見守りのはずが「いいね」競争に 中国の子ども用スマートウォッチ、その進化と波紋
中国のスマートウォッチ市場は、他の国と異なり子ども用製品が大人向けと並ぶ一大カテゴリーとなっている。実際、世界で出荷される子ども用スマートウォッチの半数以上を中国が占めている。代表的ブランド「小天才(imoo)」は、同カテゴリーで世界シェア48%を獲得し首位に立つ(Counterpoint Research調べ、2024年第2四半期)。
中国で子ども用スマートウォッチが売れる背景には、位置情報の確認や電話連絡といった親の見守り需要がある。中でも人気の小天才は、製品の良さや安全機能だけでは説明できないわけがある。
子供用スマートウォッチといえど低価格なものから高性能なものまでピンキリではある。小天才の「Z12」やファーウェイの「5X Pro」といったフラッグシップモデルは、大人向け製品顔負けの魅力を備えている。どちらも時計本体を360度回転・反転できてバンドから外せば、手持ちカメラや通話端末として利用可能だ。たとえば、装着された時計本体部を外し、友だちや目の前の風景を撮ることができるわけだ。親にとっては通話時に周囲を確認するための機能だが、子どもにとっては小型カメラであり、クラスの友達に見せられるギミック玩具でもある。
連絡端末から独自のSNSへ
子ども用スマートウォッチは、位置確認、通話、ビデオ通話、SOS機能などを提供する。スマホをまだ持たせたくない家庭にとって、連絡用と見守り用の中間に位置する端末だ。加えて、小天才は時計同士を近づけて友だちを追加する機能や、音声チャット、投稿や「いいね」ができるSNSサービスを備えている。これこそが子どもたちの心を掴む最大の要因となっている。
クラス内で小天才を使う子どもが増えるほど、その端末を通じて繋がれる友だちも増える。別ブランドの利用者は、小天才ユーザーとスマートウォッチを通して友だちになれないため、「みんなと同じゲーム機を買うことで会話に入れる」ような状況が生まれている。結果として親も「同級生と繋がれる定番ブランド」を選ばざるを得なくなる。
さらに厄介なのは、友達数や「いいね」、レベル、ポイント、アバターの装飾などが、クラス内の人気や地位を可視化することだ。レベルに応じて1日に送れる「いいね」数が増え、獲得ポイントでプロフィールをデコレーションできるため、数値の高い利用者は仲間内で一目置かれるようになる。
子どもたちは、初期SNSの相互訪問文化に、アバター装飾や、ソーシャルゲームのランク争いを重ねたような仕組みを楽しんでいる。人気の数値を増やすことは、単なる投稿への反応集めではなく、日々の相互いいね、友だち追加、レベル上げを伴う遊びであり、大人のような集団内での関係維持の作法でもある。
過熱する承認欲求とビジネス化
友だちとつながる手段として普及する一方、「いいね」数やプロフィールの装飾を競う動きも目立つようになった。その結果、オンラインゲームのようなレベル上げや「いいね」やフォロワー獲得の代行業者が出てきて、メディアからたびたび指摘されている。「いいね」数が50万を超えるアカウントが500元(約1万2000円)で出品される事例まで発生した。見守り端末は子ども向けSNSになり、さらにSNSはゲーム化され、子どもの承認欲求を満たすビジネス化が進んでいる。

小天才の健康モニタリング画面をめぐる投稿が議論を呼んだ
子ども用スマートウォッチは友達の数や人気だけでなく、身体データまでもシェアするようになった。2026年夏、小天才の健康モニタリング画面をめぐる投稿が議論を呼んだ。身長167cm、体重50.5kgの少女に対し、スマートウォッチが「やや重い」「同年代の女子の99%より体重が重い」といった趣旨の表示を出したことが話題に。身長などを十分に考慮せず、体重の数値や同年代との比較を強調する表示に対し、子どもの体形への不安をあおるとの批判が出た。これを受け、小天才は表現の不備を認め、健康モニタリング内の評価判定コンテンツを取り下げている。
中国政府は2025年12月、子ども用スマートウォッチの安全性や個人情報保護などを定める強制国家標準を発表した。2027年1月1日から施行される。
新規格では、スマートウォッチにゲーム、漫画、小説、ショート動画、ライブ配信などをプリインストールしないこと、保護者が利用可能な時間や時間帯を設定できることを求めている。加えて異なるブランド間で電話番号とニックネームを交換できることを求めていて、囲い込みの解消が図られた。ただし、小天才独自のSNS機能と「いいね」数やポイント制度が他社に解放されるわけではないため、独自の生態系は残りそうだ。

小天才独自のSNS機能
中国の子ども用スマートウォッチは、見守り端末から、カメラ付き玩具、学校内SNS、そして人気や身体状態を評価・表示する小さなプラットフォームへ変わった。人気の数値化や過度な利用といった課題も浮かぶなか、次はどんな機能や仕掛けで子どもたちの心をつかむのか。その独自の進化に注目したい。
(文:山谷剛史)