルートを切り開く必要に迫られている。
テンセントは今年6月、ソフトウエアとハードウエアを一元化したXR(クロスリアリティ)事業部門を立ち上げ、インタラクティブ・エンターテインメント事業グループの一部とした。同時にゲーム、文学、アニメなどのコンテンツ部門もこの事業グループに統合した。
テンセントの高級副総裁・馬暁軼氏は先ごろ行われたインタビューで、今後4~5年をめどに「ソフトウエアやコンテンツ、システム、ツール、ソフトウエア開発キット(SDK)、ハードウエアなどにおいて積極的な試みを進め、業界のベンチマークとなるVR製品やVR体験を生み出していく」と明言している。
業界関係者の話によると、買収計画の失敗後もテンセントは新設したXR部門を拡充するため、Black Sharkを解雇されたVRチームメンバーに接触しているほか、VR・AR企業の調査も依然として継続しており「XRスタートアップとの接触も続けている」という。
(翻訳・畠中裕子)
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