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中国が世界最大の自動車販売国となったのは2010年。この年、中国は約1376万台を販売し、1159万台のアメリカに200万台以上の差をつけて世界1位となった。以来15年間、中国は世界販売(生産)台数1位を維持し続けているが、「売れている車種」「人気のブランド」については、特に2020年以降は大きな変化があった。日産、フォルクスワーゲンなど海外伝統メーカーのガソリン車、HEV車が上位を独占していたが、最近は中国製造のテスラやBYDといったBEV(純電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)に急速に代わっている。2022年に政府の購入補助金が終了した後も、各社は中国で高い評価を受ける新型車を次々に投入。北京、上海、杭州などの大都市圏では、ナンバープレートの発給でも、新エネルギー車(NEV)が優遇されることもあり、販売は引き続き好調だ。
11月21日に36Kr Japanとリブ・コンサルティングが共同で開催したオンラインセミナー「世界で最も注目される中国のEV・SDV市場の最新動向」では、世界最大のEV市場であり、SDV(Software Defined Vehicle)やコネクテッドカーの開発で最先端を走る中国の最新事情が紹介された。ここではその内容を振り返ってみたい。
中国EV・SDV/コネクテッドカー市場の概況と最新トレンド
36Kr Japan 取締役 公文 信厚 氏
中国EV市場は、70万円台から2000万円超まで幅広い価格帯の車が販売されており、非常に活況を呈している。BYDやテスラに加え、中国版テスラといわれる蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(Xpeng Motors)、理想汽車(Li Auto)の3社の伸びが顕著で、創業者はいずれもIT業界で成功を収めた人物である。
さらに近年はファーウェイやシャオミなどテック系企業の参入も話題となり、技術力で自動車市場を牽引する。ファーウェイは、自社のスマートカー・ソリューションを販売するだけでなく、自動車開発にも直接関与し始めた。また、ソフトウェアで遅れがちな伝統自動車メーカーがテクノロジー企業と提携し、自社のソフトウェアや、AI及びデジタル領域の技術を強化している。
現在の中国ユーザーは、AIアシスタントやARグラスの搭載など、スマートかつエキサイティングなドライビング体験を求める傾向が強い。そのため中国で販売される新車において、L2(自動運転レベル2)以上のスマートドライブ機能の搭載率は55%、400万円以上の車種では実に85%に達しており、すでに標準装備となっている。
去年、フォルクスワーゲンは小鵬汽車に1000億円ほど出資し、自動車のスマート化やデジタル化、コネクテッドなどの基盤を共同で開発する動きを進める。トヨタも今年4月に中国向けに販売するEVでIT大手のテンセントと協力することを発表した。中国メーカーの開発スピードや品質に対して危機感を持ちつつ、中国メーカーとの連携を模索する状況だ。
最先端テック企業が見る中国EV市場における勝ち筋
アリババクラウド(Alibaba Cloud Intelligence International)
シニアソリューションアーキテクト 泉 浩宣 氏
泉氏は、中国における自動運転機能の実装について紹介した。北京では完全無人の自動運転タクシー(ロボタクシー)の実証実験が2024年6月から始まっている。BYDやNIOなど有名メーカーもL3/L4の自動運転の公道テストを開始し、データ収集の環境も整備する。日本では、例えば千葉県の柏市で産学共同のプロジェクトでL4を目指すとしているが、実際はL2の実証実験が始まったばかりで、L4まではまだ長い道のりだろう。
アリババクラウドはスマートシティ技術を活用し、様々なセンサーのデータを車両にフィードバックすることで、さらに進んだ自動運転を実現できるのではないかと考えている。
また、中国と比べて日本で自動運転が普及しづらい理由について、泉氏は土壌と法整備が大きく関係していると述べた。中国では、EV普及と自動運転の実現に向けて、政府が全面的にバックアップしている。北京市内には広大な実験フィールドが整備され、各社に提供されている。メルセデス、BMW、トヨタ、ホンダといったグローバル企業も中国に出向いて自動運転技術に関するデータを集めている。さらに中国では今年6月からBYDやNIOなど国内9メーカーにL3/L4の自動運転公道テストが許可されており、実証実験が急速に進むだろう。
自動車業界が取り組むスマートコックピット開発も、すべてのメーカーにとって不可欠な取り組みとなった。その一例がカーアシスタント機能だ。例えば、運転中のビジネスパーソンが会議資料の準備を依頼すると、車載システムがオフィスデータを活用しレポートを自動で作成する。「こんなことを車内でやる必要があるのか?」と思ってしまうところまで、今の中国の自動車は進化している。
さらに、車載システムは周囲の雰囲気を察知し、たとえばムーディーな音楽が流れると、車内の照明がロマンチックな夕暮れのような色合いに変化するなど、感性に訴える演出も可能になる。「この天気で何をすべきですか?」といった質問に対し、自然な会話形式で応答するコンシェルジュ的なサービスも提供する。これら多彩な機能がシームレスに統合されている点が、最新のスマートコックピット技術の特徴だと泉氏が事例を交えて説明した。
中国SDV領域におけるビジネスと今後の展望
聯友科技(Lan‐You Technology)
カーエレクトロニクス研究開発センター ディレクター 黄 健平 氏
TCU(T-Box)で中国トップシェアを誇るLan‐Youの黄氏は、従来の自動車と現代のSDV化する自動車の違いを並べた。従来型の自動車は常時接続されていない独立した製品として機能しており、それぞれ機械システムや電子システムに依存するため、外部連携や他車両との相互作用といったデータの共有はされていなかった。そして販売後は少なくとも10年間、部品供給を確保することが求められていた。
一方、SDV時代の自動車は電動化とスマート化を前提に進化する。自動運転やコネクテッド化が進んでおり、ほとんどの自動車の機能はソフトウェアで実現されるようになっていると黄氏は指摘する。さらに、インターネット経由でのOTA更新できるため、従来のハードウェア中心のビジネスモデルは持続不可能とも考えている。これに伴い、ハードウェア中心の考え方も変えていく必要がある。
従来の新車開発サイクルは1年以上と長期スパンだったが、現在の中国では「アジャイル開発」が主流となり、連続的な開発や迅速な改善が常に行われるという。テスト方法も、従来の実環境から仮想環境へと移行し、大規模テストや条件変更が容易になる。
黄氏によれば、SDVと電動化による脱炭素の実現、年間事故ゼロ件、渋滞を低減する未来社会、といった世界が目指す大きな目標達成にも期待が高まっているという。今後ソフトウェア自体が製品として商用化されることで、ソフトウェアのアップグレードが収益源となるなど、持続可能なビジネスモデルの構築が可能となるだろう。
最後に、リブ・コンサルティングの森本 達也氏からは、中国の技術に対する安全保障上の懸念などが話題になることはあるものの、ビジネスの観点で注目すべきポイントが多数あることも事実だと指摘する。SDVだけでなく、バッテリー回収・再利用や、EV社会を前提とした新領域でのビジネスなど、マクロとミクロの両面から注目していくことが必要だと結論づけた。
(文:自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子、編集:36Kr Japan編集部)
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