クアルコムの牙城に挑む台湾半導体メーカーMedia Tek 5G対応SoCに本格着手(一)

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クアルコムの牙城に挑む台湾半導体メーカーMedia Tek 5G対応SoCに本格着手(一)

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中国のスマートフォン大手シャオミ(Xiaomi、小米科技)のサブブランド「Redmi(紅米)」が先月26日、最新製品「Redmi 10X」を発表した。製品ディレクターを務める王騰氏によると、同製品は台湾の半導体メーカーMedia Tek(聯發科技)製の5G対応SoC「Dimensity 820(天璣 820)」を世界初搭載している。この少し前の発表会にはRedmiの盧偉冰総経理も出席、「Media Tekのチーフプロダクトマネージャー」との肩書で登壇した。

先月になってMedia Tekは戦闘モードに入った。シャオミとの話を前に進める一方で、別の大手スマートフォンメーカーvivoのiQOOシリーズ最新機種にも5G対応ハイエンドSoC「Dimensity 1000+」を搭載することを決めた。

設立23年になるMedia Tekは5G時代の到来とともに新たな商機を掴もうとしている。

中国のスマホ用SoCのメーカー別シェア(2019Q1、2019Q4、2020Q1)
調査会社CINNO Research調べ

昨年末からMedia Tekは位置づけの異なる5種類のチップを発表した。「Dimensity」1000シリーズは性能評価で米クアルコム社「Snapdragon865」には及ばなかったものの「Snapdragon765」を超えた。切り札をもって敵方の中堅どころに挑んだ形で、OPPO、vivo、シャオミ(Xiaomi)など中国の大手スマホメーカーから改めて評価を得ることとなった。

通信規格が4Gから5Gへ切り替わっていく中で、スマートフォンはまずハイエンドモデルから5Gへの転換が進み、現在ではミドルレンジ~ローエンドへもその波が及んでいる。Media Tekは高性能のDimensity 1000シリーズを武器に、ミドル~ハイエンド帯製品に切り込んできた。

世界三大メーカーの栄光と没落

Media Tekは2003年、それまで手がけてきたDVD プレーヤー用チップセットから携帯電話用チップセットに鞍替えしたものの、多くの携帯電話メーカーはMedia Tek製品の採用には及び腰だった。

素早く市場の認知を獲得するためにMedia Tekはチップセットにマルチメディア対応のソリューションを盛り込んだ。当時、クアルコムや米TI(テキサス・インスツルメンツ)などの大手チップメーカーは携帯電話メーカーに対して単純にチップを提供するだけで、本体にチップを搭載し、システムインテグレーションを行うのは携帯電話メーカーの仕事だった。メーカーによっては外注で対応する場合もあった。

2G時代、Media Tekはうまく時流に乗ってスタートを切った。中国では2007年に携帯電話の製造許可証制度(手機牌照)が廃止され、ネットワーク接続許可証制度(進網許可証)に切り替わった。こうして水面下でひそかに繰り広げられてきた携帯電話メーカー同士の競争が一気に表面化した。Media Tekが提供するシステム適合支援などのソリューションは携帯電話業界の成長にとって大きな助けとなった。携帯電話メーカーはこれによって流通と設計のみに集中でき、製造効率も大幅に補強された。またMedia Tekのソリューションは価格面でも手頃だった。

Media Tekのチップ事業は2008年には売上高全体の半分以上を占めるようになり、クアルコムやTIとともに世界の三大メーカーの仲間入りを果たした。

従来型の携帯電話に替わりスマートフォンが登場すると、グーグルはアップルに対抗すべくAndroidをオープンソースとし、多くの端末メーカーやチップメーカーを自社のアライアンスに呼び込んだ。Media Tekもその中の一員であり、その頃にはミドルレンジ~ローエンド製品市場で安定した立ち位置を得ている。

