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6月14日の夕方5時、ショート動画プラットフォームの「快手(Kuaishou、海外版は「Kwai」)」の人気ライバー辛巴氏によるライブコマースが始まった。ライブ配信は7時間以上に及び、60商品を紹介、総額12億5000万元(約190億円)を売り上げ、ライブコマース史上、個人としては最高額の売上記録を樹立した。 公証人も立ち会っていたと言うが、ネット上では「信じられない」との声がなかなか静まらない。
今の中国では、ライブコマースによる売上高が何億元(何十億円)にもなることも珍しくない。一般視聴者にとっては羨望の的であり、多くの起業家がライブコマースに殺到した。しかし、ライブコマースの実像は、それほどきらびやかなものではない。
大ブレイクする中国ライブコマースの舞台裏(一)、ライブスコマースブームの3つの幻想
ライブ配信は標準になっても主流にはならない
2016年はライブコマース元年と言われている。女性向けファッションに特化したソーシャルEC「蘑菇街(MOGUJIE)」がライブ配信で商品の紹介を始めると、2カ月後には淘宝網もライブ配信を開始し、「淘宝直播(タオバオライブ)」でライバー薇婭(viya)氏が一躍時の人となる。
その後の2年間にライブコマースは急速に発展した。 2018年にはショート動画プラットフォームの抖音と快手が相次いで参入、ライブコマースは国民的ブームとなる。口紅フェチ李佳琦(Austin)氏の神フレーズ「OMG(Oh my God)!」「それ買うわ」が消費を煽り、ライブコマースに活路を開いた。 2019年にはライブコマースが大ブレイクする。
2020年、新型コロナウイルス感染症が爆発的に広まり、どの業界にとってもライブコマースが命綱となり、中国は国民総ライブコマース時代に突入する。パンデミックがある程度収束した今、ライブコマースはどこへ向かうべきだろうか。
ライブコマースは有用だがオフライン主流は当分変わらない
インターネット業界全体を通じて、ライブコマースは徐々に各プラットフォームの標準仕様になってきているようだ。しかし、専門のアナリストは、ほとんどの業界で今後もオフライン消費が主流になると考えている。コロナ後、オフライン経済は徐々に回復している。ライブコマースの熱狂も徐々に冷静さを取り戻しており、販売店は必然的にマーケティング投資の比率を調整することになるだろう。
京東小売事業部の徐雷CEOは、ライブコマースを主要なWebサイトの標準とし、定番化させると発表した。しかし、すべてのプラットフォームと消費者がライブ配信を必要としているわけではない。特定の状況で、特定の製品に対して今後もライブ配信を行うということだ。
急速な成長を遂げたライブコマースは、今、再形成段階に入っている。主力ライバーと産業チェーンの上流および下流をさらに統合する必要がある。共通の業界基準を定め、産業間で役割分担して連携することにより、業界を規制し、全体の効率と品質を高めるべきなのだ。
低価格モデルで「損して得取れ」
ライブコマースは今流行の販売方法とはいえ、それで収益を上げられるわけではない。
ある業界関係者は「ライブコマースだけでは稼げない」と言う。ライブコマース業界も、「80:20の法則」から逃れられず、20%未満のライバーが業界利益の80%を稼ぎ出しているという現状がある。 薇婭氏や李佳琦氏などのトップライバーが業界利益をほぼ独占しているのだ。
薇婭氏には企業に対する強力な交渉力があり、これもトップライバーの強みになっている。「普段は1本100元(約1500円)で売っている商品も、私にかかれば65元(約980円)になる」と薇婭氏は語る。さらに企業はトップライバーに非常に高い手数料を支払い、ライバーの取り分は企業よりも多い。
多くの企業がライブ配信でしていることは「損して得取れ」に相当する。彼らにとってライブコマースは宣伝の一手段に過ぎず、お金を稼ぐことが目的ではない。トップライバーと組む意味は、最高のマーケティングチャネルを獲得し、ブランド認知度とリピート率を迅速に高めることなのだ。
ただし、すべての企業がいつでも喜んでライブコマースを採用するわけではない。割引が常態化してしまうと、消費者は通常価格では買いたがらなくなる。高級キッチン用品の担当者は「消費者がいったん割引価格に慣れてしまうと、元の価格では販売できなくなる。品質で勝負している企業には、ライブコマースのような販売量重視のイベントは適さない」と語る。
新しいコンテンツ形式としてのライブ配信は、5G時代が到来すれば、いつでも、どこにでもある存在になるかもしれない。しかし、ライブコマースが急成長してきたとはいえ、どんな企業でもそこから稼げるとは限らない。ライブコマースでは今後、大きな再編期を迎える。理性を保ってビジネスの本質に立ち返り、正義を守りつつ奇を出して勝ちを制す、それがビジネスの正道である。
(翻訳・永野倫子)
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