騒音110dBでも“声だけクリア” 会議特化のAIノイズ除去ヘッドセット、監視カメラ王者が新投入

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あらゆるものがインターネットにつながる「IoT」機器を手がけるスタートアップ企業のアトムテック(横浜市)はヘッドセット(マイク付きヘッドホン)市場に参入する。話し手の周囲の騒音を人工知能(AI)で除去し、オンライン会議などでクリアな音声を伝えられるヘッドセットの受注活動を始めた。主力の監視カメラから取扱商品を多角化し、IoT機器の総合メーカーとして成長を目指す考えだ。

アトムテック創業者の青山純・代表取締役が36Kr Japanのインタビューで経営方針を語った。中国・杭州市出身の青山氏は日本国籍を取得し、富士通でクラウドコンピューティング関連のソフトウエア開発やプロジェクトマネジャーを務めていた。2019年にアトムテックを創業したのは「出張で2~3日留守にしている間に、自宅に残したペットの様子を確認したい」と思ったのがきっかけだった。

自宅用の監視カメラを購入しようと調べたところ、当時は一台が1万円以上の商品が一般的だった。ちょうど独立・起業を考えていた青山氏は「もっと安くて使いやすい監視カメラがあればビジネスになる」と思い立った。企画やソフトウエア開発は自社で手がける一方、中国・深圳市のODM(相手先ブランドによる設計・生産)メーカーと連携することで、2020年前半には一台2500円(税込み)の監視カメラ「ATOM Cam」を発売した。高性能かつ手頃な価格が話題を呼び、販売は好調だ。現在までの累計出荷台数は35万台を超え、日本市場でトップシェアを誇っている。

アトムテックは現在も監視カメラを主力事業としており、AI制御による首振りで撮影対象を自動追跡する商品、完全防水・防塵(じん)で夜も撮影できる商品などを発売済み。今後は、Wi-Fi通信網が未整備の郊外でも「4G」通信規格でネット接続できるカメラなどの品ぞろえを拡充する計画だ。

降雨・降雪時でも使用できる防水仕様の「ATOM Cam」

さらに、このほど「ATOM AIMic Pro」と呼ぶヘッドセットで音響機器市場に参入することを決めた。この新商品の特徴は、マイクに入ってくる外部の騒音を最大110デシベルまで除去するENC(環境ノイズキャンセリング)機能を実装していることだ。端末にIC(集積回路)チップを含むAI機能を載せる「エッジAI」技術で話し手の声を判別・抽出する一方、騒音は除去してクリアな音声を実現させたという。

110デシベルは至近距離で自動車のクラクションを聞くのに相当する大きな騒音だ。青山氏は商品化の動機について、アトムテックの創業直後に新型コロナウイルス禍に直面したことを挙げた。「当社もリモートワークを使って経営を継続したが、子供の声や生活音でオンライン会議に支障が出ることも多かった。騒音を除去することがリモートワークを社会に定着させる最後のピースだと感じた」のだという。

ATOM AIMic Proは業務用のヘッドセットで、子供のいる家庭での在宅ワークや騒がしいオフィス内での電話対応・オンライン会議での利用を想定している。空港ロビーや電車の駅など屋外から静かにオンライン会議に参加することもできる。

在宅勤務や騒がしいオフィスでの会議に最適化された「ATOM AIMic Pro」

耳をふさがないオープンイヤー型のイヤホンを採用しているため、会議に長時間参加しても耳が痛くならない。マイクが磁石式で簡単に着脱できるのも特徴であり、取り外せばカバンなどに収納しやすく、持ち運びに便利だ。カフェなどでオンライン会議中に周囲の人に声をかけられた際も、マイクを外せば音声は直ちにミュートになる。実用性に配慮した細かな商品設計となっている。

オープンイヤー型のイヤホンを採用しているATOM AIMic Pro

現在はオンライン会議の議事録をクラウドAI技術で自動作成し、接続したパソコンやスマートフォンで閲覧する機能を持たせる開発も進めており、次世代機への搭載を予定している。

すでに4月から、クラウドファンディング(CF)サイト大手の「Makuake(マクアケ)」でATOM AIMic Proの応援購入者の募集に入り、5月中旬に第一陣の出荷を始めた。一般価格は税込みで一台3万円に設定しているが、マクアケで5月末までに購入手続きを済ませば最大で5割引になる。

青山氏はインタビューで、アトムテックの商品展開の全体像についても語った。IoTのほかAI、電動化という三つの技術を軸に「スマートライフに役立つ機器・サービスを提供する」考えだという。すでに監視カメラ以外に、IoT機能を備えた温度・湿度センサーや紛失防止用タグのほか、ペダルをこがなくても走行できるフル電動自転車「ATOM Full eBike」を販売中だ。

ATOM Full eBikeは道路交通法が定める「特定小型原動機付自転車」に該当する。最高速度を時速20㎞以下に制限したモビリティで、16歳以上の人なら運転免許なしで乗ることができる。アトムテックは24年秋に発売し、約400台の販売実績がある。その購入者の属性を調べたところ、50~80歳の男性が多いことが分かった。

高齢者からの支持が厚い電動モビリティ「ATOM Full eBike」

当初想定した購入者より年齢層が高かったが、「自動車の運転免許を返納した高齢者らが短距離の移動用に購入している」(青山氏)と判断。今後は転倒しにくい三輪、四輪のフル電動自転車を開発し、高齢者の需要をさらに開拓していく意向だ。

アトムテックはこれらの商品の企画・基本設計は行うものの、製造は深圳、天津、上海などの中国ODMメーカーに任せるファブレス(工場なし)の経営体制をとっている。青山氏は「ハードウエアとソフトウエアの技術を組み合わせるIoT機器の商品化は手間がかかるが、当社には私自身が中国メーカーの経営者と直談判できる強みがある」と分析。「世界の工場」である中国のサプライチェーン(供給網)をフル活用する考えだ。

アトムテックの資本金は約1億3000万円で、青山氏が過半を出資しているが、KDDI系でIoT通信を手がけるソラコムに出資の一部を仰いでいる。両社は22年に提携し、アトムテックがソラコムの展開するクラウド型カメラサービス「ソラカメ」向けに監視カメラを供給する関係にある。青山氏は「ソラカメはソラコムと当社の共同ブランドのようなものであり、大切な事業として育てていきたい」と語った。

ソラカメ向け以外は消費者に直接販売する比率が高く、監視カメラなどは自社サイトと米アマゾン・ドット・コムでネット通販するほか、電動自転車は家電量販店「ヨドバシカメラ」や中古バイク買い取り・販売大手「バイク王」の実店舗で販売している。アトムテック全体の2024年7月期の売上高は約4億円だった。

青山氏は「現在のビジネスが軌道に乗れば、2年以内に年商20億円規模まで事業を拡大できる」と自信を見せる。その後は資本金も充実させ、新規株式公開(IPO)を目指す方針だという。

(36Kr Japan編集部)

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