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新型コロナウイルスの流行を受けて多くの企業がリモートワークを行うため、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)、バイトダンス(字節跳動)、ファーウェイ(華為)などIT大手が展開していたビジネスコラボレーションツールの需要が一気に拡大した。現時点では各社とも新規ユーザー獲得とユーザーを定着させることが急務となっている。法人向けサービスにおいては技術とエコシステム能力どちらも欠かせない。各社のインフラやクラウドサービスは日々増加する膨大なユーザーに対応できるのか。エコシステム能力は顧客企業のカスタマイズ需要に応えることができるのか。これらは大手各社が長期的に考慮しなくてはならない問題だ。
各社一触即発か
米アプリ分析会社「App Annie」が中国本土のiPhoneとAndroidスマートフォンのデータを集計したリポートによると、2月、アリババ傘下の企業向けコミュニケーションツール「DingTalk(釘釘)」のダウンロード数は前月比356%増、テンセントの運営するビジネス用WeChat「企業微信(WeChat Work)」は同171%増、バイトダンスの運営するオフィスツール「飛書(FEISHU、海外版「Lark」)」は同650%増となった。モバイルインターネット専門のデータ調査企業「Trustdata」が発表した2月のデータでは、DingTalkのDAU(デイリーアクティブユーザー)は前年同期比327.2%増となり、ピーク時には6000万近くに達したという。
バイトダンスの飛書はもともとアリババなどの大手と正面から競うことを避けており「中~大型企業向け、有料サービス、海外市場」という戦略をとっていたが、2月に同サービスは国内展開へと舵を切った。3月初め、バイトダンスは組織再編を発表。企業向け戦略の重要度が社内で改めて引き上げられた。3月4日、ファーウェイの任正非CEOも「WeLink(同社開発のオフィスアプリ)にとってチャンスが訪れた」と語っている。テンセントは決算報告で昨年末にリリースしたWeb会議プラットフォーム「Tencent Meeting(騰訊会議)」がわずか2カ月でDAUが1000万を超えたと発表した。
各社ともまずは無料を売りにして市場に参入。4月8日、アリババは正式にDingTalkの海外版「DingTalk Lite」を発表。世界中のユーザーに無料でサービスを提供するとした。アリババクラウド(阿里雲)と合わせて市場を開拓していく。Tencent Meetingはまず100人同時利用可能なオンライン会議サービスを無料で開始。のちに利用可能人数を300人まで引き上げた。飛書は中国国内の全企業と組織を対象に、無料でオフィススイート機能全てと標準サービスを提供するとした。
ライバルにはない強みを探る
オフィスアプリを展開する4社を見てみると、アリババはECモール「淘宝(タオバオ)」とモバイル決済サービス「アリペイ(支付宝)」、テンセントはチャットアプリ「WeChat(微信)」、バイトダンスはニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」、ショート動画アプリ「抖音(Douyin、海外版は「TikTok」という)」と各社ともユーザーが5億人を超える国民級アプリを持っている。ファーウェイは自社製スマートフォンにオフィスアプリをプリインストールできるという強みがある。しかし各社の戦略はそれぞれ異なるようだ。
DingTalkはオフィスアプリとしては古株であり、いかにユーザーのアクティブ度を保ち、利用時間を長くするかという問題に直面している。近ごろ「圏子(タイムライン)」機能をリリースし、仕事以外のトピックやコミュニティなどを提供してユーザーの定着率を上げようとしている。
コンシューマー向けインターネットからインダストリアルインターネットへと重点を移したテンセントは、まず各部門の連携を考慮する必要があった。例えば同社のチャットアプリであるQQやWeChatにも企業向けサービスがあることから、社内での競争をどのようにして避け、連携してより大きな強みを発揮するかが問題だ。次に、どのようにしてWeChatとWeChat Workのバランスを取るかだ。昨年末、WeChat WorkはWeChatからの友達追加を可能にし、WeChatのモーメンツとの相互利用が可能となった。この新機能により、企業側はWeChat Workで自社ローカルへのアクセスをスピーディーに誘導できるようになった。
