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バイドゥ(百度)の李彦宏(ロビン・リー)CEOは今月初め、同社のAIクラウド事業をCTOの管轄に統合すると発表した。同社の王海峰氏が高級副総裁からCTOに昇進してまだ3カ月というタイミングで行われたこの社内調整から、バイドゥが改革を急いでいることが伺えるが、バイドゥよりも先に行動を起こしたライバルもいる。テンセントは2018年9月、クラウド・スマートインダストリー事業群(CSIG)を新設し、同社ソーシャルネットワーク事業群(SNG)責任者の湯道生氏をCSIGの総裁に任命した。また、アリババは同年11月にアリババクラウド事業群をアリババクラウドインテリジェンス事業群に格上げすると同時に張建鋒(ジェフ・チャン)氏をCEO兼グループCTOに任命した。
中国IT御三家「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」のクラウド事業における人事の調整は終了した。3社はいずれもクラウド事業部門を新設、格上げあるいは再編し、同事業に携わるトップの職責を引き上げ、技術畑出身の幹部を起用している。それぞれのクラウド事業が技術系幹部の管理下に置かれた今、業界全体で新たな競争が繰り広げられている。
BATは今後、クラウド事業をどう展開するのか?
テンセント・湯道生氏:コンシューマー向けから法人向け事業に転換を図るリーダー
湯道生氏はBATの中で唯一、CTOではないクラウド事業の責任者だ。しかし、湯氏はテンセントグループ内でクラウド事業とのかかわりが最も長い幹部であり、CSIGの中核事業であるテンセントクラウドは、湯氏が以前に関わっていたSNGからのインキュベーションで設立された事業だ。
湯氏はSNGを完全にCSIG事業に統合し、テンセントは今年5月、データミドルウェアとテクノロジーミドルウェアをさらにオープン化すると発表した。データミドルウェアはユーザーミドルウェア、コンテンツミドルウェア、アプリケーションミドルウェアなどを含み、テクノロジーミドルウェアは通信ミドルウェア、AIミドルウェア、セキュリティミドルウェアなどを含む。
このように設計した理由として、湯氏は以下のように説明した。ユーザーミドルウェアを設けた理由は、テンセントが長年にわたりユーザーと接触してきたため説得力があること、また、コンテンツミドルウェアを設けた理由にも言及し、同社は世界最大のコンテンツサービスプロバイダーであるため、こちらでも影響力があると述べた。通信ミドルウェアやセキュリティミドルウェア、AIミドルウェアについては、同社がインスタントメッセンジャーからスタートした企業であるため、「QQ」や「WeChat(微信)」の機能はオープン化して支障はないという。
昨年11月に、湯氏は「ミドルウェア技術が技術と見なされないのならば、バックグラウンドも技術とみなされないのか?AIにも多くの技術的詳細が関係しており、アルゴリズムの学習や推論機能の最適化において、テンセントの技術チームは豊かな経験を有している。ミドルウェアだけを考慮するとしたら、それは偏重と言わざるを得ない」と語った。
しかし、それから半年後にテンセントは見解を変えた。ミドルウェアはBATのクラウドがみな取り組んでいる分野だ。
アリババ・張建鋒氏:各看板事業を束ねてきた技術のリーダー
「現在のアリババグループ全体におけるアクセス量の60~70%はパブリッククラウドを経由しており、今後1~2年間で100%に達するように努力したい」と、アリババクラウドインテリジェンススマート事業群総裁に就任した張建鋒氏は語った。
これより前に、張氏はC2Cモール「淘宝(TAOBAO)」、B2Cモール「天猫(Tmall)」、共同購入サービス「聚劃算(juhuasuan.com)」という3つの看板事業の技術責任者を務めた。また、グループCTOとしてクラウドのインフラ構築以外に、アリババの「ミドルウェア」戦略を手がけてきた。ミドルウェアについて言えば、中国ではアリババが先駆的存在であり、この概念は創業者の馬雲(ジャック・マー)氏本人が海外から持ち帰ったものだという。
ミドルウェアの機能とは、企業の中核能力、データ、ユーザー情報をシェアサービスの形式で蓄積し、各事業部門が個別に手がけてきた業務やデータの重複部分を共有化し、イノベーションコストを下げることだ。張氏はミドルウェアについての持論を次のように展開している。「ミドルウェアとは組織でもあり理念である。その技術には一定の位置付けが必要であり、個人にだけでなく全ての人々にサービスを提供するものだ」。
アリババクラウドが発揮する機能はテンセントクラウドとは異なる。張氏によると、アリババクラウドが力を発揮する分野は主に小売り、金融、電子政府で、両者の業務は重複していない。また双方の違いについて、張氏は「アリババクラウドは自社でSaaSを展開していない」と語った。
SaaSは顧客のコンサル業務を支援することを意味するが、これは定められたフローに沿って行う従来型の手法とは異なるものだ。張氏は「我々のデジタル化理念をソリューションの一部に変換しなければならない。この前提の下で、デロイトやアクセンチュア、KPMGといった世界の著名企業と協力を深めなければならない」とした。
バイドゥ・王海峰氏:激震人事を経た混乱の中で就任したCTO
2019年5月、王海峰氏がバイドゥのCTOに就任した。向海龍前副総裁は同月に辞職している。近年、同社は幹部が相次いで辞職して役員人事で激震が走っており、グループ全体に大きな影響を与えている。
バイドゥがクラウド事業部門を創設したのは2012年で、他の超大手2社と比べて若干遅い。そして、そのアプローチはテンセントやアリババと異なる。
李CEOは、クラウドとAIの連動を強調している。つまり、AIを起点として工業や農業、メディア、エンターテイメント、交通、エネルギーなどの企業向けにサービスを展開している。今年8月に発表された最新の業績報告によると、過去1年間で同社クラウドのユーザー数、収入は倍になり、アクセス量は3倍に増加し、中国で最も成長するクラウド事業者になったという。
IT専門調査会社IDCが公表した2019年第1四半期のIaaSとPaaSの中国市場シェアを見ると、アリババ、テンセント、チャイナ・テレコム、AWS、バイドゥ、ファーウェイの6社が占めるシェアは80.2%で、世界のクラウドコンピューティング市場の状況と似ている。中国でも市場シェアが一部の大手企業に集中しつつあるのだ。
インターネットにおける人口ボーナス期が過去のものになり、コンシューマー向けの事業でBATが享受できるアクセス量も天井が見えてきた。超大手といえど、次の成長分野を見つけなければならない。クラウドサービスは主に法人向けの事業であり、BAT3社の今後がかかっている。
クラウドサービスにおいて、BATはいずれも似たような決定を下した。3社のクラウドサービス事業における権限は営業系幹部から技術系幹部の手に渡されたため、業界全体が新たな技術力比べの様相を呈している。中小規模事業者にとって、今年は淘汰の波が押し寄せるかもしれない。
(翻訳・虎野)
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