「故郷の味を日本で」66歳で飲食業挑戦を可能にした埼玉のシェアキッチン【中華ビジネス戦記】

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初期費用をかけず、トライアルとして飲食業に挑戦したい人向けにシェアキッチンが注目されているが、その波がガチ中華にも押し寄せている。ガチ中華ブームで都内の池袋や高田馬場、上野などに店舗が増えているものの、これら“一等地”では出店費用がかさみがちだ。シェアキッチン「We Kitchen」は、手持ち資金の少ない飲食店開業希望者を応援しようと埼玉県の蕨(わらび)に昨年オープンした。一つの建物の中に複数のキッチンが設置され、フードデリバリーやテイクアウトを中心に、さまざまなご当地メニューが提供されている。

リスク下げて飲食店に挑戦

We Kitchenは埼玉県のガチ中華のメッカ、西川口から1駅先の蕨駅徒歩数分の場所に位置している。鮮やかな黄緑色の壁に囲まれた店内には中華料理のメニューが貼られ、カウンター席が3席とテーブルが1つ設置されている。

店内にはイートインスペースもある

店内でしばらく待っていると、フードデリバリーの配達員が料理を取りにやってきて、できたての中華料理を受け取った。We Kitchenはフードデリバリーをメインとしながらも店内飲食、テイクアウトもできるようになっている。

オーナーの陳さん(左)と営業部長の望月さん

We Kitchenを経営する陳震さんは中国出身で、20年前に来日し飲食店の経営に長く携わっている。通常、日本で飲食店を開業するには初期費用で数百万円かかる。さらにコロナ禍では人材が確保しにくくなったり緊急事態宣言等で客が入らなくなるなど、飲食店経営のリスクが高まった。先行きが読みにくい状況下でも飲食店を開業したい人は一定数おり、陳さんはそんな人たちをサポートしたいという思いから2022年4月にWe Kitchenをオープンした。

独立したキッチンが9つ設置されている

筆者が留学していた上海では2016年にはすでにフードデリバリーが普及しており、デリバリーに特化したシェアキッチンが登場していた。陳さんは中国で成長していたそのビジネスモデルを日本でも展開することにした。

蕨を選んだのは、フードデリバリーを日常的に使う中国人が多く住んでいるからだ。西川口にはガチ中華の店が多く集まっていて、中国人居住者が多い。また、蕨には外国人の多く暮らす芝園団地があり、団地で暮らすおよそ5000人のうち半数が外国人で、その多くを中国人が占めている。さらに蕨駅の周辺は現在、再開発の真っただ中にある。We Kitchenから徒歩1分の場所では28階建てのマンション兼商業施設が建設中で、駅の周りを歩くと他にも数棟のマンション建設が進んでいた。「今後、さらに蕨周辺は発展し人口が増えると見込まれているので、今から蕨でビジネスをすることはチャンスだと思い都内ではなくあえて蕨を選びました」(陳さん)

蕨にある芝園団地。中華料理店や中華物産店なども出店しており、団地内を歩くと中国語も聞こえてくる。

We Kitchenは出店する店舗から月額のキッチン利用費と売り上げの一部を管理費として受け取り、キッチンの貸し出しとフードデリバリーの出店サポートや配達の引き渡しなどの管理業務を行なっている。営業部長の望月昭宇さんは「We Kitchenでは独立キッチンにガスや水道も用意されているので、早ければ契約後から1ヶ月ほどで出店することが可能です。自分の店を持ちたいけれど、いきなり多額の投資をして出店するのはリスクが高いと感じる人が、自分の料理が通用するか試したいという思いで契約されるケースが多いです」と語る。

店の外の看板。出店企業を募集していた

日本人の店も入居

キッチンは9区画。2月末時点でそのうち5つが埋まっており、4店舗は中華料理を提供する店だ。マーラータンに小籠包、羊肉スープ、羊肉串、もみじの冷菜など小吃(軽食)を中心に魅力的なガチ中華のメニューが並ぶ。日本人が経営する店舗も1店入店しており、カレーやハンバーグなどを提供していた。飲食店の開業に必要な食品衛生責任者の許可や、営業許可はWe Kitchenに出店しているそれぞれの店舗が取得しているという。

2022年12月からWe Kitchenに入店している「高さんの食堂」のオーナーの高さんは出店している店舗で最高齢の66歳だ(20代から60代まで幅広い世代が入店している)。「We Kitchenは実店舗を開くよりも手続きがしやすく、初期費用が安かったのが魅力的でした。日本に来てから30年以上経っていて、スマートフォンの設定などは自分でできないことも多いのでフードデリバリーの出店登録の代行を手伝ってくれることもありがたいです」と話す。

シェアキッチンの1区画で調理をする高さん。筆者が頼んだ桂林米粉を作っている。

高さんの出身地である広西チワン族自治区の郷土料理である桂林米粉を注文してみた。米線(ライスヌードル)や煮込み牛肉、酸豆角(発酵ササゲ)などは全て自家製で作っているそうだ。米線が隠れるほどたっぷりのった牛肉はスパイスが染み込んでいて柔らかく、発酵唐辛子のソースの辛さがピリリと効いていてツルりとした食感が特徴的な米粉とよく合う。広西チワン族自治区の料理を始め、各店のオーナーが作るいろいろな種類のガチ中華が食べられるのもシェアキッチンだからこそのメリットだろう。店内で食事をしていた20代の中国人カップルは「電車で数駅の場所に住んでいるのでよく食べに来ます。マーラータンがとても美味しくて故郷の遼寧省で食べていたのを思い出します」と話してくれた。

桂林米粉

望月さんによると店内で飲食する客もいるものの席数が少ないため、売り上げの多くを占めるのはフードデリバリーでの注文だそうだ。We Kitchenがある蕨エリアは日本人ユーザーが多いUber Eatsや出前館、menu、Woltに加え、中国系フードデリバリーアプリのHungry PandaやHAYAなど6つのフードデリバリーアプリの配達圏内だ。6つのプラットフォームに出店できることも客の目に留まる機会の増加につながっている。

中国国内ではもはや無くてはならない存在になったフードデリバリー。配送料や手数料が高い日本でも変わらず利用する中国人に豊かさを感じてしまうが、その影響もあって日本に暮らす中国人向けのデリバリーサービスやデリバリーに特化したシェアキッチンが登場しているのだ。今後、フードデリバリー特化型のシェアキッチンは都内でも増えていくかもしれない。

(作者:阿生)

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