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10月31日、中国発コスメブランド「完美日記(PERFECT DIARY)」を運営する「逸仙電商(YATSEN)」が米国証券取引委員会(SEC)に目論見書を提出し、ニューヨーク証券取引所への上場に向けて手続きを開始した。上場に成功すれば、米国上場を果たした中国の化粧品会社第一号となる。
上場後に幸先の良いスタートを切ることができるか、公開された同社の目論見書をひもといて先行きを占ってみたい。
前篇:大手VCなどが強力にバックアップ&売上高は急成長を維持するも、純損失が180億円
ハイブランド戦略でかさむマーケティング費用
2020年第3四半期のマーケティング費用は20億3400万元(約320億円)で、前年同期に比べて144.6%も増加している。純収入に占める割合を見てみると、2018年が48.7%、2019年は41.3%だったのが、2020年第3四半期時点で62.2%まで増加している。
大規模なPRが功を奏し、逸仙電商傘下のコスメブランドは見事大ヒットを記録する。特に完美日記は中国コスメ業界で全くの無名から「国産ブランドの希望」へと成長するシンデレラストーリーをたどった。
とはいえ、逸仙電商はこれだけでは資本市場の心を動かすことはできないことを知っている。コスメ業界において、ハイブランドというイメージが生み出す付加価値にはさらに多くの可能性が秘められているからだ。
コスメブランドで不動の地位を誇る「エスティーローダー」がその良い例だろう。「ドゥ・ラ・メール」「ボビイブラウン」「M・A・C」などの有名ブランドはどれもエスティーローダー傘下のブランドだ。米国市場における株価にそのブランド価値がよく反映されている。10月30日時点のエスティーローダーの株価は219.66ドル(約2万3000円)で、時価総額は793億4300万ドル(約8兆3500億円)に達している。
逸仙電商は上場に際して、ハイブランド路線へシフトするためにグローバルな顔ぶれを集める戦略に出た。10月19日、完美日記はグローバルイメージキャラクターに中国トップ女優の周迅を起用したことを発表。業界内では同ブランドのハイブランド戦略を印づける出来事として受け止められた。同月27日には有名シンガーソングライターのトロイ・シヴァンが完美日記のブランドアンバサダーに就任した。
克服すべき課題
上場企業が投資家たちの注目を集められるかどうかは、企業の成長の見込みだけでなく、業界そのものに巨大なポテンシャルが秘められているかにも左右される。
中国のシンクタンク「前瞻産業研究院」が発表したリポートによると、中国コスメ業界の市場規模は2019年に4225億元(約6兆6000億円)に達し、2022年には5000億元(約7兆8000億円)、2023年には5490億元(約8兆6000億円)にまで増加すると見込まれている。2019年から2023年の年平均成長率は6.77%と予測されている。
数多くの国産コスメブランドがひしめく中国で、真っ先に米国上場に踏み出した逸仙電商はライバルたちから大きなリードを奪ったと言える。しかし気を抜くわけにはいかない。もともとオンラインマーケティングで大成功を収めた逸仙電商だが、多くの中国コスメブランドが同様の手法を取り入れて猛追しているからだ。特に、フラワーエキスを配合した無添加コスメ「花西子(Florasis)」の追い上げはすさまじく、7月のGMVでは完美日記の1億5600万元(24億4000万円)を上回る1億9400万元(約30億3000万円)をたたき出した。
中国ブランドだけでなく、海外の有名ブランドも積極的にECプラットフォームを活用するようになっている。フランス発のロレアルパリは、早いうちから中国のラグジュアリーショップ100店以上に進出を果たしていた。それがここ数年は、ライブコマースを利用して積極的に傘下ブランドの販促を図っており、売り上げの面で一定の成果が見られている。
国内外ブランドとの攻防があるものの、逸仙電商にとっての最大の弱点は研究開発の分野だろう。マーケティングに巨額を投じている反面、研究開発費は明らかに少ない。2019年の研究開発費は前年比778%増の2317万9000元(約3億6200万円)、2020年第1~3四半期は前年同期比319%増の4090万2000元(約6億4000万円)となっている。
創業者が化学者だったロレアルパリはもともと研究開発を得意としている。世界に20カ所の研究開発センターを構え、マーケティング要員に引けを取らない4000人近くの研究開発スタッフを抱えている。研究開発費は年間9億ユーロ(約1100億円)に達し、この10年は毎年500件近くの特許を出願している。
逸仙電商が取り組むべきは、マーケティングコストを抑えて製品の実質的な価値を高め、売上高や純利益の成長率を引き上げることだ。これはコスメ業界で生き残るために不可欠であるだけでなく、自身の時価総額を上げる重要な切り札になることだろう。
(作者・美股研究<meigushe>、翻訳・畠中裕子)
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