新局面を迎えた中国の地図サービス 火花を散らす「高徳地図」と「滴滴」、ファーウェイも参入

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

大企業注目記事

新局面を迎えた中国の地図サービス 火花を散らす「高徳地図」と「滴滴」、ファーウェイも参入

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

長らく平静を保っていた中国の地図サービス業界に大きな変化が訪れている。

今年5月のゴールデンウイーク前、配車サービス大手「滴滴出行(DiDi Chuxing)」のアンドロイド版アプリに、新機能の「バス乗り換え案内」がひっそりと追加された。現在はiOS版でも利用できるが、メインメニューの中でそれほど目立たない位置に置かれている。

バス案内事業は、乗客殺害事件の発生後2年近く大きな動きを見せなかった滴滴が慎重を期して打ち出した試みだ。事件後に滴滴は安全面や行政指導、世論などを考慮して業務の縮小を決め、それに乗じて地図アプリ「高徳地図(Autonavi)」やフードデリバリー「美団(Meituan)」などが配車サービスに参入してきた。2017年にタクシー配車事業を始めた高徳地図は、2018年にネット配車サービスの集合型プラットフォームを始動させた。これにより高徳地図は急速に勢力を伸ばし、配車サービス市場で大きな存在感を放つようになった。

世間一般からすれば、滴滴の最大のライバルと目されていたのは美団だ。しかし実際の事業や競争関係から見るに、美団と滴滴の激突が必要以上にクローズアップされ、一方で高徳の影響は過小評価されていたように思われる。しかし高徳と滴滴の攻防により、浸透率が極めて高い地図業界に大きな変化が生じてきたこともまた事実である。

高徳地図がモビリティ分野に進出

滴滴と美団が熱戦を繰り広げている背後で、中国オンライン地図大手の高徳は堀を巡らし防備を固めていた。

今年4月16日、滴滴出行の程維CEOは向こう3年間の戦略目標として、中国の全モビリティ産業で利用率8%、世界の月間アクティブユーザー(MAU)8億人以上を掲げた。

滴滴の程維CEO

全モビリティ産業という表現は、「配車サービスの滴滴」という既存の概念を超えたもので、バス案内事業はその重要な足がかりとなっている。滴滴はタクシー、ネット配車、シェアサイクル以外にもモビリティ分野の情報ソリューションを模索しており、最終的にはスマホの地図アプリに備わっている機能を肩代わりしたいと考えているのだ。逆にオンライン地図アプリが、滴滴のネット配車業務に対抗することは至難の業だろう。

こう考えると、バイドゥ傘下の地図アプリ「百度地図(Baidu Map)」がAIによるナビゲーション機能の強化を打ち出し、地図としての基本機能にフォーカスしていた時期に、高徳地図はすでに滴滴の潜在的な脅威に気づいていた。高徳が滴滴を一番のライバルと見なしていたのもうなずける。

2018年に高徳は方針を変え、7月に配車サービスの集合型モデルを打ち出す。この集合型モデルとは、サードパーティーのネット配車プラットフォームと提携して配車サービスを提供するというもの。滴滴のような自社運営モデルに比べ、産業チェーンの各部分で役割分担を行うことにより利用者のニーズを満たすことができる。

このモデルは大成功を収める。これに対抗するため滴滴も集合型プラットフォームの運営を2019年に一部開始したほどだ。

滴滴に比べると、高徳は10年以上の歴史を持つ地図業界の大御所だ。

2001年の設立当時、高徳の主力事業はGPSで、カーナビの販売がメインだった。2005年以降は複数の自動車メーカーにカーナビ用電子地図を提供するようになり、ここから2010年7月1日の米ナスダック上場につなげた。

2013年、高徳はオンライン地図にシフトし始め、同年8月にはそれまで50元(約760円)で販売していたナビゲーション製品の無料化を発表する。当時のデータによれば、高徳地図を搭載した製品は7000万台に上ったという。

