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中国が商用インターネットサービスを開始してから約20年、人口ボーナスという強みは使い果たされてしまい、テンセント(騰訊)の主力製品WeChatのアクティブユーザー数さえ成長が止まっている。テンセントの馬化騰(ポニー・マー)CEOは、2018年に出した公開書簡の中で「モバイルインターネットの前半戦は終わった。テンセントは個人ユーザー向けインターネットに根を張りつつ、インダストリアル・インターネット(産業のインターネット)も取り込んでいく」と述べていた。
昨今はビジネス環境も変化し、インターネットビジネスの中心は、消費者(個人)から企業(法人)へと移りつつある。テンセントはかつて個人向け事業への投資でエンターテインメント帝国を成長させてきた。そのテンセントが今、インターネット関連の投資先を法人向けサービスへとシフトしつつある。
「騰訊投資(Tencent Investment)」董事総経理の姚磊文氏に、法人向けサービスへの投資戦略について話を聞いた。以下はその抄訳である。
法人向けサービス投資の転換期
姚氏は2011年にテンセントに入社した。テンセントで投資事業に携わるのは今年で10年目となる。姚氏はこの間、法人向けサービス投資への転換期を3度経験している。
2010~2015年、テンセントは法人向けサービス市場の開拓に着手した。 姚氏は入社当時を振り返り「当時テンセントCTOだった張志東氏と共にCRM(顧客関係管理)企業などを精査した。当時は中国の法人向けサービス業界もまだ発展初期にあり、テンセントにも大規模な法人向けサービス業務はまだなかったため、投資した企業は比較的少数だった」と述べる。
2015年は法人向けサービス投資元年となった。テンセントクラウドやビジネス用WeChat「企業微信(WeChat Work)」といった事業が成長するにつれ、中国国内でもSaaSなどの法人向けサービスに多くの企業が参入するようになってきたからだ。この頃、テンセント投資はCRMアプリ「銷售易(Xiaoshouyi)」、デジタルマーケティング「明略科技(マイニングランプテクノロジー)」、ビッグデータやAIプロジェクトを手がける「星環科技(Transwarp)」などのハイテク企業に頻繁に投資している。
大転換期は2018年に訪れた。
その年の9月30日、テンセントは創業以来3度目となる組織再編を発表した。中でも重要な措置はCSIG(クラウド・スマート産業事業グループ)の結成である。この件について馬化騰CEOは「今回の組織再編はテンセントにとって非常に重要な戦略的アップグレードである。インターネット後半戦の主戦場はインダストリアル・インターネットだ」と述べている。
9月30日以降、テンセントはさまざまな事業群に点在していたクラウド、AI、オープンプラットフォームなどの法人向けサービス業務を一元化した。騰訊投資もAIソリューションの「数美科技(NextData)」、第三者電子契約・電子契約プラットフォーム「法大大(Fadada.com)」、医療業界向けSaaS「太美医療科技(Taimei Medical Technology)」、電子手形「博思軟件(BOSS SOFTWARE)」などへの出資を行い、インダストリアル・インターネット方面に全面的にシフトした。執筆時点で、テンセントは法人向けサービスで50件以上の重要案件を進めている。
法人向けサービスへの投資戦略
法人向けサービスの専門家は「テンセントは、法人向けサービスチェーンの末端にあたる販売、納入、サービスといった業務には不慣れだが、この弱点は投資を通じてすぐに補完できる」と述べる。
強気な買収や支配権行使をしがちなアリババとは異なり、テンセントの投資は非支配的で、投資先企業の邪魔や干渉にならないよう気を遣うスタイルだ。これによりテンセントは起業家たちから支持されるようになっている。法人向けサービスへの投資でもテンセントの投資スタイルは変わらないが、戦略にはいくらか変化がある。
法人向けサービスへの投資では、事業の関連性と投資手法に基づいて、以下の3つの方針に集約できる。
1.事業関連性の高い基本機能を開発する企業に対しては、合併買収もしくは株式保有により支配権を獲得する。例えば、汎用開発ツールなどは、テンセントの汎用ツール上の基本機能を補完でき、開発者サービス上プラットフォームに不可欠な機能であるため、買収するほうが良い。代表事例はクラウド型ソフトウェアサービス「CODING(扣釘科技)」だ。
2.事業の関連性が中程度の企業に対しては少数株主となり、業務提携を行う。このタイプの投資では、テンセントと共に関連分野での新規顧客開拓ができる、テンセントの事業展開を支援できる有力なSI事業者である、テンセントの製品ジャンルを補完できる有力な製品を所有している、などのビジネスコラボレーションが必要だ 。代表事例はソフトウェア開発の「東華軟件(DHC Software)」や「北明軟件(Beiming Software)」だ。
3.事業の関連性が低い企業に対しては少数株主となり、将来を見据えた投資を行う。この種の投資では、短期的には明確な目標があるわけではないが、将来の大きなチャンスを見据えた戦略が必要となる。例えば革新的新薬開発の大多数はまだ臨床段階だが、政策や技術から見れば、長期的な戦略的価値を持っている。代表事例は太美医療科技だ。
このような投資形態は同盟関係のように見えるが、相手企業との利益バランスは同盟で解決できるものではない。テンセントは投資した企業のプロジェクトに対して即座の見返りを期待するのではなく、投資とエコシステムでの協働という問題に答えを出さなければならない。
姚氏は「(法人向けサービス)は十分大きなパイであり、私たちは投資先企業やエコシステム内の企業ともっとコーペティションを結ぶことが可能だ。そして、その中で各自が能力を最大限発揮すればいい」と述べる。
重点的に投資する法人向けサービスは
テンセントが重点的に投資する法人向けサービスは以下の4方面だ。
1.垂直産業向けソリューション:新型コロナウィルス感染症の流行は、関連産業すべてに大規模なデジタル化を進めるよう促した。したがって、深い業界ノウハウを持つ企業は、教育、医療、金融などの法人顧客ニーズに対応しなければならない。
2.SaaS業界:従来のソフトウェアの形式は今後もしばらく存在するとしても、SaaSのようなシングルシステム・マルチテナント方式のモデルが長期ではトレンドになると騰訊投資は考える。このため、SaaS関連の事業を一貫して有望視している。
3.WeChat Work関連:昨年から、テンセントはWeChat WorkとWeChatをより深く結び付けるために懸命に取り組んできた。消費者に訴えかけるのはテンセントの得意分野だ。テンセントは、より多くの顧客企業がWeChat Workの機能を活用して関連産業全体にソリューションを提供できるよう懸命にサポートしている。
4.AIとビッグデータ:騰訊投資は、AIとビッグデータによる意思決定が、企業のコスト削減と効率向上に役立つと考えている。米国企業のほとんどがプロセス化したソフトウェアを使用するのとは異なり、中国企業のほとんどはプロセス化した管理よりも、AIで実際にどんな問題を解決できるのか、ビッグデータ活用でどれだけ効率が上がるかということに関心を向けている。
(翻訳:永野倫子)
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