中国EV「ZEEKR」、2車種の日本販売を決定!打倒アルファードは実現なるか?

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2023年に中国電気自動車(EV)大手・BYDが日本でも乗用車を販売して以降、街中で中国車を見かける光景が前よりも増えた。自国のクルマに対して信頼の厚い日本市場だが、それでもBYDは2024年1〜8月に1591台を販売と、すでに2023年の累計販売台数(1511台)を上回る勢いだ。そんな日本市場が次に迎え入れる中国ブランドになりそうなのが、吉利汽車(ジーリー)傘下の高級EVブランド「極氪(ZEEKR)」(以下、ジーカー)だ。

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ZEEKR(ジーカー)」はどんなブランド?

ジーカーは今までの吉利車種にはあまりなかったような、上質なクルマ作りを特徴としている。ブランドは2021年に誕生、同じく吉利傘下の「領克(Lynk&Co、リンク・アンド・コー)」から発展した。当時のリンク・アンド・コーではガソリン車とハイブリッド車しか取り揃えていなかったところを、ジーカーは全ラインナップをEVとしており、まさに「純電動版リンク・アンド・コー」と言える存在となる。

ジーカーの開発を担うのは、吉利が傘下に収める「ボルボ」と共同で立ち上げた「CEVT(チャイナ・ユーロ・ヴィークル・テクノロジー)」だ。ボルボの本拠地であるスウェーデン・イェーテボリにはこのR&D機関以外にデザインセンターも設けており、欧州テイストの強い開発体制を構築している。このR&Dはこれまで吉利が採用するプラットフォームやパワートレインなどの設計を担っていたが、2024年3月には「ジーカー・テクノロジー・ヨーロッパ」へと改称、ジーカーブランドの発展にコミットする存在へと進化した。

2023年の販売台数は、ジーカー全体で11万8685台を記録した。吉利グループ全体で279万台なので割合としては小さいが、ジーカーは新車種の投入に加えて海外展開も積極的で、今後の成長に期待が寄せられる。実際、2024年1〜8月の中国国内販売台数は11万6540台と台数を伸ばした。購買層は主に流行に敏感な中国の若者で、加速性能の良さや航続距離といった点で選ばれる傾向にあるという。近未来的なエクステリアデザインも支持される理由のひとつで、例えば2023年11月に発表された「007」では、日本の市光工業が開発した左右一体型のLEDディスプレイ付きヘッドライトユニットを採用する。また、ボディの後ろ半分は巨大なダイキャストマシンで鋳造する「ギガキャスト」で製造しており、部品点数の削減と剛性の向上に貢献している。

ZEEKR 007(公式サイトより)

親会社の吉利は創業者の李書福氏が「自らの手で作る高級車」を夢見て設立された経緯を持つ。そういう意味では、ジーカーでその夢の実現へまた一歩近づいたとも言えるだろう。吉利自体は1986年に冷蔵庫メーカーとして立ち上がった後、1993年に中国初の国産スクーターの製造に乗り出した。当時は自動車製造への新規参入を厳しく制限していた中国だったが、1997年に設備と製造許諾を目的として国営の自動車工場を買収、翌年8月8日に吉利初の量産車「豪情」がラインオフした。2001年には晴れて政府より認可を受け、民営企業で初めての自動車メーカーとなったのだ。

現在は純電気自動車(BEV)だけでなく、ガソリン車やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)なども幅広く手がける。ジーカーはBEVのみを取り揃えるが、本家吉利のラインナップや、傘下ブランドの「リンク・アンド・コー」、「ギャラクシー」などでは内燃機関を搭載するモデルが主流だ。2024年には日産や三菱の親会社でもある「ルノー・グループ」と共同でエンジンやトランスミッションの研究開発をおこなう「ホース・パワートレイン」を設立した。BEV一辺倒に思われがちだが、吉利は内燃機関という現実的な選択肢にも力を入れているのだ。

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日本上陸の勝算は?

