「日米での経験は中国で通用しない」、Sansanとfreeeにも投資した有力VC「DCM」に取材

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「日米での経験は中国で通用しない」、Sansanとfreeeにも投資した有力VC「DCM」に取材

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創業から8年という長い期間を経て、クラウドコンピューティングサービスを手掛ける「優刻得(UCloud)」は2020年春節(旧正月)の前週、中国版ナスダックと呼ばれる上海証券取引所の「科創板(スター・マーケット)」に上場した。上場初日の終値は、公募価格に比べ110%超の上昇となり、時価総額は300億元(約4500億円)に達した。創業1年足らずの2013年に同社が最初の資金調達を決めた時、リード・インベスターを務めたのが米VC(ベンチャーキャピタル)のDCMだった。

中国に進出して14年が経つDCMは、モバイルインターネットとEC(電子商取引)の時代に目を見張る実績をあげた。過去10年間に、ベンチャーキャピタルへ10億ドル(約1100億円)以上の収益をもたらしたスタートアップは11社しかなく、そのうちDCMはショート動画アプリ「快手(Kuaishou、海外版はKwai)」、クラシファイドサイト「58同城(58.com)」、ECサイト「唯品会(VIP.com)」の3社に投資している。

消費者向けビジネスへの投資が盛んだった2013年にDCMは、当時ほとんど注目されていなかった企業向けビジネスへの投資に着手した。DCMの代表的な投資案件には、UCloud、トラック配車サービス「貨車幇(Huochebang)」、ビッグデータ分析サービス「神策数据(Sensors Data)」、医薬品B2Bプラットフォーム「薬師幇(Yaoshibang)」、経費精算プラットフォーム「易快報(eKuaibao)」、国際物流サービス「運去哪(YunQuNa)」、今注目のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)サービス「弘玑(Cyclone)」などがある。

2019年に中国の投資家がこぞって企業向けビジネスへと投資対象を切り替えた時、DCMはすでにSaaS分野で3件のIPOを成功させていた。米国と日本で、企業決済プラットフォーム「Bill.com」、クラウド名刺管理サービス「Sansan」、会計・人事労務クラウド「freee」を相次いで上場させることに成功。なかでもSansanは日本で昨年最大のIPOとなり、Bill.comは時価総額が30億ドル(約3300億円)を超えた。

UCloudの上場前に36Krは、DCM中国GP(ジェネラルパートナー)の林欣禾氏に話を聞いた。

日米での経験は中国であまり通用しない

――DCMは企業向けビジネスを手掛けるBill.comに長期にわたり投資しました。当初はどこに目を付けたのでしょうか。

「Bill.comに投資したのは2006年だ。当時、米国の小企業間では手書きの小切手を使う従来のやり方で決済が行われていたため、デジタル化が進むのは間違いなかった。社名も伝票の『Bill』とデジタル化の『.com』に由来する」

――以前にタイミングこそが全てとおっしゃいましたが、2006年にBill.comへ投資したのは良いタイミングだったのでしょうか。

「振り返ると少し早かった気もするが、当時のBill.comは非常に低く評価されていた。また、Bill.comの創業者はDCMがかつて投資した企業のCEOを務めていたという偶然もあり、この案件は人に投資したとも言える」

――御社がその後投資した日本のfreeeも企業間決済を収益源としています。この投資はBill.comを参考にしたのでしょうか。

「この2社はスタート地点が全く異なる。freeeは当初、小企業の帳簿作成をサポートしていた。日本ではfreeeがリリースされる前は会計士が顧客を訪ね、膨大な量の領収書を持ち帰っていたが、今では画像をアップロードするだけで自動仕訳入力ができ、関係者全ての時間が節約された。その後、freeeの収益源が企業間決済となったに過ぎない」

「企業の決済というのは興味深いコンセプトであり、中国で当社が企業精算SaaSを切り口に投資した易快報も同じ方面に事業を拡大している」

――御社が投資した日本のSansanは、ビジネスSNSの「LinkedIn」とビジネスモデルが似ています。その後に御社が中国で投資したビジネスSNS「脉脉(Maimai)」とSansanはつながりがありますか。

「これもそれほどつながりはない。Sansanは、企業向けの名刺スキャン・共有SaaS製品の提供からスタートした。日本で同分野の大手となった後、スキャン済み名刺から得た大量のビジネスパーソン情報を活かしてLinkedInに似た製品をリリースし、企業やヘッドハンターなどが情報を取得するデータベースとなった」

「一方の脉脉は、モバイル上のビジネスSNSアプリで、個人の職歴が示されることに最も大きな価値があり、これをベースにヘッドハンディング、インタラクション、バックグラウンドチェックといったビジネスが可能となる」

――御社は2006年に米国のBill.comに投資し、それから日本でSansanとfreeeに投資しました。米国、日本、中国の間に企業向けビジネスの展開で何らかの関連性はありますか。他国での企業向けビジネスへの投資は参考になるのでしょうか。

