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中国では今年に入り、デジタル人民元の試験運用とプロモーションが本格化している。六大国有銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行、交通銀行、中国郵政儲蓄銀行)に続き、アリババ系金融会社のアント・グループが運営するインターネット銀行「網商銀行(MYBank)」もデジタル人民元の運営機関となった。同じくアント・グループが運営するモバイル決済アプリ「支付宝(アリペイ)」には、一部のユーザーがデジタル人民元を利用できる機能が追加された。この機能は現在、利用範囲を限定して試験運用されている。
アリペイなど第三者決済プラットフォームの膨大なユーザー数と豊富なアプリケーションシナリオを利用できれば、デジタル人民元による決済は瞬く間に広がるだろう。業界内では、デジタル人民元が第三者決済プラットフォームに取って代わる可能性についても盛んに議論されるようになった。
これについて中国金融学会会長で清華大学五道口金融学院名誉院長の周小川氏は、デジタル人民元は中国における決済システムの現代化をよりどころに発展していると説明した上で、デジタル人民元と第三者決済プラットフォームとが競合関係になることはないとの考えを示している。
アント・グループの取り組み
デジタル人民元と第三者決済プラットフォームは本質的に異なる。デジタル人民元はM0(現金通貨)と定義される法定通貨で、いわば「お金」そのものだ。一方、第三者決済プラットフォームは金融インフラと定義され、「財布」の役割を担う。
技術革新は商業を大きく変えるきっかけになってきた。現在起こっている決済技術の革命的変化も例外ではない。
アリペイの誕生は、オンライン上のバーチャルな取引に現実的な保障を与え、中国の電子商取引(EC)業界の成長を促進した。デジタル経済の新時代に突入した現在、決済の新なトレンドになりつつあるデジタル人民元は、どのような変革のチャンスをもたらすのか。まだ分からないことも多い中、関連企業はすでに事業展開を進めている。
アリペイは業界の先頭を走り続け、網商銀行は中国7番目のデジタル人民元運営機関となった。アント・グループはこれまで一貫して、デジタル人民元の開発に深く関わってきた。
網商銀行は2017年にデジタル人民元の開発試験に参画している。これまでにスーパーマーケットの「盒馬鮮生(Hema Fresh)」と「大潤発(RT-Mart)」、ネットスーパーの「天猫超市(Tmall Mart)」、シェアサイクルの「哈羅単車(Hello Bike)」(現、哈羅出行)などアリババ系企業のほか、上海市内の公共交通などでデジタル人民元の試験運用を重ねてきた。2019年にはアント・グループが独自開発した分散データベース「OceanBase」とモバイル開発プラットフォーム「mPaaS」がデジタル人民元の技術構築に導入されている。
競合は避けられない
デジタル人民元が第三者決済プラットフォームに取って代わることはないとしても、ECプラットフォームや実店舗など小売決済の現場でデジタル人民元の試行運用が始まれば、両者の競合は避けられない。
デジタル人民元には多くの強みがある。とくに技術面の優位性は明らかで、即時決済機能や「コントロール可能な匿名性」のほか、インターネットに接続しなくてもスマホどうしを接触させれば支払いが完了する機能などを備えている。
即時決済の機能があれば、第三者決済プラットフォームのサービスや銀行システムを通して清算する必要がなくなる。取引がスムーズかつスピーディーになり、消費者と事業者双方の負担が減る上、法律上の関係もより明確になる。
実際に利用する消費者の立場に立てば、匿名性がデジタル人民元の大きな強みになるだろう。蘇寧金融研究院の黄大智氏は、消費者は自分が何を購入し、いくら支払ったかを知られたくないと指摘。デジタル人民元ならば個人情報が保護されるため、これらの情報を隠すことができると説明した。
現在はアリペイやテンセントの「微信支付(ウィーチャットペイ)」で買い物するのに慣れた人も多い。しかし、小売決済向けのデジタル人民元が実用化されれば、決済方法をデジタル人民元に変更する人も出てくるだろう。デジタル人民元を利用する人の割合が増えれば、第三者決済サービスの収益が減ることになるのは必然だ。
作者:WeChat公式アカウント「億欧網(ID:i-yiou)」、胡小鳳、顧彦(編集)
(翻訳・田村広子)
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