自動車メーカーが配車サービスに相次ぎ参入 成功かそれとも配車大手が甘い汁を吸うのか

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モビリティ市場では配車サービス大手の「滴滴(DiDi)」がすでに市場シェアの約8割を占めているが、残りのパイを求めてますます参入企業が増えている。そのなかでも、最も多いのが自動車メーカーだ。

昨年、自動車市場はここ10数年来初めてのマイナス成長となった。これを受けて各社はようやく配車サービス事業への参入を決定。自ら会社を設立し配車アプリを開発・運営し始めた。参入から1年あまり経ったが、自動車メーカーは逆風を乗り越えられたのだろうか。

業界を越えた提携

中国国内では、新エネルギー車(NEV)の配車サービスへの参入が大きな流れになっている。一部の都市(広東省深圳市や東莞市)では「配車サービスにはNEVを使用する」と関連規定で明文化された。NEVはガソリン車に比べて低コストであるため、自動車メーカーが配車サービスに参入するハードルも下がる。車両という「資源」を持つ自動車メーカーにとって、配車サービス参入には構造的な強みもある。

自動車メーカーのモビリティ分野への参入は単純に自動車販売のためだけではない。自動車業界の拡大のためでもある。自動車メーカーは製造者からサービス提供事業者へ、製品の運営からユーザーの運営へと構造転換をはかっているところだ。自動車メーカーにとって、モビリティ事業は資産を活用できるフィールドだ。それにより自動車の生産、利用、運営から廃棄処分まで一連のサイクルを形成できる。

現在中国国内の6大自動車メーカー「上海汽車集団(SAIC MOTOR)」「東風汽車(東風、DONGFENG MOTOR)」「中国第一汽車集団(一汽、China FAW Group)」「長安汽車(長安、Changan Automobile)」「北汽新能源汽車(BAIC BJEV)」「広州汽車集団(GAC Group)」はすでに自社のモビリティサービス会社を設立している。

自動車メーカーは基本的に自社の資金でモビリティサービスを運営しているが、複数の企業と提携することでコストが分散できる。また、車両を増やすことで配車能力をあげ、ネット運営力を互いに補い合える。こういった事情もインターネット企業と自動車メーカーもしくは自動車メーカー同士の業界を超えた提携を促進している。例えば一汽は傘下に「易開出行(EaKay)」「旗妙出行」を持つほか、自動車メーカーの東風、長安、IT大手のテンセント、アリババと提携し「T3出行」、フォルクスワーゲンと提携し「摩捷出行(mobje)」を運営している。

国内自動車メーカーによるモビリティ事業の展開状況

集客の課題

モビリティ市場全体を見渡すと、人々のニーズはまだピークに達していない。当局からの監督管理などで制限されるため市場のパイは無制限に拡大はできないものの、今も多くの企業が参入している。

自動車メーカー以外に、多くの小規模な配車サービスプラットフォームやデジタル化を模索している観光タクシー会社、リース会社、従来型の輸送企業などがこの業界にひしめいている。しかし、参入企業が多くなり、ドライバー達が実感しているのは1日あたりの受注が減り、以前よりも稼げなくなっていることだ。

東莞市の交通運輸局によると、昨年10月1日から11月13日までの同市における配車サービスの1日当たりの売り上げは157元(約2500円)だったという。1日の受注件数が10件以下の車両は61%に上った。これは、同市ではドライバーが1カ月休みなく働いたとしても平均月収は5000元(約8万円)に満たないことを意味する。同様の状況は配車サービス事業が最も盛んだった深圳市においても発生していた。

自動車メーカーがモビリティ事業を行うにあたり、鍵となるのはやはりユーザーの獲得だ。そのうち地図大手「高徳(Autonavi)」や生活関連O2Oサービス企業「美団点評(Meituan Dianping)」、滴滴の運営するオープンプラットフォームに加入するのは悪くない方法だ。実際に、自動車メーカーの多くが参入初期には統合型のプラットフォームと提携している。

しかし統合型プラットフォームが自動車メーカーのコスト削減と集客をサポートする一方で、課題も生まれている。業界関係者によると、プラットフォームでは各事業者の価格透明化が進むため、競争が激しくなり、事業者間で比較できる要素は価格のみとなる。加えて、こうした統合型プラットフォームを利用するユーザーを各事業者に定着させるのは難しい。

自動車メーカーは統合型プラットフォームの集客力に依存し、自社で集客チャネルを構築するのを疎かにしがちだ。業界関係者によると、配車サービスの「首汽約車(Shouqi Limousine & Chauffeur)」は、高徳、百度地図、美団と連携して以降、受注件数のうち大部分が自社で4年間運営したアプリではなく統合型プラットフォームからきているという。

集めたユーザーを定着させるため、大部分の自動車メーカーは配車サービスの際に宣伝を行っている。ユーザーに割引などを提示してアプリのダウンロードを誘導したり、リピーターを獲得したドライバーにインセンティブを与えるなどしており、こうした「抜け駆け」行為は業界で公然の秘密となっている。同時に、自社プラットフォームを充実させるために自動車企業は絶えず利用シーンを拡大している。例えばビジネス利用や高級車、チャーター車、都市を跨いだライドシェアなどだ。

しかし価格競争を通して築いたユーザー層は非常に脆い。消費者からすれば、価格さえ安ければどの事業者でも良いということになるからだ。割引が終わり、プラットフォームの使い勝手やサービスが追いつかなければユーザーは離れていくだろう。

だが生き残るためには統合型プラットフォームに頼るしかない。小規模な自動車メーカーにはそれしか選択肢がないのだ。
(翻訳・山口幸子)

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