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米電気自動車(EV)大手テスラは、メキシコに建設する新工場に上海工場のサプライチェーンをそっくり持ち込もうとしているという。
36Krの取材によると、テスラはメキシコ工場の新設にあたり、中国の多くのサプライヤーに対し働きかけを行っているという。ある関係者は「サプライヤーの中にはメキシコ現地に工場を建設するよう求められている企業もある」と話した。また、テスラはサプライヤー側に時間的猶予を持たせず、すぐにでもオファーに応じなければ「数億元(数十億〜百数十億円)もの大口受注を失う可能性がある」という。
実際、今年に入ってからテスラの一部サプライヤーがメキシコ工場建設計画を発表している。自動車部品メーカー「旭昇集団(Xusheng Group)」は今年3月末、最大2億7600万ドル(約390億円)を投じてメキシコに生産拠点を建設すると発表。5月下旬にはメキシコ北部コアウイラ州で新工場が着工した。同プロジェクト関係者によると、順調に進めば工場は来年7〜8月に稼働を始めるという。
川上の製造装置メーカーもこれに追随している。36Krの取材によると、中国の複数の生産設備メーカーがすでにメキシコにオフィスを設け、設計やアフターサービスなどの業務を行っている。テスラのサプライヤーで責任者を務める人物は「メキシコは現在ホットな投資先で、多くの顧客が進出して来ている」と述べ、一部のサプライヤーは生産ラインのワーカーごと連れてきてメキシコに工場を建設していると話した。
テスラは今年の投資家向けイベントで、新たなギガファクトリーをメキシコ北部ヌエボ・レオン州モンテレイに建設すると発表した。新工場は今後、生産の主力を担うことになる。メキシコ政府高官によると、新工場への投資額は50億ドル(約7000億円)以上で、生産能力は100万台になる見通しだという。しかし、建設用地からすると生産能力はそれ以上になるとみられる。
テスラが将来的に発売を予定している低価格モデルは年産400万台を目指しており、北米の工場でその半分を生産する計画だが、北米工場の主力がメキシコの新工場になると考えられる。
生産能力を確実なものにし、粗利率を上げる鍵は優れたサプライチェーンだ。テスラは上海にギガファクトリーを建設してから、現地で安定したサプライチェーンを築いてきた。テスラは2022年に世界市場で131万台を納車したが、そのうち71万台以上が上海工場で生産されたもので、上海工場は28.5%の粗利率達成にも貢献した。
メキシコ工場を来年にも稼働させ、生産能力を急拡大させるには、上海工場が実現した驚くべき生産性を再現するのが近道だ。そのためにテスラは自社の求めるものを熟知し、コスト面でも強い上海のサプライチェーンを積極的に呼び込もうと考えている。現在、テスラ自動車事業でシニアバイスプレジデントを務める朱暁彤(Tom Zhu)氏がメキシコ工場建設に尽力しているが、同氏は上海工場の竣工・稼働時に指揮を執った人物でもある。
生産計画から見ても、メキシコ工場は上海工場を上回る規模になりそうだ。生産数100万台クラスの新工場は間違いなく、テスラが生産能力を一段階上げるための重要な役割を担うことになるはずだ。
現地産業チェーンの統合については、政策や体制も後押ししている。2020年7月に発効した北米貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」では、域内で生産された自動車は関税が免除となる。域内での原産比率が75%に達することが条件で、以前の北米自由貿易協定(NAFTA)で規定していた62.5%から比率が上がっている。
この協定によってメキシコの自動車産業は原材料や部品の現地調達の割合を増やすことになり、テスラもこの流れに乗った形だ。
テスラはメキシコに拠点を作るサプライヤーに特別な支援をしているわけではないが、同社からの大口発注がやはり呼び水になっているようだ。業界関係者によると、中国国内で工場を建てる場合は用地や資金繰りの面で支援が受けられるが、メキシコの場合は税制上の優遇措置か人材関連の補助金が受けられる程度だという。
それでも、テスラという大船に乗って海外進出を果たすことは、大多数の新エネルギー車関連企業が望むところだ。
メキシコ進出に関しては、政策や補助金による支援よりも、自動車産業をめぐる現地の環境や条件、また米国の産業と地続きであることで享受できるメリットのほうがより鮮明だ。
データによると、メキシコの乗用車生産台数は2022年に世界6位の330万台となっており、自動車部品の生産高も世界4位の1105億ドル(約15兆4800億円)となっている。主要な輸出先は米国で、22年は乗用車222万台、21年は自動車部品601億ドル(約8兆4200億円)相当を輸出している。
中国の新エネルギー車産業は近年急成長を遂げ、産業チェーンも整ってきている。トップメーカーは次々と海外進出に乗り出しており、車載用バッテリーメーカーのCATL(寧徳時代新能源科技)やBYD(比亜迪)などはいち早く欧州に工場を建設した。一方、自国では競争がかなり厳しくなっており、とくに今年は自動車市場不振のあおりを受けて多くの企業が受注を減らし、値下げを余儀なくされた。そのため、海外進出もリスク分散の策の一つとなっている。
(翻訳・山下にか)
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