アント・フィナンシャルの医療共済「相互宝」、赤字続きでもアリペイに重要価値

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アリババ・グループの金融関連会社「アント・フィナンシャル(螞蟻金服)」が運営する医療共済「相互宝」は、2018年11月のサービス開始からわずか9日間で1000万人の加入者を獲得し、その後の8か月間で加入者は8000万人に達した。

相互宝は、医療共済業界では後発でありながら急速に成長した。相互宝のライバルで、テンセントが出資する「水滴互助(Waterdrop Mutual)」は、2016年にサービスを開始し、現在、加入者数約8000万人だ。

相互宝が急速に加入者数を伸ばせた理由は、加入の敷居が低いことにある。「アリペイ(支付宝)」ユーザーは、一定以上の芝麻信用スコアがあれば無料で加入でき、いつでも解約することができる。アリペイを利用してモバイルバッテリーを借りるのと同じぐらいの気軽さで利用が可能なのだ。

アリペイという巨大なトランザクションを持つプラットフォーム上に入り口を持つ相互宝は、加入者数の増加において大きな強みがある。しかし、被共済者が増えるにつれ、無料で加入したユーザーは負担費用が増加するという問題に直面する。

サービス開始から1年経ったが、相互宝の運営は依然として赤字である。アント・フィナンシャル保険事業グループの尹銘総裁は、相互宝で利益を出すことは考えていないと述べた。

これは相互宝が公益的な側面を担っているということを意味する。一般的な保険と異なり、相互宝は加入者が最初に費用を払う必要がなく、保障内容はベーシックなものに限られている。この仕組みを維持するにはサービスのバックボーンとなる確固としたビジネスロジックが必要である。

公益性を支えるビジネスロジックとは

相互宝は医療共済であり、加入者が重大な疾病に罹患した場合、39歳以下であれば30万元(約480万円)、40歳~59歳までは10万元(約160万円)の共済金を受け取れる。共済金は加入者全体で負担する。

医療共済のロジックは保険商品より分かりやすく、これは医療共済の位置付けと関連している。保険のアルゴリズムは非常に科学的で、保険会社にとっての経営上重大なリスク回避を目的としているが、その複雑さゆえに保障が必要な人が利用できないことが多々ある。尹銘氏は「サービス内容を簡略化し、より多くの人が相互宝を使えるようにしたい」と語る。

実際のところ、各共済商品の計算ロジックは保険商品とそれほど変わらない。年齢による疾病の発症率、疾病のリスクなどのデータに基づいて共済商品を設計し、加入者の負担費用と共済金の金額を決定し、若者と中高年の間で負担費用が公平に維持されることを担保する。

保険商品との違いは、共済金の請求が加入者全体の負担費用に影響するので、案件の調査、紛争の解決、透明性の確保、契約条項など各オペレーションプロセスの見直しに絶えず投資を行い、公平性を保つことが必要な点にある。

現在、相互宝は8%の管理費でこのオペレーションコストをカバーしている。公式データによると、2019年11月27日までの1年間で、1万1928人に対し、合計18億7500万元(約300億円)を支払った。この金額から推定すると、相互宝のプラットフォームの年間管理費用は約1億5000万元(約24億円)である。

共済金の請求が増えるにつれ、リスクコントロールと調査に掛かる費用が増える。加入者と被救済者の増加に対して、どのように需要と供給のバランスを取り、持続的に安定した運営をしていくかが課題である。現在のところ、相互宝加入者は順調に増えており、解約率も低く、運営状況は安定している。

長期的には加入者数が一定規模に達すれば、1人当たりの負担費用はあまり変化しなくなる。医療共済プラットフォームが軌道に乗るには、豊富な資金と運営能力によって、負担費用の増加というボトルネックが解消されるまで、持ちこたえることが重要である。

収益性だけではないメリット

赤字を出していても、相互宝はアリペイにとって重要な価値がある。

まず、相互宝により地方都市に住むユーザーを獲得できる。相互宝加入者のうち、3分の1は農村や県級市(中国の行政区分で県と同等の市)に住んでおり、三級以下の都市居住者が全体の6割を占める。競合である水滴互助の加入者も70%は地方都市在住である。

相互宝は加入者増加によってトランザクションを増やすだけではなく、毎月の負担費用の支払いや共済金の請求などによって、加入者がアリペイを利用する機会を増やすという効果も生み出す。

プラットフォームにとって、医療共済はトランザクションの増加や、ユーザーの獲得を期待できるだけではない。ユーザーの認知度が上がりニーズが増えれば、保険やその他の関連商品を併せて提供することも可能となる。これは成功率の高いビジネスモデルである。

このビジネスモデルを実践する方法は、プラットフォーム上に保険商品の広告を掲載する、あるいは自ら保険商品を販売することである。アント・フィナンシャル、水滴、「京東(JD.com)」、「バイドゥ(百度)」、「滴滴(DiDi)」、「美団点評(Meituan Dianping)」、「360金融」などは既に保険ブローカーの免許を取得した。

相互宝の収益化はあまりスピーディーではないが、スタートアップにとって収益化圧力は大きい。水滴互助が長期保険の販売を開始した2019年5月、保険料収入は600万元(約9600万円)であったが、11月には当月の長期保険の初年度保険料収入が1億元(約16億円)を突破し、わずか6か月で20倍もの成長を達成した。

しかし、医療共済はベーシックな保障を提供するという公益性を持つ商品であるため、収益化を急ぐあまり不適切な処理を行うと信頼の危機を招きやすく、一旦加入者の信頼を失うと医療共済というモデル自体を存続できなくなる。

最近、水滴傘下の医療費クラウドファンディング「水滴籌」のスタッフが病棟に入り込み、患者が違法な手段で資金を調達できるよう幇助していたことが発覚した。水滴にとって医療費クラウドファンディングと医療共済はどちらも保険販売の入り口となるサービスであるが、サービス内容は別である。しかし大部分の加入者からは同じ企業のサービスとして同一視されるため、医療費クラウドファンディング事業での失態は同社の医療共済事業にも大きな影響を与えている。

今のところ、医療共済は大規模な収益化を目指すほどは成熟してはおらず、当面は合理的で安定した運営を維持していくことが重要である。
(翻訳・普洱)

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