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2025年大阪・関西万博の「中国パビリオン」では、5月12~14日に「深圳ウィーク」が開催された。その関連イベントとして実施された「深圳—大阪イノベーション・コラボレーション大会」には、深圳発のスタートアップ30社以上が出展。ロボットを中心とする先進技術が披露された。
深圳は「中国のシリコンバレー」とも呼ばれる。外資への市場開放と、民間企業の育成を進めた「改革開放」路線で「経済特区」に指定され、1980年代以降に小さな漁村からイノベーションの中心地に大きく変貌を遂げた。あらゆる電子機器の製造業が集積し、「世界の工場」と呼ばれる中国の製造力を支えてきたほか、華為技術(ファーウェイ)やBYDといった世界的な企業もこの地から生まれている。中国の省で最大の経済規模と日本とほぼ同じ人口の広東省に位置し、国際金融センターの香港に隣接しており、優れた人材と世界の投資資金を活用したスタートアップを育成する強固なエコシステムを持つのが強みだ。

今回のイベントで、来場者の関心を集めたのが、ロボット関連の企業だ。日本でも時々話題になる人型ロボットの「UBTEC(優必選)」や、ネコ型配膳ロボット「BellaBot(ベラボット)で知られるサービスロボット大手「Pudu Robotic(普渡科技)」に加え、新興の有力企業も多数出展した。
上では調理ロボットを開発するスタートアップ「T-Chef(智谷天厨)」や農業ロボットの「COONEO(酷牛)」を取り上げた。今回はマッサージロボットや清掃ロボットのスタートアップを紹介する。
オーダーメイドのマッサージを提供するロボット
ファーウェイ出身のエンジニアによって設立された「Robotstorm.tech(具身風暴)」が、多くの来場者の目を引いた。同社は汎用型のエンボディドAI(身体を持つAI)の実現を目指しながら、まずは実用化しやすいマッサージ分野に焦点を当てたロボットを展開している。
同社のマッサージロボットは、3Dカメラなどを使って全身の126カ所のツボの位置を探り当てることができる。さらに、身体の動きに合わせて施術を調整できる機能も搭載している。プライバシー保護の観点から、撮影データは施術後に完全に消去される。

マッサージユニットは交換式で、温めた石を使う温石マッサージや、電気刺激、灸など多様な施術モードを選択できる。音声操作にも対応し、日本語、中国語、英語、韓国語で指示を出すことができる。ユーザーの好みに応じて動作強度も細かく制御でき、人間のプロのマッサージ師と同じようにオーダーメイドのマッサージを実現できるロボットだ。
マッサージ業界では人材不足や人件費の高騰、離職率の高さなどが課題となっている。Robotstormの製品は、こうした構造的な問題を解決する手段としても期待されている。
大阪で3店舗の整体院を経営するBrand Station社の孫瓊CEOは、Robotstormの製品に強い関心を持ち、問い合わせた。現在、3店舗すべてに導入済みで、1時間あたり3000円以内という安価な価格を実現できており、顧客からの評価も高く、リピーターも多いという。孫氏はマッサージロボットの需要の高さを実感し、現在ではRobotstormの日本での代理店を務めるパートナーとして、日本市場での本格的な展開を支援している。

また、Robotstorm.aiの主任エンジニアの梁仕篔氏は、日本市場での意外な反応も明かした。「中国や米国では音声操作が一般的だが、日本ではロボットに話しかけることに抵抗を感じる人が多い。また、ロボットが操作のたびに発する確認のための音声をうるさいと感じる人も少なくない。そのため、日本向けモデルでは音声操作の機能をあえて使わずに、リモコンによる操作に切り替えた」と語った。
中国勢が席巻する清掃ロボット市場、注目は「iKitbot」
業務用清掃ロボットの分野でも、中国企業の日本進出が加速しており、競争が激しくなっている。
中国企業が日本に進出する背景にはいくつかの理由がある。まず、中国国内での競争激化や価格競争の激しさから、海外市場に活路を見出す動きが加速している点が挙げられる。加えて、日本では深刻な労働力不足に陥っており、ロボット市場の拡大が想定される。さらには、中国で製造することにより、コスト面で優位性があるサプライチェーンを活用できることも強みとなる。また、この分野で競争力のある日本企業が少ないことも進出を後押ししている。
36Kr Japanがこれまで報じてきた企業だけでも、Pudu RoboticsやGaussian Robotics(高仙機器人)、Keenon Robotics(擎朗智能)、Iwith Roboticsなどがあり、いずれも日本市場で一定の存在感を示している。

その中でも、2021年創業の「iKitbot(奇勃科技)」は後発ながら着実に実績を上げている。2024年4月から日本市場への本格参入を開始し、優れた製品性能や技術力が日本の専門商社から認められ、数億円規模の大口受注を獲得した。現在、同社の製品はすでに介護施設、スーパーマーケット、食品工場などで稼働している。メンテナンスなど日本の顧客ニーズに迅速に対応するため、JETROの支援を受け、東京にオフィスも開設した。

iKitbot日本法人の李佳諾CEOは、日本市場の競争環境について「今の日本では、もはや技術力での差別化は難しい。中国企業はどこも高性能でコストパフォーマンスに優れている。今後の勝負のカギは販売後のサービスを提供する力になる」と述べた。そのため、同社は日本を最重要市場と位置付け、経営資源を集中させた。日本の顧客ニーズにきめ細かく対応する姿勢を貫き、差別化を図っていく方針だ。
李氏は「日本市場で要求される品質基準は世界でも特に厳しいが、これをクリアできれば、東南アジアや欧米などでの展開も容易になる」とし、海外展開の布石と捉えている。
HEXが後方支援
今回のイベントで、深圳発のスタートアップ30社超を日本に一堂に集めた立役者が、深圳拠点のスタートアップ支援企業「立方匯(HEX)」である。中国国内外のスタートアップと深圳市政府や中国の地方自治体、投資家、企業などをつなぐハブ機能を担い、広東省と香港、マカオを一体開発する大湾区(グレーターベイエリア)を軸としたハイテク産業の国際連携、イノベーションの加速に貢献している。
共同創設者の朱玲玲氏は、「深圳の優れた技術や製品を世界へ届けるとともに、日本企業が中国市場に進出する際の支援にも力を入れている」と語り、日中間のイノベーション連携を今後さらに強化していく意向を示した。
(取材・編集:36Kr Japan編集部)
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