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以下は昨年11月下旬、「GGV紀源資本(GGV Capital)」が実施した座談会「FOUNDERS+LEADERS」で、GGV紀源資本の管理パートナーである童士豪氏(Hans Tung)氏の行った講演をもとに編集した内容。
2000~2019年に、中国市場のインターネットユーザーは数百万人から10億人近くに増加し、結果として多くの上場企業やユニコーンが誕生した。調べによると、中国には現在130社を超えるユニコーンが存在する。今後、巨大な新興市場がどこになるのかに注目が集まっている。
2009年は11月初旬に実施される中国の大型セール「双11」が初めて実施された年だが、当時のアリババのGMV(流通総額)は800万ドル(約8億8000万円)だった。現在はこれが380億ドル(約4兆2000億円)以上に達しており、この10年間で「双11」期間中のGMVは4000倍以上になった。一方で米国の「ブラックフライデー」と「サイバーマンデー」のGMVは、この10年間で20億ドル(約2200億円)から80億ドル(約8800億円)に増加した。ある程度の増加はみられるものの、「双11」における増加とは比較にならない。
だが、この期間における中国のインターネットユーザー数の伸びは2倍にとどまっており、ここからユーザーの消費習慣の変化が読み取れる。我々が次なる10億人のユーザーがもたらすチャンスに着目する際、彼らの消費行為にはどのような変化が生じるか、またどのようなサービスが彼らの実生活をより効率的かつ好ましいものに変えられるかという点を理解する必要がある。
米国のモバイル市場に関するいくつかのリポートによると、2018年の世界のインターネットユーザー数はおよそ30億人に達しており、2021年には38億人にまで増加するという。そのうち3分の2をインド、東南アジアおよびラテンアメリカのユーザーが占めるようになるほか、インドユーザーの割合は最も高く、6億人を超えるとみられる。
これらのユーザーの半数近くが24歳以下の若者だという。彼らは情報時代を生きており、幼少期からさまざまな電子製品に慣れ親しんでいる。彼らのうち7割がスマートフォンでインターネットを利用している。自宅や会社などのADSLを利用したインターネットは使用できる場所が限られているためだ。インターネットに即アクセスできることを望む若者が増え続けているため、モバイル機器のニーズも高まる一方なのだ。インドでは4Gの普及がインターネットの接続コストを引き下げた。
インターネットの発展環境と普及度についてみると、アリババで副会長を務めた蔡崇信氏は過去の取材で「中国の1人当たりGDPが4000ドル(約44万円)に達したことで、ECは国内で急成長を遂げることができた」と述べた。2009年の中国の1人当たりGDPは約3800ドル(約42万円)だった。インドネシアの1人当たりGDPも現在4000ドル(約44万円)に迫っており、インターネット普及率も53%に達している。
ブラジルの1人当たりGDPはすでに8900ドル(約98万円)に、またインターネット普及率は70%に達しているが、同国の経済はこの10年で発展しておらず、むしろ若干衰退している。このような背景の中、ブラジルの企業家やVCの多くが、成熟したモバイルインターネットによりITをさらに発展させる可能性に注目している。
このほか、インドの1人当たりGDPは2000ドル(約22万円)とやや低く、インターネット普及率も41%だが、2億人いる高所得層の1人当たりGDPはインドネシアと同水準だ。このため、現段階でインドに投資をする場合、toCモデルを採る企業への投資は時期尚早であり、1人当たりGDPがさらに増加するのを待つ必要がある。
新興市場の発展ポテンシャルとVCによる投資チャンスについても見てみよう。VCは2018年、インド市場で計80億ドル(約8800億円)、ラテンアメリカ市場で計20億ドル(約2200億円)、東南アジア市場で計110億ドル(約1兆2100億円)の投資を実施した。
インド市場については、インド市場の将来的な発展性が総じて好感され、インド市場に注力する投資家が増えている。このためインド企業の企業価値は比較的高い。これに伴い誕生したユニコーンの数も19社と多い。一方でラテンアメリカと東南アジアにはそれぞれ7社のユニコーンが存在する。ここでインドと米国を比較してみると、ニューヨークの2018年の投資総額は140億ドル(約1兆5400億円)だったが、ユニコーンはわずか20社にすぎない。
これらの国々では今後、投資チャンスがさらに拡大するだろう。「老虎基金(Tiger Global Mauritius Fund)」やGGV紀源資本といった世界的な大手ファンドでは、これらの国々、とりわけインドへの投資額が増加し続けている。
新興市場のスタートアップまとめ
以下、世界各地で有意義なビジネスを展開する代表的スタートアップ企業について紹介する。
1.ブラジル Loggi(ロッジ)
物流スタートアップのLoggiの事業規模は、すでにFedexとUPSの総和を超えている。創業者はフランス出身のFabien Mendez氏で、起業はこれが3社目となる。フードデリバリー、メッセンジャー(文書配送)、EC向け商品配送サービスを事業とする。
