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2018年から中国の小売業は激動期に入っている。2月にテンセントと京東集団(JD.com)が小売チェーンの「歩歩高商業連鎖(Better Life Commercial Chain Share)」に出資。同月にテンセントは、同社が出資する大手スーパーチェーン「永輝超市(YONGHUI SUPERSTORES )」とともに、カルフール中国にも出資した(後にカルフールの中国事業はテンセントに売却された)。翌3月には、競うかのようにアリババが大型スーパーチェーン「高鑫零售(SUN ART Retail)」に出資した。
そして、2019年に入り、アリババとテンセントの小売業に対するアプローチ・戦略の違いがくっきりと浮かび上がってきた。新小売(ニューリテール)分野では、アリババはB2BとB2Cを並行させているが、テンセントはB2Bに重きを置いているのだ。
また、新しいビジネスモデルも検証に値する。昨年は無人商品棚、集合住宅内で展開する小売店や共同購入サービスが人気を博した。
2019年の小売業界はどのような変化を遂げるのだろうか。
盒馬と永輝の今後に注目
アリババの次世代スーパー「盒馬鮮生(Hema Fresh)」の特長とも言える、飲食と小売、実店舗とECの融合は新たなユーザー体験を創出した。盒馬は過去3年余りで16都市に100店舗をオープンさせたが、今年は新規出店を抑え、それぞれの店舗運営を強化していかなければならないだろう。
業界関係者は盒馬が現在、サプライチェーンの統合、商品力向上に注力していると見ている。その第一歩として着手したのが、2018年末に武漢に誕生したサプライチェーンセンターだ。ここでは、商品供給および加工、物流拠点の機能が一体化されている。サプライチェーンセンターが今後も増設されていくのは明らかで、盒馬はすでに北京、上海、広州などの各都市で候補地の選定に入っている。
しかし、業界内では依然として盒馬のビジネスモデルに疑いの目も向けられている。その理由は「(実店舗とEC、小売りと飲食の)二兎を追うとコストが高くなる」ことだ。盒馬は実店舗の運営費だけでなく、配送料も負担しなければならない。また、スーパーと飲食の両面でユーザー体験を最高レベルに引き上げることは難しいチャレンジだ。
この点も含めて、盒馬は戦略を調整するだろう。例えば、店舗の立地や客数などに応じてサービスを変えていく。一部店舗ではデリバリー条件も変わるかもしれない。
同様に、テンセントが出資する永輝超市にも注目したい。同社の子会社で、盒馬と業態が似ている「永輝生活(Yonghui Life)」や「超級物種(Super Species)」を運営する「永輝雲創科技(YONGHUI YUNCHUANG TECHNOLOGY)」は、2018年上半期に3.88億元(約62億円)の損失を計上した。永輝雲創はテンセントから追加出資を受け、新小売戦略では親会社の永輝超市と距離を置くようになった。業界関係者からは「永輝生活はコンビニなのかスーパーなのかポジショニングがあいまい」と見られており、超級物種も飲食店とデリバリーサービスのはざまで揺れている状況だ。
「1時間配達」の実現
当日配達、翌日配達がEコマースの一般的な配送モデルとするならば、新小売時代は「1時間配達」を実現できるかが進化の目安となる。
この分野では各社しのぎを削っている。盒馬の配送モデルを他社も利用できるように開発されたアリババ系の「淘鮮達」もあれば、指定されたエリアであれば商品を2時間以内に配送する京東系の「京東到家(JD Daojia)」もある。また、フードデリバリーに強いテンセント系の「美団点評(Meituan Dianping)」やアリババ系の「餓了麼(Ele.me)」もしかり。各社とも新小売に重きを置いており、新たな成長機会と捉えている。
実店舗をオンライン化し、よりスピーディーに配達することが各社共通の目標だ。しかし、取り扱い商品の数は膨大で価格変動も頻繁。商品のピックアッププロセス、管理システムなどの再設計が必要となる。そのため、実店舗をオンライン化するためには、消費者にとっての「利益」を考えるだけでなく、サプライヤーを根本的に「改造する」ことも必要で、この基礎的な作業を終えてこそ、爆発的な成長が期待できるはずだ。
現在の市場シェアから見れば、早期に参入した物流サービス京東到家のシェアが比較的大きい。また、淘鮮達はアリババと資本関係を持つ小売業で急速に成長しており、美団点評および餓了麼は小売業務の「補完」的な役割を担っている。
