テンセント、個人向けサービスが飽和する中国で産業向けインターネット市場に本腰

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

大企業注目記事

テンセント、個人向けサービスが飽和する中国で産業向けインターネット市場に本腰

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

テンセントがクラウド・スマートインダストリー事業群(CSIG)を設立して半年後、最初のマネジメントミーティングでは、画面越しにCSIGスタッフから幹部へ何百もの鋭い質問が飛んだ。このことは、8000人のCSIGスタッフが企業向けサービス市場への進出で受けた心理的ショックを強く表している。

テンセントはこれまで20年、典型的なインターネットビジネスを行ってきた。ゲームサービスにしてもウェブ広告サービスにしても、そのビジネスは常に「快適」であった。限界費用が低く、収益率が高く、従業員の給料は他企業よりもはるかに高い。

テンセントの馬化騰(ポニー・マー)CEOは、企業向けオールインワンサービスが必要だと述べた後、企業向けサービスの先駆者として新設されたCSIGはひどい苦しみを味わうことになるだろうとも語った。しかし、今後10年の成長のため、テンセントは企業向けサービスというビジネスから撤退するわけにはいかないのだ。

中国が商用インターネットサービスを開始してから約20年、人口の多さという強みは使い果たされてしまい、今年はWeChatのアクティブユーザー数さえ成長が止まっている。馬氏が去年出した公開書簡の中で「モバイルインターネットの前半戦は終わった。テンセントは個人ユーザー向けインターネットに根を張りつつ、産業向けインターネットも取り込んでいく」と述べていたのは、これが理由だ。

テンセントは顧客企業にどのような独自の価値を提供できるか

広告掲載プラットフォーム「広点通(GDT)」や「テンセントクラウド(騰訊雲)」などを0から育て上げてきたCSIGの湯道生総裁は「消費者が企業に物やサービスを提供するC2Bが、テンセント独自の方法論であることには、疑問の余地がない。アクセス数、技術、データは我々の得意分野だ」と語る。最終的に個人ユーザーにサービスを提供するのは顧客企業だが、個人ユーザーを理解し、コンタクトするという面ではテンセントに強みがある。テンセントがいわゆるC2B方式で過去20年間に蓄積してきた個人ユーザー向けサービス、アクセス数の収益化ノウハウ、データなどをまとめ上げてソリューションとし、企業に販売するのだ。

CSIG総括者の湯道生氏(36Kr記者撮影)

例えば、テンセントはウォルマート・チャイナ(沃爾瑪中国)と共同で「掃瑪購」を開発した。消費者はWeChatのミニプログラムを開き、商品のバーコードをスキャンし買い物かごに入れ、オンライン決済で支払いを済ませ、店舗出口のチェックを経るだけで買い物ができる。消費者からすれば、レジに並ばずに済み、スーパー側にとってもレジ係の労働力を削減できる上、消費者買物行動のデータ統計が可能になる。掃瑪購はユーザー6000万を超える小売業界の人気ミニプログラムとなった。

問題は人、メカニズム、文化だ

設立されて間もない頃のCSIGには、企業向けビジネス組織として基本的なサービスデリバリーフローすら整っていなかった。湯道生氏もその点を率直に認め「テンセントは過去に非常に多くのシステムを構築してきたが、すべて個人ユーザー向けモデルをベースに発展してきたので、財務フロー、プロジェクト管理、デリバリーサービスなど、すべてのプロセスを最適化しなければならない。これは新しい挑戦だ」と語る。フローの弱点を補うため、テンセントはマイクロソフト、IBM、ファーウェイから人材をスカウトした。5月時点でCSIGのスタッフは7000人だったが、10月には8000人に増加、スタッフ増加の最も速い事業グループとなっている。

これまで個人ユーザー向けサービスをしていた時は、関心の対象はサービスそのもの、DAU(デイリーアクティブユーザー数)、滞在時間などであった。CSIGのメンバーには、個人ユーザー側の視点を失うことなく、顧客である企業側の立場にもなって問題を考えるようにと、湯道生氏は希望する。しかし、業種によって成熟度もニーズも様々だ。例えば、医療では顧客との長期的な関係の構築が求められるし、クラウドなどの比較的成熟した業務ではサービスの質、安定性、コストにより多く配慮しなければならない。

企業向けビジネスフローも顧客企業の業界特性も、長期にわたる経験の蓄積を必要とする。結局、それは「人間」の問題、「メカニズム」の問題、「文化」の問題に帰着するのだ。

企業向けサービス市場、任重くして道遠し

企業向けサービスをこれからのトレンドと見ているのはテンセントだけではない。「バイトダンス(字節跳動)」は、時間管理ツール「朝夕日暦(sortime.com)」や業務効率化ツール「幕布(Mubu)」を買収、クラウド型文書作成ツール「石墨文档(shimo.im)」、「堅果雲(Nutstore)」を運営する「亦存網絡科技(Yicun Network Tech)」、高解像度ビデオ会議ソリューション「藍猫微会(SOMO)」に出資してきた。バイトダンスが海外市場向けに開発したオフィスソフト「Lark」は、中国国内にも販路を広げようと、SaaSベンダーや流通・販売業者と連絡を密にしている。

鉄血と称されるファーウェイは「ファーウェイのパブリッククラウドは3年で『阿里雲(alibaba Cloud)』を超える」と豪語し、過去2年の間に3回クラウド業務に大変革を行ってきた。「華為雲(HUAWEI CLOUD)」は現在クラウド&AIにおけるトップ事業になっている。

何事も最初が最も難しい。10年後にこの1年を振り返ってみれば、すべてはただの始まりに過ぎなかったということになるだろう。

(翻訳・永野倫子)

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録