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モバイルインターネットの勃興初期にシリコンバレーで注目を集めたEvernoteは、中国でも「印象筆記」という名前で早くから進出し、数多くのファンを獲得してきた。しかし、非常に複雑でかつ実用的ではない同社のガバナンスプロセスや管理方式があだとなり、目まぐるしく変化する中国市場に適応できなかったため、中国インターネット業界のメインストリームから徐々に忘れられた存在となっていた。
だが昨年、同社の董事長兼CEOの唐毅氏がメンバーを引き連れて独立した。シリコンバレー至上主義とは一線を画し、新たな使命を確立したことで、自身の現地化理論に基づく「外資系企業」の改革に成功している。
独立後、印象筆記は「第二の頭脳」というコア・ミッションをもとにあらゆる新事業を試みてきた。印象筆記プロフェッショナル版、オンラインレッスン、手書き入力ハードウェア「EverPEN(印象筆)」、さらにはまもなくリリースされる予定のオープンコンテンツプラットフォームなどの開発に取り組んできた。
同社は二度と「緩慢な企業」と見なされることを望んでいない。「ユーザーのニーズはまだ十分に満たされていない。スピード感は絶対に必要であり、企業は果敢にチャレンジするべきだ」と唐氏は述べている。以下は36Krの唐氏に対するインタビューをまとめたものである。
ユーザーにとって「第二の頭脳」に
ーー最近リリースされたプロダクト「EverPEN」は、紙のノートに書かれた内容がソフトウェアとリアルタイムで同期するというものですね。しかし専用ノートの価格は安くありません。普及させるのはやや難しいのでは。
「EverPENは我々の考える手書き入力の最終案というよりは、むしろ一つのメッセージとしての意味合いが強い」
「手書き入力はいまだに多くのユーザーに支持されており、デジタル入力に取って代わられていない。我々の今回の試みはそうしたソリューションのうちの一つであり、カメラ搭載を搭載したペンや、ドットマトリクスを使った特殊用紙と特殊インクを採用している。印象筆記は情報記録シーンの多様化を目指しており、ハードウェアや実体製品も排除しない」
ーーあなたはそうした問題を考える際、製品と技術のどちらを出発点としていますか。
「印象筆記のコア・ミッションや使用シーンが私の出発点となっており、技術や製品はその次だ。『第二の頭脳』を目指すという我々の使命に変わりはない。中国の多くの人々が重要情報や知識を保存するプラットフォームを必要としており、そうしたプラットフォームはスマートフォンのトップ画面に置かれ、情報の記録や処理、接続、共有、共同作業に利用される。こうしたツールには消費者向けのtoCと企業向けのtoBの両方が含まれる」
ーーオンラインドキュメント業界では、バイトダンス(字節跳動)が「石墨(Shimo)」や「幕布(Mubu)」への出資や買収を実施しているほか、テンセントも「騰訊文檔」を発表するなど大手IT企業が次々と参入していますが、こうした動きは印象筆記にどのような影響を与えていますか。
「純粋にSaaSの視点からいえば、当社のこの2年間のビジネスモデルと成長曲線は非常に妥当なものだったと考えている。現在、多くの企業がオンラインドキュメント関連の製品へと回帰しているが、これは市場がそうした製品を評価しており、将来性があることを示すものだ」
「当然ながら、我々は騰訊文檔のような『ドキュメント作成ソフト』と印象筆記のような『ノートアプリ』を同列に論じることを望んでいない。なぜなら両者は異なった製品タイプであり、完全な競合関係にはないからだ。ノートアプリは将来的にはドキュメント作成ソフトで作成したドキュメントを保存・管理するプラットフォームとなる可能性がある。しかし一方で、ドキュメント作成ソフトにはもともと安定した需要がある。なぜなら人々はマイクロソフトオフィスを使い慣れているからであり、ドキュメント作成の際に真っ先に思いつくのはWord、Excel、PowerPointだ」
