「中国産」テスラ車、高級車イメージを一新して現地化進め販促の基盤に

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米EV(電気自動車)メーカー大手テスラは、上海市で生産拠点「ギガファクトリー」の建設を急ピッチで進めてきた。中国政府の後ろ盾も受ける工場建設は、日を追うごとに対外的な印象を変えている。

テスラにとって中国は最も成長が期待できる市場で、スケールメリットを実現するためのカギを握る。同社初の海外生産拠点がうまくいけば、これを成功モデルとして今後は他国でも展開できるかもしれない。

中国で成功するために、テスラはカリスマの座を降りてもっと親しみやすい存在になる必要がある。

テスラ上海工場 (画像提供:東方IC)

メディアに対する態度を一変、イメージアップをはかる

世界中の大手企業が狙う中国市場だが、アマゾンやウーバーなどの撤退劇は「中国で成功するのは容易ではない」と世に印象づけた。

この巨大市場を手に入れるため、これまでお高くとまっていたテスラも態度を変えた。

CEOのイーロン・マスク氏は、これまでツイッターで自ら発信することはあっても、ほとんどメディアの取材に応じることはなかった。しかし上海工場建設のニュースが報じられて以降、中国メディアに登場するようになった。

テスラは中国版ツイッター「微博(Weibo)」や「微信(WeChat)」に公式アカウントを開設したほか、ショート動画共有アプリ「TikTok(抖音)」も運営を始めた。テスト車両や性能などを紹介する動画を配信し、既に10万人以上のフォロワーがいる。マスク氏が北京の街に出てローカルグルメを堪能する姿も投稿されるなど、テスラ広報部は積極的にPRに取り組んでいるようだ。

またTikTok同様の動画アプリ「快手(Kwai)」とのコラボレーションを通じ、親しみやすい中国向けプロモーションを実施。快手のユーザー層は年収・年齢・学歴が比較的低い地方都市の若者だ。スポーツカータイプの高級車「テスラ・ロードスター」を起用するような従来のPR戦術とは対照的なプロモーションを展開する。

上海工場の目標生産台数は年間50万台。これを売るには大幅な販路の拡大が必要だ。これまでは購買力の高い消費者が集まる大都市を中心に拠点を敷いていたが、リーズナブルな中国産「モデル3」「モデルY」は、これから購買力が伸びる地方都市のユーザーに期待を寄せる。そのため、まずは高級車というイメージをぬぐい去る必要がある。

テスラと快手のコラボ広告

スピード展開が及ぼす影響

8月、テスラは全車種が「車両購入税(かつての日本の自動車取得税に相当)免除対象の新エネルギー車車種リスト」の適用となり、購入時の税金10%が免除されると発表した。しかし発表が急だったため、この直前にテスラ車を購入して10万元(約150万円)近くもの購入税を支払った消費者らはこれを不満とし、同社を提訴している。

テスラの上海工場は急ピッチで完成した。しかし肝心の製品は追いついていないようだ。上海工場で生産した初の車両は、予約段階から売れ行きが思わしくない。

今年5月、テスラは従来よりさらに航続距離を延長させた「モデル3」を中国産モデルの第一弾に決定。同モデルの航続距離はNEDC(新欧州ドライビングサイクル)モードで460キロメートル、販売価格は32万8000元(約510万円)だ。マスク氏は事前に「中国生産モデルの販売価格は従来より30%下がるだろう」予告していたが、実際はわずか4万元(約60万円)安くなっただけ。航続距離は予定よりも20キロメートル短縮し、そのうえ納車は来年まで待たされることになった。

北京の販売スタッフによると、国産のモデル3はコスパが悪く人気がないという。「運転支援機能『オートパイロット』を搭載すれば中国産モデル3は総額35万5800元(約550万円)になる一方で、輸入モデルは同機能がついても36万3900元(約565万円)。おまけに輸入モデルのほうが出来が良い。輸入モデルは中国全域で品薄状態だ」と語った。

中国国内のEV需要自体も伸び悩んでいる。「小鵬汽車(Xpeng Motors)」創業者の何小鵬氏は「タクシーなどモビリティサービス用の車両やリースとしての利用を除く、正味の国内EV販売台数は2019年1~9月でわずか10数万台だった」と指摘する。

中国生産モデルが売れない理由は、同社のプロモーション計画も関係しているようだ。テスラは12月の関税引き上げを前に、現在は手元の在庫をさばいている状況だ。この後、国内生産モデルの販促に着手するなら、その売れ行きは価格設定と製品の現地化にかかっている。

真の現地化を成功させるには

カーナビをよく使う中国ユーザーのために、テスラの中国生産車はテンセントが提供する地図サービス「騰訊地図(Tencent Maps)」を搭載したものの、互換性がなく機能しないという。また音声アシスタント機能の使い勝手もよくない。

ITコンサルティング企業「ThoughtWorks」の朱晨氏によると、テスラは車載OSにLinuxを採用しているが、LinuxはAndroidほど標準化されていないのが弱点だという。開発コストもかさみ、中国では積極的に利用する開発者が少ない。そのため、テスラはエコシステムの構築や現地化が進められず、ソフトウェアも自社で開発しているという。

自動車メーカーの多くがOSにAndroidを採用しているが、車載システムの構成要素を1社の製品だけに集中するのは最善の方法ではない。ICTエコシステムが広く開放されている中国で、閉鎖的なシステムや層の薄いエコシステムは弱点になりかねない。

そこでテスラは気付いた。中国では車載システムを自社開発するより、外部と連携するのが得策だ。先日アップデートされた同社の「V10.0」では、米国で人気のシューティングゲーム「Cuphead(カップヘッド)」のほか、中国の動画共有サービス「騰訊視頻(テンセントビデオ)」「愛奇芸(iQIYI)」「ビリビリ動画(bilibili)」および音声コンテンツサービス「Himalaya(喜馬拉雅)」が楽しめる。

車内エンターテインメントの拡充だけがテスラの目的ではない。

モデル3、モデルYの販売によって、たとえ薄利多売でもまずはユーザー基盤を固める。将来的に自動運転が普及すれば、車内エンターテインメントの利用は大幅に拡大するだろう。

もしテスラがエコシステムを公開し、ユーザーが増えれば、将来的にはiOSのように多くの開発者が呼び込める。マージナルコストがほぼゼロというメリットを武器に外部にも普及が進み、有料サービスを利用するカーオーナーが増え、開発者からのレベニューシェアが見込めるとあれば、自動運転事業以外からの収益も期待できるようになる。これこそテスラの究極の目的といえるかもしれない。
(翻訳:貴美華)

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