会員制ビジネスモデルが成功でも限界あり、ボトルネックを突破するには?

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利用客をオンラインから実店舗へ誘導して稼ぐO2O戦略。フリーミアムや広告費に多額の資金を使い、リアル店舗へと集客してきた。多くの企業が資金力に支えられ、これまで持ちこたえてきたが、そんな状況が一変する。

英会計事務所大手PwCによると、2018年上半期、TMT(テクノロジー・メディア・通信)業界向け投資額は前期比で17%減少したという。やみくもに資金をつぎ込む投資から収益志向に転換し、これまでのプロモーション手法が行き詰まっている。そんな中、購入率の高い馴染み客にターゲットを絞ったプロモーション「会員制ビジネスモデル」が注目されつつある。

このモデルで成功している米会員制スーパー「コストコ」の中国1号店が8月末に上海で開業。299元(約4600円)の年会員カードは約1カ月で10万枚以上売れ、オープン当日は来店客が殺到したため5時間で営業を終了したほどだ。小売り業が通販に圧されている中、コストコはこれに逆行する数少ない成功例だ。2018年度の純利益は31億4200万ドル(約3400億円)で、その99.8%を会員費が占める。仕入れと売り上げの差額のみに頼るビジネスモデルとは大きく異なる。

コストコの盛況ぶりを目の当たりにした中国小売り各社は、生き残りをかけて会員制に打って出た。

<h3>会員をもっとビジネスに活用したい</h3>

高いコストを費やして集客しても、大した収益が見込めない。理想をいえば、一度だけのプロモーションで将来の馴染み客を獲得したい。利益の8割は、2割の馴染み客からもたらされる。小売り業界ではこう言われているからだ。

集客コストが上昇し続けた結果、企業はその分を既存市場の掘り起こしにまわすことにしたようだ。会員カードこそが理想の顧客に照準を絞るツールとなる。そう考えたネットサービス各社は2018年、こぞって有料会員カード戦略を打ち出した。 

有料会員カードの会費と特典一覧

 会員カードの大半は年会費を支払えば入会可能だが、コストコと、アリババの高級会員制度「88VIP」は入会に際して要件がある。例えば「88VIP」は年会費88元(約1400円)と安いが、この価格が適用されるのはアリババグループ傘下サービスの利用状況によって付与されるポイント「淘気値」が1000ポイントを超える会員だけに限られ、それ以外のユーザーは10倍の会費を支払う必要がある。アリババの狙いは富裕層だ。高収益が期待できるユーザーにターゲットを絞って特典を与えている。

会員カードの特典は、「自社の商品サービス」と「提携先サービス」のどちらを提供するかによって2タイプに分けられる。コストコとネットイース(網易)傘下の「網易厳選(Yanxuan)」は、会員向けに自社の商品やグループ内だけで使えるサービスの特典を与え、会員のリピート率と定着率アップを狙うがインパクトに欠ける。

一方、外部と提携し特典サービスを提供するという手法は、特典をより魅力的にするほか、その提携先と顧客を囲い込もうとする戦略がみてとれる。例えば、動画配信サービスの「愛奇芸(iQIYI)」とEC大手の京東(JD.com)が提携、Q&Aサイト「知乎(Zhihu)」はその両方と組んでいる。アリババ傘下の次世代スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」はグループ傘下の決済システム「アリペイ(支付宝)」と連携している。88VIPの会員システムはまた米ホテル大手「マリオット・インターナショナル」、健康診断事業を運営するヘルスケア大手「愛康国賓(iKang Healthcare Group)」などの異業種間でも連携し、グルメからエンタメ、旅行までカバーしようと試みている。

しかし、有料会員の限界は早々にやって来た。中国のユーザーは前払いに対して抵抗感をもっており、都市部以外でこのモデルは成功していない。店が無くなるのではという不安がついて回り、有料会員となるハードルを上げていた。

<h3>ボトルネックを解消し、会員を増やすためには</h3>

有料会員システムのボトルネック:

1.年会費の前払い制が顧客にとって負担に。店に対する信用度も低い

2.運営が難しい。ショップ側が損失を抱えることも

3.会員を効率良く運用できない 

これらを解決するためには、まず顧客から会員費を預かる前払い制をやめることだ。 

IT大手がこの状況に風穴を開けた。その一つがアリペイが9月に発表した「軽会員」だ。グループ傘下のクレジットサービス「花唄(Ant Check Later)」や信用スコアリングサービス「芝麻(ゴマ)信用」の信用状況によって、ユーザーは会費を前払いする必要がなく、先に会員特典が受けられる仕組みだ。これは前払いという心理的ボトルネックの解消に一役買っている。

アリペイが公表したデータによると、この会員サービスに加入したショップでは客単価が55%アップ、購入頻度も60%上がったという。新規顧客は30%増え、カード発行率は3倍増となり有料会員に対するハードルが下がったことを証明している。

2つ目に、損益分析をおこない運営計画を立てること。これをしっかりやらないと、会員制ビジネスモデルのデッドラインを見極めることができず、過度なサービスによってコスト超過に陥る。 

対応策は会員期間を短く設定することだ。会員を制約しない代わりに、運営する側も縛られない。無人スポーツジム「楽刻(LEFIT)」は、スポーツジムの会員期間が通常1年なのに対し、これを1ヵ月単位に短縮。フィットネス業界で利益を出している数少ないブランドの一つだ。軽会員も最短1週間からラインナップを揃えている。

3つ目のボトルネックは、会員を効率よく運用できずマネタイズ効果が見えにくいことだ。ブランド力があり多くのユーザーを抱えるショップであれば、これを解決するため自社の公式サイトやアプリで運用することも考えられるが、小規模なショップの場合は難しい。そこで最近注目されているのが大手プラットフォームの力を借りる方法だ。IT企業御三家「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」の「ミニプログラム(アプリ上で動くダウンロード不要のクラウドアプリ)」という選択肢がある。

現時点ではアリペイとメッセージアプリ「WeChat(微信)」のミニプログラムが集客ツールとして多く利用されている。店側は会員とこれらのアカウントシステムを連携させ、ユーザーは店のクーポン券を受け取ってアプリの「カードケース(クーポン券や会員カードなどを一括管理する機能)」に入れて利用する仕組み。アプリの定型フォームでユーザー心理にリーチ、公式アカウントなどで長期的に顧客をフォローできる。ウォレット機能のなかにあることで販促効果が高まっている。

会員制ビジネスモデルを上手く運営すれば、息の長い経営ができるだろう。ただし、会員カードを通じてユーザーに寄り添った運営をおこない、そこから利益を最大限に引き出すことができて初めて成長が見込める。ユーザーにマッチした会員カードの運営こそが、今後のビジネスを成功へと導く秘策かもしれない。(翻訳:貴美華)

 

作者:零售老板內參、梅超瘋、原文記事はこちら

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