「方向性として参考にした点はあるが、利用シーンや切り口は異なる。企業向けビジネスの投資家と創業者の多くは、米国のやり方を持ち込む傾向にあるが、例えば中国ではスマホの普及率が高い一方、米国の企業向けサービスはPC利用がメインのため、米国で蓄積された大量の経験が中国では通用しないということになる。中国では、モバイル端末の普及がクラウドサービスの需要を高め、クラウド産業の驚くべき成長につながった」

「さらに日本と中国を比べると、日本の人口は中国の2~3つ分の省人口に過ぎず、市場は限られているように見えるが、日本企業は成熟度と標準化の水準が高い一方、中国企業は往々にしてカスタマイズサービスを求める傾向にある。SaaS企業にとっては顧客のニーズが似通っているほど好都合のため、多くのSaaS企業が日本で成功しているのだと思う」

「当社が投資対象としてBill.comのような企業を中国で見つけられないのは、『アント・フィナンシャル(螞蟻金服)』や『微信支付(WeChat Pay)』といった超大手が存在するため、創業者がそもそもこの分野に参入しようと考えないからだろう」

「国ごとに状況、文化、ビジネスが異なるため、企業向けビジネスへの投資において同じようなやり方を他国に持ち込むという発想は一般的ではない」

「人が多い場所に行くべからず」は永遠の真理

――DCMは、中国の消費者向けビジネス、もしくは消費者インターネットブームの勝ち組と言えます。御社が体系的に企業向けビジネスへの投資に取り組んだ理由は何ですか。

「唯品会の上場2年目(2013年)に、当社はすでにECやB2Cの過熱を感じていた。誰もが支援を止めずに企業価値をますます高め、価値を落とさないために投資を続けていた。人が多い場所に行くべからず。この分野は投資家であふれていた。投資の観点から大切なポイントを挙げると、2013年当時は企業向けビジネスの評価がまだ低く、試行錯誤のコストもかからなかったことが参入の決め手となった」

――「企業向けビジネスのターニングポイントを迎えた」という論調がここ数年に何度も指摘されています。この転換点は確かにあったのでしょうか。

「私はあったと思う。数年前の調査によると、中国の労働力人口は2014年がピークで、それから毎年200~300万人ずつ減少し、2034年までに1億人減少する見通しだ。つまり、人件費が上昇する可能性があるため、効率を上げなければならない」

――この「転換点」前にUCloudに投資した理由は何ですか。

「当時は市場が未開拓だったため、先行者にメリットがあった。UCloudはゲーム開発者向けサービスに参入することを選んだ。サーバーと計算力に対するゲーム開発者の需要は幅が大きく、リリース時にはリソースに対して多くのコストを費やすが、それ以外ではそれほどコストをかけない。そのため、開発者たちは必要な時すぐに拡充できるサービスをその都度購入して使いたいと考える」

「これは今聞くと単純に聞こえるが、当初これを見抜いていた人はほとんどいなかった。当時はアリババもクラウドサービスを事業戦略に位置付けておらず、『アリクラウド(阿里雲)』を利用するゲーム開発者たちが技術面やサービス面で満足していなかったため、UCloudはチャンスを得られた」

――クラウドは大手企業の戦場という考え方が一般的で、実際にアマゾン、IBM、アリババ、テンセント(騰訊)はいずれもクラウドサービスを手掛けています。その中で当時、スタートアップにもチャンスがあると考えたのはなぜでしょうか。

「確かに大手各社はクラウド事業を手掛け、競争力も持っているが、一方でユーザーはそのクラウド上に自社の資料を置くことに必ずしも安心していない。大手にデータを流用され、ビジネスモデルをマネされたらどうするのかという懸念を多くの企業が抱いている。UCloudがここまで成長できたのは独立していることによるものが大きい」

最高の時期が過ぎたと考えるのは年を取った証拠

――現在、御社の投資ポートフォリオでは、消費者向けビジネスと企業向けビジネスの割合はどちらが大きいですか。

「2014年以降はほぼ半々となった。SNSやECは消費者向けビジネスのなかでも当社が得意とする分野で、今後も引き続き注目し、投資していくだろう」

――消費者向けビジネスで注目している今年の大きなチャンスは何ですか。

「大流行しているものはあまり見ない。もちろん、時には反省もする。過去の成功は足かせになるかもしれない。投資した快手が大成功したため、そのペースについていけなくなったこともある」

――今年は消費分野で多くのスター企業が生まれましたが、それをどのように見ていますか。

「ブランド系の消費企業は、DCMのようなVCとはあまり相性が良くない。ブランドは百年続く老舗企業をつくらなければならず、多くの資金を必要とするため、PE(プライベートエクイティ)の方が適していると思う」

――多くの人は未来を漠然としたものと捉えていますが、この点はいかがですか。

「投資は車を運転するようなものだ。道がまっすぐなら速く走り、曲がっていればゆっくり進み、滑りやすければ何度もブレーキを踏む。しかし、投資のチャンスは絶え間なく訪れる。もし最高の時期は過ぎ去ったと常に思っているなら、年を取ったのではないかと自問した方が良いだろう」
(翻訳・神戸三四郎)

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