2.シンガポール Grab
東南アジアのユニコーンであるGrabは「スーパーアプリ」でもある。事業は配車サービス、モバイル決済、フードデリバリー、保険などの分野に及び、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、カンボジア、フィリピン、ミャンマーなどの東南アジア諸国をカバーする。創業者は米ハーバード大学卒のAnthony Tan氏。GGV紀源資本もシリーズBで同社に投資済み。同社はソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資も受けたほか、Uberとの提携も果たした。現在では東南アジア最大の配車サービス企業に成長した。
3.シンガポール Shopee
同国トップのECプラットフォームで、創業者は米スタンフォード大学卒の李小東(フォレスト・リー)氏。李氏と同社スタッフは中国人だが、累計で40年以上を東南アジアで過ごしており、同地域の市場を非常に良く理解している。同社は使用言語がポルトガル語とスペイン語のみであるという理由から、市場成長の最も早いラテンアメリカ市場に着目しており、今後のラテンアメリカ市場の伸びしろは東南アジアを上回るほどだ。
4.インドネシア Tokopedia
アリババも支援する同国EC最大手で、時価総額は70億ドル(約7700億円)。創業者のWilliam Tanuwijaya氏は3代目華人。B2CプラットフォームであるTokopediaはUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上に注力しており、アリババのほかソフトバンクの出資も受ける。
5.インドネシア Bukalapak
上記Tokopediaのライバル企業であり、同国EC第2位のBukalapakはインドネシアで4番目のユニコーン。創業者はインドネシアのMITとも呼ばれるバンドゥン工科大学出身のAchmad Zaky氏。BukalapakはSME企業(Subject Matter Expert、特定の業界やサービスを専門とする企業)にフォーカスしており、売り手のUX向上のため多くの試みを実施している。
6.インドネシア Traveloka
インドネシア版「Ctrip」ともいえる同社は、主にインドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、フィリピンの東南アジア6カ国の顧客に対し、航空券やホテル予約などのワンストップサービスをオンラインで提供。ハーバード大学を中退したFerry Unardi氏が2012年に創業。ライバルに、規模は同社よりやや小さいものの、旅行事業に特化した「Tiketcom」があるが、同社は2年前にインドネシア最大の中華系財閥Djarum(ジャルムグループ)に買収された。
7.インド Udaan
B2BのECプラットフォームである同社は、創業からわずか2年でユニコーンに成長。インドのSME企業(特に「パパママショップ」と呼ばれる家族経営店)に着目し、供給ルートを簡易化し、仲介業者を介さないかまたは最低限に抑えている。創業者Sujeet Kumar氏によれば「インドの都市化のスピードは中国より遅く、宅配便がカバーできない地域も多い。Udaanは全国に存在するパパママショップを利用するため、サービスはインド全土を網羅する」という。
8.インド Snapdeal
2010年に創業された同国第3位のECプラットフォーム。中国の共同購入モデルに続き、各ブランドが直接出店する「天猫(Tmall)」モデルに移行したが、現在は「淘宝(タオバオ)」モデルの導入も視野に事業の調整を進めている。同社の8割超のユーザーはインドの小都市在住者で、英語を話さず、ブランド意識も強くない。だが創業者のKunal Bahl氏とRohit Bansal氏は、4億人に上る二~三級都市の潜在ユーザーが、今後のEC市場で最も急速に成長するグループとみている。
9.インド BlackBuck
同国最大のトラック輸送会社。インド市場の1人当たりGDPは低く、業績の伸びに限りがあるため、ポーランドでインドのビジネスモデルを運用し、事業を展開する。創立から3年弱で東欧のポーランドに拠点を構え、インドの10倍の売上高総利益率を生み出している。
補足:シャオミインディア
海外進出における組織作りには非常に困難が伴うが、シャオミは巧みに現地のスタッフの力を引き出し、インド進出から3年で同国トップのスマートフォンメーカーの座を獲得した。シャオミの副社長でインド地域総裁のマヌ・ジャイン氏は、現地の人々から非常に愛されている上にインドの国情を知り尽くしており、ごく自然なかたちで商品の導入を進めることができる人物だ。さらにインドユーザーのニーズを理解しているため、シャオミはまるでインドの地場企業のように現地に溶け込んでいる。ナンバーワンの座は、製品だけに頼った結果ではないのだ。
(翻訳・神部明果)
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