「第2のアップル」を狙って 中国の大手企業、VR・AR投資に熱視線

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世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」が米ラスベガスで1月5~8日に開催された。メタバースが盛り上がりを見せる中、最も注目を集めた分野は間違いなくAR(拡張現実)・VR(仮想現実)だろう。世界中から出展した3100社のうちおよそ10分の1がXR(クロスリアリティ)関連の企業だったという。ウェアラブルデバイスメーカーの米「Magic Leap」、中国の「雷鳥創新(Thunderbird Innovation)」なども最新のARソリューションを展示している。

中国ではAR・VR産業に対する政策面のバックアップも強化されてきている。中国工業情報化部など5部門は昨年11月、「仮想現実と業界応用の融合発展行動計画」を発表した。その中で「2026年に中国のVR産業の規模を3500億元(約6兆7200億円)以上に育て、VRデバイスの販売台数を2500万台以上にする」と、明確かつ急進的な目標を設定している。一方、IT専門調査会社IDCのデータによると、22年上半期の中国のAR・VRデバイス出荷台数は59万台だった。

「工業情報化部の文書が発表されると、多くの投資マネージャーが直ちにアクションを起こした」。現在シリーズCで資金調達を計画中で、設立何年にもなるXRデバイスメーカーの共同創業者はこう話している。あるデータによると、中国では22年、AR用光学、ディスプレイ、OS、インタラクション、専用チップ関連などVR・AR分野の資金調達案件は112件に上り、調達総額は100億元(約1900億円)を超えたという。

AR関連産業で最も活発な分野は光学部品とニアアイディスプレイだが、これらはARデバイスで最も多くの技術が集約され、最もコストがかかる。

光学部品では昨年以来、「耐徳佳顕示技術(Ned)」「恵牛科技(Huynew Technology)」「鯤游光電科技(North Ocean Photonics)」「至格科技(Greatar Tech)」「霊犀微光科技(Lingxi-AR Technology)」「光舟半導体技術(Optiark Semiconductor Technology)」「瓏璟光電科技(Lochn Optics)」などが資金調達を実施した。

一連のARブームに対する投資家の一致した感想は「お金がかかる」である。昨年以来、中国のAR用光学ソリューションプロバイダーは揃って評価額10億元(約190億円)を突破した。調達額が最高だったのは鯤游光電科技で、直近の資金調達シリーズでは評価額が21億元(約400億円)となり、この3年で5倍になった。

評価額の高さとは対照的に、大部分の光学部品メーカーは技術の予備研究段階を終えたばかりで、まだ大口受注を獲得してはいない。ある投資家は「みんなが出資しているのはARの未来に対してだ」と述べ、「ARは遙か先の世界にあるもので市場も巨大だ。これはリスクには相応の対価を払わなければならないことを意味する」とする。

光学部品メーカーへの出資者を見ると、消費者用電子機器メーカーやITジャイアントなど大手企業の名が並ぶ。レノボは耐徳佳顕示技術に、シャオミ傘下の「小米長江産業基金(XIAOMI Yangtze River Industrial Fund)」やOPPOは至格科技に、ファーウェイ傘下の「哈勃科技投資(Hubble Technology Investment)」は鯤游光電科技に、テンセントとバイトダンス(字節跳動)は光舟半導体技術に出資している。

ARはさまざまなバックグラウンドを持つ大手企業がすがりたい「藁」なのか。あるいは誰もが「第2のアップル」になるチャンスを逃したくないがためにARに参入するのか。ある業界関係者は「スマートデバイスの次世代プラットフォームはすでに幕を開けている」と述べ、「来たるAR時代は、中国や米国などに代表されるマーケットから2社あるいはそれ以上の数のリーディングカンパニーが生まれるだろう。スマートフォン時代は米国が先導したが、AR時代は中国企業が追う立場に甘んずることなく一歩先を行かれるだろうか?」と投げかけた。

バイトダンスやテンセントなどコンテンツに強い大手企業は、インターネットトラフィックをめぐるこれまでのエコシステムに限界を感じはじめており、成長を続けるためには新たな力点を探り出すことが急務になっている。スマートフォンなどのデバイス業界は2017年に下り坂に入りはじめ、22年にはついに出荷台数が大幅に減少。機種変更のサイクルも出荷台数も10年来で最低の水準となった上に、次の成長戦略が定まっていないメーカーはここで脱落や退場を迫られる事態になっている。

15年にMagic Leapが最初の製品デモ動画を公開して業界を騒がせた。同年の中国では動画再生ツールなどを手がける「暴風集団(Baofeng Group)」が上場を果たすと連続37日のストップ高を記録した。こうして第一次VR・AR起業ブームが興り、数百社の企業が誕生したのだ。しかし、18〜19年に入るとブームは急速に沈静化し、生き残った企業も現在では両手で数えられるほどになった。

淘汰の大波にさらされて一度は自信を喪失し、現在改めてXR分野に参入してきた投資家たちは、大方が恐る恐る歩を進めている恰好だ。

ARヘッドセットの16〜23年の出荷予想

「当初、投資家が海外企業のMagic Leapにこぞって投資したのは、実質的には『第2のアップル』に賭けたことになる」。レノボ傘下「聯想創投(Lenovo Capital)」のパートナー王光熙氏はこう述べる。さらに「数億ドル(数百億円)を溶かしてみんな徐々に気づいた。ARはチャレンジングであり、多額の浪費が伴う分野で、失敗に終わる確率は99%にもなるということに」と続けた。

ARは相当に難しいジャンルだ。王光熙氏も「まだ多くの投資家がメガネやゴーグルといった製品形態の合理性に疑問を感じている。眼の周辺に装着するデバイスには重さ、安全性、性能に求められる条件が数倍も高くなるため、まだ多くの人が様子見状態だ」と述べる。

スマートフォンやパソコンといったスマートデバイスは数十年の歴史の中で性能進化のプロセスを踏んできている。ユーザーもその分、豊富な使用経験を積んできている。ARはこのような境地にはまだ遠く及ばないところにいる。

しかし同時に「ARは過去最大の可能性を持つジャンルの1つで、ビジネス的にはスマートフォンに取って代わる可能性の最も高いジャンルである」との共通認識が現在はほぼすべての人に形成されている。スマートフォンは消費者用電子機器の中でも最も完璧な製品カテゴリーだ。高単価で交換サイクルも比較的短い。ユーザーの立場からすれば、情報密度に対する欲求は高まるばかりだ。スマートフォンの画面は最大でも7インチほどだが、バーチャルとリアルを結びつけるARグラスにはさらに多くの情報を集約できる。

確かに言えるのは、AR分野は徐々に好循環に入ってきている。光学部品やディスプレイなどのコア部品が揃いはじめ、100億ドル(約1兆3000億円)単位の資金が流れ込み、関連政策も整備されてきている。ただ、はっきりさせておくべきは、ARグラスが製品として成熟するまでの時間はこれまでのいかなる汎用コンピューティングプラットフォームよりも長くなるだろうということだ。複数の投資家は「ARが真に普及するまであと10年。向こう3年が消費者向けARデバイス登場の重要な時期になるだろう」と述べている。

(翻訳・山下にか)

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