「今年のワールドインターネットカンファレンスで先端技術成果として選ばれた『スーパーノート』がこれからの成長の方向性となるだろう。我々は既存のエディタやドキュメントタイプを超越し、柔軟性の高い次世代型のエディタを発表した。現在、この製品の機能を絶えず改善しており、複数のファイル形態との互換性を実現している。表、文書、プレゼンテーション資料のどれでも自由に作成できる」
ーー以前、1年前の中国事業の独立からこれまでが印象筆記にとって成長の最も速い期間だったとおっしゃっていましたね。唐CEOはこの1年に何をされてきましたか。
「我々は広告を打たず、製品の新機能の更新に精力とリソースの全てを注いできたことは確かだ。資金を投じれば利用者が獲得できる時代はとうに過ぎ去ったと考えており、企業の成長を手に入れるには『製品力』が必須と考える。我々は数カ月の期間で、独立以前に数年かかっても解決できなかった問題を解決したほか、新たな製品機能を絶えずリリースしてきた。この1年間の印象筆記のユーザー増加率、ユーザーが保存したメモの数、アクティブユーザーの増加、企業収入はいずれも倍増した」
「我々の過去のイノベーションの多くは、ユーザーにせき立てられて実施したようなものだった。米国本部の事業スピードはあまりに遅すぎて耐えがたいものだった。米国のインターネットユーザーは新たな機能を受け入れる速度も遅い。我々がサービスを提供する中国のユーザーは、中国のインターネットの(変革)スピードを必要としている」
「実を言えば、この1年間はとても辛い期間だった。技術者は2カ月間で数百万行のコードを学習した上で、4~5カ月で中国のユーザーが長らく期待していた決済と登録の問題を非常にスピーディーに解決した。また1カ月半でデータをテンセント・クラウド(騰訊雲)に移行し、半年足らずでリストや画像の素材データベースなど一連の機能をリリースした。米国のエンジニアが3年かかってやっと完了するこれらの作業を、我々は半年で終えた。さらにプロフェッショナル版も半年未満でリリースした。現在は独自のコンテンツプラットフォームの準備も進めている」
ーーなぜそれほどまでにスピードが必要だったのでしょうか。スピードには絶対的な価値があるということですか。
「ユーザーのニーズが満たされていない場合、スピード感は必須であり、企業は果敢にトライアンドエラーを繰り返すべき。ただしスピードがサービスのボトムライン、クオリティ、評判、財務に影響するほどであれば、速さを追求してはならない。チームに勢いがあれば、またはユーザーにニーズがあればスピードを追求したいと考えるものだ。当然ながら、その過程にはトライアンドエラーがあり、10の新製品のうち必ず9つ成功すると確信を持って言える企業など存在しない。10の新製品のうち1つでさえ成功するとは限らないものだ」
「ガバナンスとしては、私、投資家、米国本社がそれぞれ1票ずつを有している。多くの事項で全員の一致が必要で、非常に健全な仕組みだ」
ーー市場には真の意味で効率化のみに特化したプロダクトは存在しないとお考えですね。しかし一部の製品は元々はそうした製品を目指していたのに、事業を進めていくうちに、娯楽コンテンツまたは時間を消耗させるコンテンツが、デイリーアクティブユーザー(DAU)や顧客ロイヤリティや広告収入の引き上げにおいて魅力的であることに気づきます。
「我々は利益、顧客ロイヤリティ、有料ユーザーの継続率、月間アクティブユーザー(MAU)を見る際、非常に細かい市場を見ている。単純にDAUや登録ユーザー数を追求する場合は、娯楽コンテンツや地方市場への特化が必要になる。しかし地方市場を狙うかどうかにかかわらず、製品が本当にユーザーの問題を解決しているかが重要だ。我々は地方都市市場への特化ではなく、ユーザーのニーズを深掘りすることを選ぶ。消費のアップグレードこそ好まれるものであって、地方市場に傾斜することはしない」
アイキャッチ画像提供:印象筆記
(翻訳・神部明果)
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