脳疾患患者に光明 近赤外光で脳機能評価するfNIRS計測装置、中国ベンチャーが開発

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脳疾患患者に光明 近赤外光で脳機能評価するfNIRS計測装置、中国ベンチャーが開発

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近赤外分光脳機能計測「fNIRS」に特化した医療機器メーカー「丹陽慧創医療設備(Danyang Huichuang Medical Equipment)」(以下、慧創医療)がこのほど、シリーズBで1億元(約20億円)余りを調達した。国家科技成果転化引導基金(National Fund for Technology Transfer and Commercialization)のサブファンド中科海創が出資を主導し、毅達資本(Addor Capital)および既存株主の清源投資(Tsing-Yuan Capital)と道遠資本(Tao Capital)が参加した。調達した資金は、自社開発したfNIRS装置のブランディングのほか、近赤外光による退行性脳疾患の治療に関する臨床試験に充てるという。

慧創医療は2016年に設立され、近赤外光を用いた脳機能のイメージングと診断に関する研究を重ねてきた。創業者で会長の汪待発氏は、fNIRSを20年余り研究してきた専門家で、研究成果の実用化も得意としている。最高経営責任者(CEO)の郭根苗氏は、医療機器大手・邁瑞生物医療電子(mindray)の元役員兼チーフエンジニアで、開発・生産・販売システムの構築などで豊富な経験を持つ。主力製品は、中国で初めて中国国家薬品監督管理局の登録証を取得したfNIRS装置で、100チャネル以上の同時計測が可能。

100チャネル以上同時計測可能なfNIRS装置「NirScan4000/6000」

fNIRSは、近年に登場した非侵襲的に脳機能を計測する技術で、脳の神経活動に伴う血流量の変化を利用する。脳組織中の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンは、波長600〜900nmの近赤外光の吸収率が異なる。その特性を利用してリアルタイムかつ直接的に大脳皮質の血流変化をモニタリングし、神経血管連関の仕組みを通して大脳の神経活動の状況を推定する。

fNIRS装置は、患者の体を傷つけない非侵襲的かつ正確な計測が可能な上、持ち運びも簡単なことから、ここ数年は科学研究だけでなく臨床現場でも注目されるようになっている。学術文献検索サービス「Google Scholar」によると、2022年に世界で発表されたfNIRS関連の論文は5400本余りに上る。中国では臨床現場での活用も進んでおり、最高水準の医療機関1000カ所以上の精神科やリハビリ科、神経内科、小児科などに導入され、うつ病や自閉症、認知症、脳卒中など複数の疾患の検査やリハビリ評価に活用されている。

慧創医療は、持ち運びが簡単な小型fNIRS装置を展開している。自社開発したデータ処理ソフトウエア「NirSpark」を通じ、パソコンなどの画面上でデータの前処理から分析まで実行できるため、科学研究や臨床での活用が広がっている。北京大学第六医院など最高水準の医療機関や清華大学などトップクラスの学術機関、計800カ所余りが導入しており、すでに複数の機関が再購入している。同社は今年、初めて海外からの受注に成功。今後は輸出事業を拡大する方針だという。

157チャネル同時計測可能なfNIRS装置「NIrScan 9000」

中国には、アルツハイマー病(AD)の患者が1000万人余り、潜在的なリスクを抱えた人が1億7300万人いるとされる。エーザイと米バイオジェンが共同開発した「Lecanemab(レカネマブ)」など画期的な治療薬が登場してはいるものの、薬価が高く患者は大きな経済的負担を強いられる。このため、優れた治療効果と手頃な費用を両立させた治療法の確立が求められている。

いま非常に有望視されているのが、光の生体調節作用を利用したAD治療「光生物調節(PBM)療法」だ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の蔡立慧教授らが設立した医療機器メーカー「Cognito Therapeutics」は、第2相臨床試験で目覚ましい成果を上げた。ヘッドセット型の治療機器を6カ月間にわたって利用した患者は、日常生活動作を評価するADCS-ADLのスコアの低下スピードが84%改善したという。Cognito社には投資家の注目も集まり、今年3月にはシリーズBで7300万ドル(約100億円)の調達を完了した。

慧創医療は2019年、近赤外光による退行性脳疾患の治療に関する原理特許を中国で初めて申請し、着実に基礎研究を進めてきた。同社のAD向けPBM機器は、数十人の患者を対象に臨床実験した結果、既存の薬物療法よりも優れた効果が見られた。同機器は中国国家薬品監督管理局の特別審査を通過し、中国で最も早く市場に投入されるPBM機器になる見通し。同社はすでに、自閉症やうつ病などへの適用も研究しており、さまざまな脳疾患や精神疾患に治療効果を発揮することが分かっているという。

fNIRS市場はこれまで、日立製作所の画像診断機器事業を買収した富士フイルムを筆頭に、日本企業が独占してきた。オランダのArtinis、米Techenなどもしのぎを削る。慧創医療は今後もこの市場に果敢に切り込んでいく。

(翻訳・田村広子)

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