Media Tekが中国市場で本格的な増産に至ったきっかけは冒頭で言及したRedmiによる採用だった。2012年、チップ製造数は1億1000万個にまで達し、前年の10倍以上に上った。ほぼ同時にTIが携帯電話向けCPU市場から撤退、市場はMedia Tekのほか、Exynosシリーズを展開する韓国サムスン、Snapdragonシリーズを展開するクアルコムによる鼎立状態となった。

ライバルとしのぎを削る中でMedia Tekは一貫してターンキーソリューション(納品後一切の調整作業を必要とせず即稼働できる情報システム)を戦略とし、ミドル~ローエンド製品を主軸にしてきた。一方のクアルコムは独自のリファレンスデザインを押し出し、メーカーによる増産体制構築を後押ししている。こうした中、Media Tekは価格で勝負しながら、初めてハイエンド市場への進出を模索し始める。2015年にはハイエンド向けの新製品「Helio X10(発表当時の名称は「MT6795」)」を発表した。

Helio X10は、台湾のスマホメーカーHTCを筆頭として多くのブランドのフラッグシップ機種で標準搭載となり、一つの成功体験となった。クアルコムのSnapdragonは高消費電力で発熱現象もみられ、多くのAndroid製品にMedia Tekが選ばれたのだ。最終的には100機種近くの端末がMedia Tekのチップセットを搭載した。

しかしこの目玉製品をもってしてもハイエンド市場は攻略できなかった。Helio X10はオクタコアのCPUを搭載すると同時に、消費電力や発熱の問題を回避するためにクアルコムやサムスンが採用するARMアーキテクチャ「Cortex-A57」を採用せず、あえて低性能の「Cortex-A53」を採用したのだ。GPUでも同様の戦略を採ったため、競合製品に比べ画像処理能力でやや劣る結果になった。

続いて2016年には後継の「Helio X20(発表当時は「MT6797」)」を発表、大々的にトライクラスターCPU(動作周波数の違いによってコアを3つのクラスタにわけたCPU)の自社開発を行い、CPUの改良に成功した。しかしGPUの改善にまでは手が回らなかった。折しも中国ではスマホゲームがブームで、スマホに高画質を求める動きが日増しに膨らむタイミングだった。

ユーザーの需要を無視するようではメーカーからの信頼も失ってしまう。GPUが問題だったことを認識したMedia Tekは同年9月にGPUを改善した「Helio X30」を発表、12月には量産に入った。同製品は数字上では数カ月違いで発表されたクアルコムの「Snapdragon835」より優れており、なおかつリリースも早かったが、ハイエンド市場では負け続きの結果に終わる。Helio X30は後のCPU性能テストで十分な結果を得られず(2015年に発表したHelio X10にも及ばず)、製造体制にも問題が生じ、ようやく2017年8月になって中国のスマホメーカー「魅族(MEIZU)」の「Meizu Pro 7」に搭載してもらうことになるのがやっとだった。この間、かつては上客だったOPPOやvivoもクアルコムに乗り換えてしまった。

Media Tekの2001~2019年の利益推移(財務報告より)

中国製携帯電話が雨後のタケノコのように成長した過去10年、Media Tekの顧客だったTCLや魅族などの老舗メーカーは勢いを失ってしまった。その後、Dimensity 800およびDimensity 1000シリーズが発表されるまで、Media Tek製チップセットはシャオミやRedmi、OPPO、vivoなどがリリースする1000元(約1万5000円)以下の格安スマホに採用される程度で、それ以上の価格帯の製品はほとんどクアルコムに独占されていた。2016年にハイエンド市場への進出が失敗して以降、Media Tekの利益は歳を追うごとに縮小の一途をたどっていた。5G 時代が到来した現在、イチかバチかの賭けに出なければMedia Tekの戦線離脱は必至だ。

クアルコムの牙城に挑む台湾半導体メーカーMedia Tek 5G対応SoCに本格着手(二)
(翻訳・愛玉)

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