原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
6月16日のロイターの報道によると、テンセントは動画配信プラットフォーム「愛奇芸(iQiyi)」の56.2%の株式を保有するバイドゥ(百度)と接触し、同社株式の取得について交渉しているという。テンセントの目的は愛奇芸の筆頭株主になることだとされているが、消息筋によれば今後計画変更の可能性も排除できないそうだ。この件に関して、36Kの記者が愛奇芸とテンセントに確認したところ、両者ともコメントを差し控えるとのことだった。
一方、資本市場は敏感に反応しており、報道を受けて愛奇芸の株価はプレマーケットで一時40%高騰した。
この買収が実現されれば、中国の動画配信業界にとって歴史的な事件となるだろう。現在の動画配信分野では、テンセント・ビデオ(騰訊視頻)、バイドゥ傘下の愛奇芸、アリババ傘下の「優酷(Youku)」の三つ巴状態だが、その構図が一変するかもしれない。
動画配信事業の難局
「愛奇芸は資金が足りない」というのは、中国の動画配信業界で長年囁かれていたことだ。その原因はコンテンツにかかるコストの高騰である。2019年、同社はコンテンツに222億元(約3300億円)も支出している。
コストの高騰は、有名芸能人の出演料が高止まりしていること、動画配信サイト同士の競争によりコンテンツの買入れコストが高騰していることが原因だ。愛奇芸とテンセント動画の有料会員数はともに1億人を超えたが、各社とも会費を年間198元〜248元(約3000円〜3700円)の低水準に抑えているため、会費収入はそれほど多くない。しかも、有料会員数の増加にしたがい、伸び率は鈍化している。その上、新型コロナ禍により広告収入が激減したため、動画配信の各社とも難局を迎えている。
このタイミングでテンセントと愛奇芸が手を結べば、競争にかかるコストを削減し、現在業界第3位の優酷との差を一気に広げることができる。そうなれば、中国の動画配信サイトの財務状況はより健全な状態になるだろう。
バイドゥは手放すか
愛奇芸の株式を手放すかどうかを決めるのはバイドゥであり、その決断は動画配信をめぐる競争の結末を左右する。
ロイターの報道では、バイドゥがナスダック上場廃止を検討しており、中国により近い市場で上場し企業価値を高めたいという事情に触れている。そのためにも、愛奇芸を手放すことで、現金を手厚くしておきたいというのがバイドゥの思惑だろう。
5月19日に公表されたバイドゥの2020年第1四半期の財務レポートによると、売上高は225億元(約3400億円)、純利益は31億元(約470億円)となっており、ともに市場予想を上回った。この数字は2019年の第1四半期が9.36億元(約140億円)の赤字だったのと比べると大きな改善であり、バイドゥの事業は少しずつ軌道に戻っているといえる。しかし、バイトダンス、テンセントと各分野で競争しているため、バイドゥは現金を確保しておく必要がある。
愛奇芸の事業は魅力的だが、現時点ではバイドゥの会社全体をさらに成長させられるものではない。むしろ愛奇芸の赤字によってバイドゥの連結決算がより悪化するのである。テンセントやアリババと比べた場合、エンターテインメント事業の重要性が低いバイドゥが愛奇芸を手放したとしても、それほど意外ではない。
一方のテンセントは、近年動画事業を強化し続け、すでに有力なコンテンツ群を手中に収めている。エンターテインメント事業では、動画配信のほかに小説サイト、映画製作会社、マンガ・アニメ配信サイトなどがある。エンタメ事業をさらに強化するために愛奇芸を買収するのは、理にかなっていると言えよう。
(翻訳:小六)
原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録