ここ数か月でジーカーが日本に進出するという報道をよく目にするようになった。それだけ日本が新たな中国ブランドの出現に対して関心を持っていることだろうし、逆にジーカーも日本市場でどう評価されるか気にしているのだろう。ジーカーは2025年にも日本で乗用車を発売すると言われており、その中でも最初に投入されることが確実視されているのは高級ミニバン「009」と、コンパクトSUV「X」の2車種だ。

ZEEKR 009の車内(筆者による現地での撮影)

中国では全長5m、全幅2m超えの大型ボディの新たなミニバン車種は急増しているが、009は、日本で乗るには大きすぎるかもしれない。とはいえ、車内は大人7人を乗せられる大空間が広がり、4人乗りの最上級モデルではもはや「移動するラウンジ」のような極上な体験をもたらしてくれる。

ZEEKR 009(筆者による現地での撮影)

中国で販売中の最新モデルは前輪駆動と四輪駆動、2種類の駆動方式から選択可能だ。バッテリーはすべてでCATL(寧徳時代)製の三元系リチウムイオン電池「麒麟」を採用しており、オプションの140 kWhバッテリーでは満充電で850〜900 km(中国独自のCLTCモード計測値)を走れると主張する。加えて、四輪駆動モデルは0-100 km/hをわずか3.9秒で加速するという驚異的な加速性能を誇る。009の基本モデルは43.9〜51.9万元(約884.2〜1045.2万円)と、BYDの「デンツァ(騰勢)」ブランドが販売するミニバン「D9」といったライバルよりも高め。だが、2024年8月は3195台を販売し、大型ミニバンカテゴリーにおいては9位にランクインしている。乗り心地は比較的硬め、スポーティな印象で、加速性能と相まってれっきとした「スポーツミニバン」とも言えるだろう。

一方、コンパクトSUVの「X」はジーカーでもっとも小柄なモデルとなる。ボルボが2023年に発売したBEV「EX30」とボディの大部分を共有しており、両者のシルエットはとても似ている。

ZEEKR X(筆者による現地での撮影)

Xは出力268 hp・トルク343 Nmの後輪駆動か、422 hp・543 Nmの四輪駆動の2種類のみで、満充電で500〜560 km(CLTCモード計測値)を走行できる。シート構成は4人乗りか5人乗りを選べるが、実際に座ってみると大人4人が快適性の限界だと感じた。コンパクトな車体で狭い道や市街地での取り回しはしやすい印象を受けたが、一方で乗り心地はジーカーにしてはイマイチだった。もちろん他のジーカー車種と車格が違うからとも言えるが、路面の小さな凹凸や段差を踏んだ際に伝わる衝撃はもう少し上手く処理して欲しいと思う。北欧テイストのインテリアと室内空間のちょうど良い狭さが「もうひとつの自室」のような居心地を提供しているのに走行時の体験が残念に感じた。

もうひとつ残念なのが値段である。中国でのライバルはフォルクスワーゲンの「ID.3」や、同じ吉利傘下のスマート「#1」が代表的だが、前者は12.99万元(約260万円)から、後者は15.49万元(約310万円)からと安価だ。一方でXは20万元(約401万円)と高めで、それが影響してジーカーでもっとも売れていないモデルという不名誉な事態に陥っている。

日本に上陸するとなれば、ジーカー 009はトヨタ アルファードやヴェルファイア、レクサス LMあたりが車格上のライバルとなる。だが、ジーカーは日本での知名度が現時点ではほぼゼロ。日本法人が設立される噂はあるものの、どのようなサポートを提供するかも不明だ。価格も確実に日本より高くなるだろうから、540〜872万円のアルファードや、655〜892万円のヴェルファイアに対して価格面のアドバンテージは存在しない。となると、ジーカーは価格よりも「どのようなユーザーエクスペリエンスをもたらすか」に重きを置いて日本で展開することとなる。また、ジーカー Xに関しては価格が500万円前後であれば勝算はゼロではないが、逆にそれより高くなってしまえば、ボディサイズに起因する荷室の狭さなどの不便な点と釣り合わなくなってしまう。

ジーカーは2024年末までに日本でいくつかのショウルームを開設すると言われているものの、整備拠点を合わせたディーラーなのか、それともオンライン販売に徹するのかは明らかではない。紅旗のように華僑の富裕層に限った販売かもしれないし、逆にBYDのようにローカライズをしっかり済ませた日本仕様車を幅広く販売する形かもしれない。これらの点もまもなく明らかとなるだろうし、どれほど日本の消費者に受け入れられるかに注目だ。

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(文:中国車研究家 加藤ヒロト)

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