2019年は、配送分野での競争がさらに激化するだろう。京東到家の課題は、美団点評や餓了麼のように、デリバリー事業を通じて顧客層を拡大できるかだ。一方、淘鮮達の課題は、同社のデジタル経済スキームをアリババと資本関係のない小売店にも拡大できるかどうかにある。
ユーザーのニーズや消費習慣が変わってくれば、生鮮品分野で成功を収められたように、2019年には日用品、医薬品、切り花、アパレル用品などでも「1時間配達」が実現するだろう。消費者視点では、これらの商品に「1時間配達」が本当に必要であるかないかはわからないが、ビジネス視点では、より高いマージンを期待できる商品へとカテゴリを拡大することは、プラットフォーム側に利益をもたらすことになる。必然的な流れなのは、サービス提供業者と小売業者の境界線がますますあいまいになるということだ。
コミュニティ型小売りはテンセント頼み
集合住宅の敷地内で展開する「コミュニティ型小売り」は、消費者により近く、より便利だが、サービスを提供できるエリアや販売量が限られる。そのため、合理的な商品構成や利益モデルの構築、一貫した管理能力がネックとなる。
また、コミュニティ型小売りでは創業のタイミングが重要だ。一・二級都市の消費者はオンラインで生鮮食品を購入する習慣を身につけており、オンラインとオフラインの利用シーンを使い分けている。例えば、一般的な生鮮食品の購入はオフライン、特定の果物はオンラインといったように使い分けており、これが新たな販売チャネルを生むことになった。
2018年、生鮮食品へのニーズに着目したいくつかのビジネスモデルが成功した。会員制共同購入プラットフォームの「食享会(FRESH SHARE)」、ITを活用した生鮮スーパーの「銭大媽」(京東系)、「生鮮伝奇」(セコイア・キャピタル系)、生鮮品デリバリーサービスの「叮咚買菜」「朴朴超市」などである。これらの企業は引き続きビジネスを拡大させていくだろうが、資本政策が命運を左右することになるはずだ。
同分野の2018年の投資案件に対しては、今でも業界内で見方が大きく分かれている。一つはコミュニティ型小売りは単なる新しいビジネスモデルで、安定した消費行動につながらないというネガティブな見方。もう一つは、コミュニティ型小売りは顧客獲得コストが低く、優れたサプライチェーンを有する企業などと提携することで、より良いビジネスモデルを生み出すことができるというポジティブなものだ。
注目すべきは、この分野の企業はアリババからの投資は受けられず、ソーシャルサービスに強いテンセントに頼らざるを得ないということだ。テンセントがこの分野のトップ企業を傘下に収められれば、生鮮食品小売分野でシェアを握るアリババに対抗できるはずだ。
新小売が生み出す新ブランド
新小売は新しいブランドも生み出している。2018年、生活雑貨チェーンの「名創優品(MINISO、メイソー)」「NOME」は急速に成長し、製品と販売チャネルを統合させたブランドの力を見せつけた。このビジネスモデルのキーは、小売そのものではなく、より優れたサプライチェーンの整備、つまり、デザイン、SKU管理、生産・製造、在庫管理などの一連の能力にある。
「従来のブランドはブランドとしての個性ばかりに目を向けてきたが、個性だけでなくコストパフォーマンスも同時に向上させなければならない」と「鐘鼎創投(EASTERN BELL VENTURE CAPITAL)」パートナーの孫艶華氏は述べている。
優れたコストパフォーマンスを発揮するためには、まず第一にマーケティングコストを適切に管理しなければならない。 新しいブランドはソーシャルECの「小紅書(RED)」、ショート動画アプリの「TikTok」「快手(Kwai)」といったニューメディアを利用して、今後はより低コストなマーケティング体制を整えていくだろう。
「天図投資(Tiantu Capital)」の馮衛東CEOは、生産と販売の分離によってもたらされる新たなチャネルの将来性を信じており、「最初はすべての空調ブランドが自社の専門店を運営していたが効率が悪かった。後に大型家電量販店の国美電器(GOME)や蘇寧電器(SUNING)が現れて生産と販売が分離された。将来はブランド集合店の勢いがますます強まるだろう」と見通しを述べている。
(翻訳・飯塚竜二)
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