2014年2月にアリババに買収された高徳はこれを機にモバイル時代に突入、アリババの総合戦略の重要な部分となった。

アリババのシステムに併合された高徳は、膨大なマップデータという強みを生かしてモバイルインターネット向けに転身を果たし、百度地図の比較対象に取り上げられるほどのインターネット地図に成長した。2016年には誰が業界トップかについて激しい舌戦を繰り広げたが、百度地図の事業転換に伴って高徳との摩擦は次第に収まっていった。

全モビリティ産業への足がかりが配車サービスか地図かという違いはあれど、現時点での滴滴と高徳との競争はますます激しさを増している。両社のサービスやツールは次第に似通ってきており、同じユーザー層を奪い合う直接対決は避けられないだろう。

ファーウェイも独自地図開発へ

滴滴が地図サービスに参入したのと同時期に、黙々と地図事業に歩を進める大企業がいた。中国スマホメーカー大手ファーウェイだ。

2019年下半期、ファーウェイは独自開発の「HarmonyOS(鴻蒙OS)」とアプリ配信プラットフォーム「HMS(Huawei Mobile Service)」を打ち出すと共に、地図事業の強化も進めていた。

2019年8月のファーウェイ世界開発者大会で、開発者向けに地図機能が公開された。そして今年に入り、ファーウェイ独自のアプリストアAppGalleryで地図アプリ「HERE WeGo」をリリースした。同アプリは世界100カ国以上の1300を超える都市で利用でき、位置情報やナビといった基本機能のほか、ルート検索やタクシー配車などのサービスも備わっている。

HERE WeGoアプリの基本サービスはファーウェイ独自のものではなく、フィンランドの通信大手「ノキア(Nokia)」の地図事業「HERE」(2015年にBMW、アウディ、ダイムラーが25億ユーロ=約3000億円で買収)が提供している。HEREはグーグルマップを除けば、グローバル市場で精度の高い地図データを提供できる数少ない地図サービスだ。このためグーグルの関連サービスが一切利用できなくなった際に、ファーウェイはHEREと手を組むことにした。

しかしファーウェイの地図事業はこれにとどまらない。昨年下半期から独自の地図チームを組織しており、効率を高めるため東莞市・松山湖にある研究開発基地に半年間こもって開発に専念するよう指示を出している。サードパーティーの地図頼みから脱却するため、独自の地図を最速で開発しようとの思惑だ。

ファーウェイ独自の地図は現時点で海外市場に焦点を当てているが、関連事業が成熟していけば国内市場への参入も視野に入るだろう。そうなれば、地図業界には滴滴以外にも超大物が加わることになる。

滴滴やファーウェイが地図事業を強化するのに伴い、平穏を保っていた業界がにわかに波立ち始めた。

テンセントは2018年に大胆な組織改革を行った際に、「騰訊地図(QQ Map)」をクラウド・スマート事業群(CSIG)に併合し、コネクテッドカー事業の開拓という重要任務を与えた。しかし今年1月中旬には、テスラが地図データを騰訊地図から百度地図へ変更したことが明らかになった。

地図はショート動画やコンテンツコミュニティーなどとは違い、普段は至って地味なもので、ユーザーが時間を忘れて没頭するようなものでもない。しかし現実には多くのユーザーに欠かせないツールであり、外出の際にまず使用するものだ。しかも自動運転やスマート交通、コネクテッドカーなどさらに大きな事業につながる可能性を秘めているため、大企業にとっては譲れない分野となっている。

新たな局面を迎え、地図業界におけるデータや人材の争奪戦は激しさを増していくだろう。さらに重要なこととして、滴滴がサービスを足がかりにして業界の構図を変えた結果、オンライン地図の製品ロジックやビジネスモデル、リソース配分などが再構築されつつあり、これが業界の競争要因に大きな影響を与えると見られている。

作者:深響(Wechat ID:deep-echo)、丁直仁
(翻訳・畠中裕子)

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録