法人向けサービスでは「新入り」であるバイトダンスは、サービスの無料提供を発表したのもTencent Meetingより1カ月近く遅かった。飛書は個人消費者向けの戦法を法人向けにも利用することにした。典型的な例が、同社が近ごろ相次いでリリースした企業向けアプリ「飛書会議(meeting.feishu.cn)」と「飛書文档(飛書ドキュメント)」だ。法人ユーザーはそもそも個々のユーザーから成り立っており、ドキュメント機能はオフィスツールで最もよく使われるものであり、個人でも会社でも使用できる。
これに対し、ファーウェイは自社製スマホにプリインストールするという手段があり、顧客のリソースもあるが、個人消費者の集客ルートがない。前出の4社のように莫大なユーザー数を持つプラットフォームがない中で、WeLinkはどのようにして中国最大のオフィスツールを目指すのか。任CEOは前出の発言時にBAT(バイトダンス、アリババ、テンセント)と正面競争はしないと明言している。企業のセキュリティに対する要求は個人よりも厳しい。WeLinkは中~大型企業や行政機関に照準を合わせるとした。安全性はファーウェイのかねてからの強みであり、大企業や行政機関は馴染みの顧客グループでもある。
クラウドコンピューティングを深掘り
数億人が一斉にオンライン経由で会議を行う際、スムーズで安定した接続を実現するにはインフラが何よりも重要となる。これはオフィスのデジタル化の重要な指標となるが、さらに重要なのはオンラインオフィスと企業のクラウドサービスがうまく連携することだ。現時点でアリババ、テンセント、ファーウェイ、バイトダンスの4社ともクラウド事業を手掛けているが、クラウドコンピューティングの実力は一朝一夕で基礎固めができるものではない。
12年前、アリババはクラウドオペレーションシステム「飛天(APSARA)」を開発。同社創業者のジャック・マー氏は「クラウドコンピューティングの目標は水や電気と同様に21世紀のインフラとなることだ」と語っている。その後アリババクラウドはアマゾンやマイクロソフトに次ぐ世界第3位のクラウドコンピューティングサービス企業となり、2019年通期売上高は355億元(約5400億円)にのぼった。
テンセントとファーウェイも負けていない。昨年の事業枠組み調整後、テンセントはインダストリアルインターネットの布陣を加速し、テンセントクラウドの2019年年間売上高は170億元(約2600億円)を超えた。
ファーウェイもクラウド事業をより重視するようになり、新たな事業部門として「クラウド & AI事業グループを発足。今年2月に米IT専門調査会社「IDC」が発表したリポートによると、ファーウェイクラウドは2019年第1~3四半期のIaaS+PaaS市場において3四半期連続で300%以上の成長率を記録。ファーウェイクラウドIaaS+PaaS市場とIaaS市場シェアで揃って7%を超え、国内第4位へと順位を上げた。
近ごろバイトダンスにもクラウドコンピューティングの商標やドメインの取得などの動きがみられる。多くの求人サイトでクラウドコンピューティングに関連する社員を募集するなどしているが、同社は公式に「現時点でパブリッククラウドを手掛ける計画はない」と回答。しかし、オフィスアプリ市場でアリババ、テンセント、ファーウェイと争う以上、早晩クラウドコンピューティングに力を入れることになるだろう。
究極のエコシステム戦争
今日のインターネット戦争では大手各社はまずトラフィックを競うがその背後には優れたオープンプラットフォームと完成された産業エコシステムがある。これは企業向けサービスの分野でも同様だろう。
エコシステム戦争においては社内だけではなく業界のエコシステムがより重要となる。ファーウェイは以前アプリやデータの分野には「手を出さない」としていたが、オフィスツールに参入するにあたりSaaSを開発するなど、前言を翻す行動が見られる。このように大手企業が参入分野を絶えず拡大するなかでは今までの「境界」など無意味なものとなる。オフィスのデジタル化は始まったばかりだ。消費者向け市場のボーナスがほぼ尽き、今までは寝転がっていても儲かっていた大手企業が企業向けサービスを展開するのは必至である。各社とも新型コロナウイルスが終息したとき、どのようにユーザーと顧客を引き留めるかが課題となっている。
(翻訳・山口幸子)
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