ウィズコロナの中国で最注目の業態 テック企業が群がる「生鮮食品の共同購入」

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ウィズコロナの中国で最注目の業態 テック企業が群がる「生鮮食品の共同購入」

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食材の買い物は日常生活における用事の一つに過ぎないが、大手IT企業にとっては必ず勝ち取りたい事業カテゴリーであり、今年は特にその気運が高まっている。

中国で一時期脚光を浴びた生鮮食品に特化したEC業界では、昨年に入って多額の損失を出す企業が続出、中には倒産に至ったケースも聞かれた。中でも、地域コミュニティ(=社区:中国の行政区画の一形態)をターゲットとした共同購入サービスでは事業規模を縮小させたり、吸収合併に至ったりする企業が現われ、衰退の一途をたどっている。

しかし、今年に入り新型コロナウィルスの感染が拡大するとこの業態が突如、人々の生活を支える重要な役割を担うことになる。GMV(流通取引総額)も浸透率も急伸、商機がまだ存在していたことを証明した。さらに、より実力のある大手企業が後発として参入してくるようになった。

中国の生活関連サービス大手「美団点評(Meituan Dianping)」は今月7日、地域コミュニティ向けの食材共同購入サービス「美団優選(Meituan Youxuan)」について、独立した事業部門を新設したと発表した。ライドシェア中国最大手の滴滴出行(DiDiモビリティ)も先日、四川省成都市で限定的に同様の事業「橙心優選(Chengxin Youxuan)」の試験営業を開始している。

さらに、オンライン旅行会社「同程芸龍(Tongcheng Elong)」からスピンオフした「同程生活(Tongcheng Life)」も今年上半期にシリーズCで2億ドル(約200億円)の調達に成功している。

各IT大手企業も早々に同分野に参入済みだ。

テンセントは昨年、「興盛優選(XINGSHENG SELECTED)」および「食享会(Shixianghui)」の二社に出資を行っている。米ブルームバーグによると、興盛優選に対しては今年に入ってからも再度出資したという。

テンセントのライバルであるアリババも、昨年と今年の2回にわたって「十薈団(NICE TUAN)」に出資している。さらに、アリババ傘下の物流プラットフォームが擁する物流集配所「菜鳥駅站(CAINIAO COURIER STATION)」も今年になって、集荷業務以外に共同購入や洗濯代行、不用品回収などの生活関連サービスを提供するようになった。

大手企業は直接的に参入、超大手企業は出資という形で同分野に参入しているわけだが、いずれにしても「地域コミュニティ単位の食材共同購入サービス」は、今年最注目の業態の一つといえる。

倉庫一体型店舗の登場

IT企業が生鮮食品分野に食指を動かすようになったのは2015年が最初だ。

TMT分野のスタートアップに特化した中国のデータバンク「IT橘子(itjuzi.com)」によると、生鮮ECを手がける企業に対する投資件数は同年に前年比189%増の228件に達し、投資総額は同49%増の142億5000万元(約2200億円)に上った。前出の興盛優選や十薈団の他にも「毎日優鮮(MISS FRESH)」、「叮咚買菜(Dingdong Maicai)」などのスタープレイヤーが誕生し、徐々に派閥を形成していった。生鮮ECで現在も生き残っている主な業態は、オンライン受注の商品にも対応できる商品倉庫を併設しながら実店舗の機能も兼ね備える倉庫一体型店舗と、居住エリア単位で一括注文を行う共同購入サービスの二つだ。興盛優選、十薈団、美団優選はいずれも後者に属する。

倉庫一体型の業態はあらかじめ各エリアの店舗に十分な量の商品を置いているため、顧客からの発注を受けて商品を届けるまでわずか30分という即配サービスが成立した。このようなビジネスモデルでは配送スピードがコア・コンピタンスになる。一方で、在庫力・配送力に相応の実力を持たせるには多額のコストがかかる。さらに食品ロスの問題もつきまとう。

地域コミュニティ向け共同購入サービスの誕生

倉庫・店舗一体型の小売りモデルと比較して、地域コミュニティ向け共同購入サービスはより時代の先端を行くものだ。

内陸都市の湖南省長沙市では2016年、こうした共同購入サービスが数多く誕生した。サービスの利用者は居住地域ごとにグループを組織し、1人の代表者(地元の主婦やコンビニ店主など)を立て、その代表者がメンバーに対し、チャットグループを通じて日替わりでおすすめ商品を周知し、メンバーからの注文を募る。こうして各グループから集められた注文を基に、市内の卸売市場や運営会社の管理するサプライチェーンで仕入れが行われ、翌日には各地域に商品が届く。これが現在ある地域コミュニティ向け共同購入サービスの原型だ。

最寄りのピックアップ場所で注文した商品を受け取るサービス利用者

ビジネスモデルの当初のひな型は、十分なボリュームの注文を集め、中間業者を省いて卸売市場と消費者を直接つなぐものだ。仕入れ費用も少なく済み、その分が消費者に還元され、運営側の業務も基本的に商品を配送するだけで済んだ。

これがさらに大きくスケールした核心的な原因は、SNS上の人のつながりを介在させたことだ。倉庫一体型店舗が顧客獲得に多額の資金を投じる一方、コミュニティ向け共同購入サービスはエリア代表者がSNSを運営することによって地元住民を取り込んでいる。また事前に注文を集めてから商品を一括仕入れするため、配送の効率も向上するうえに在庫管理もしやすくなり、商品のロスが減った。

効率的に集客でき、なおかつ事業モデルが軽負荷で流用しやすいということから、地域コミュニティ向け共同購入サービスには多くのプレイヤーが次々と参入してきた。しかし、ほどなくして問題点も顕在化してくる。

初期のコミュニティ向け共同購入サービスは各エリアの代表者に運営を依存しすぎていた。しかし、代表者を担当する人々は育児がひと段落すると職場復帰してしまったり、作業できる時間帯が不規則だったり、セールス力に問題があったりと多くの不確定要素を抱えており、GMVを左右する要素となっていた。さらにプラットフォーム同士でエリア代表者の引き抜き合戦も勃発。数万元(数十万円)の契約料をちらつかせて引き抜くケースも珍しくなかったという。

フードデリバリーやオンライン決済における競争とは異なり、生鮮食品は特殊なカテゴリーであり、事業をスケールさせるためにはサプライチェーンに全力投球しなければならない。つまり巨額の費用を必要とする。また商品の産地が分散しているため、市場では長年かけて生産・販売チャネルが階層化しており、サプライチェーンを統合するのは相当に難しい状況となっている。

生鮮EC事業には近道は存在せず、相応の苦労は避けて通ることはできない。競争が過熱すれば、資金力やサプライチェーン力のないプレイヤーは淘汰されていくだろう。
(翻訳・愛玉)

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