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可視光線から不可視光線まで記録するマルチスペクトルカメラは、航空・宇宙、資源採掘、海洋探索などの分野で活用されている。近年ではリモートセンシングを可能にするドローン技術の発達と普及により、農業分野にも広く導入されるようになってきた。
しかし、中国の農業現場では導入に障壁を抱えている。現在は小型マルチスペクトルカメラの多くが海外製であるうえ、価格も約4000ドル(約45万円)以上と高額だ。さらに、中国の農地には通信圏外の地域もあり、クラウドへのデータ転送ができないことも多く、海外製品では国内事情に適応しない。
こうした事情に対応すべく立ち上げられた「道創智能創新科技(Vimble)」は、ローカルAIを搭載した低コストの小型マルチスペクトルカメラの開発を目指している。種子の選別や農地のモニタリング、作物の選別など農作業の効率向上に役立てるためだ。すでに農地の測量や地図化を行う試作機を完成させており、今年上半期に小ロットで試作を行う予定だ。
同社の製品は海外製品と比較しても、性能面、価格面の双方で強みを持つ。性能面では、スペクトルが5バンド、フレームレート(動画処理の効率)は3fps。価格は、米マイカセンス社製「Red Edge」シリーズのおよそ半額だ。サプライチェーンの確立した深圳市に開発拠点を構え、開発チームにカメラやクラウド分野で経験豊富な人材を揃えて良品率を向上させたことにより、生産コスト削減に成功した。
小型マルチスペクトルカメラの設計で最も難易度が高いのは光学システムだ。画像生成の一貫性を維持し、製品の安定性を保証しなければならないからだ。この点をクリアするには、開発者の経験値に頼る部分も大きい。
道創智能の製品はローカルAIを搭載している点や、組み込みAIチップを採用している点で市場に流通する他製品と異なる。これには高度なAIアルゴリズムの研究開発能力やデバッグ能力が求められるが、中国国内には現在、こうしたエッジAIに長けた人材は稀だ。
スマートアグリへの活用シーンとしては、農地測量・地図化、種子の選別、作物の選別を想定している。市場自体が黎明期のため、パートナーと提携してマルチスペクトルカメラを軸としたトータルソリューションを立案していく。ハードウェアの販売、個別のシーンに基づくソリューション設計、この2点を将来的に収益へ結びつける。
農地測量・地図化に関しては、カメラをドローンに搭載して関連情報を取得する。これによって作物の健康状態や虫害の有無などをリアルタイムで把握し、農業機械の走行軌跡や農薬散布・水やりの適量値を図面化するなど、精密農業の実現に役立てられる。
作物の選別に関しては、スペクトルセンサ―と選別機技術を結び付け、作物のサイズ、重さ、糖度などによって分け、質の均一化を図る。種子の選別も同様の手法で行い、発芽率を高める。
現在、中国国内には約203万の農業組織経営体があり、1997年の4倍の数になっている。農業の機械化も進んでおり、精密農業市場は2017年の50億9000万ドル(約5700億円)規模から2022年には95億3000万ドル(約1兆円)規模へ拡大すると予測されている。年平均成長率は13.3%だ。果物の生産高は2017年時点で約2.9億トン、種子市場は2016年時点で1230億元(約2兆円)規模で、世界2位となっている。
こうした背景がありながらも、マルチスペクトルカメラを搭載した海外製品が国内市場を切り開くには価格がネックとなり、難しいだろう。そこへ、現地企業がコストパフォーマンスに優れた製品を発表すれば、大きなチャンスとなる。
道創智能の中核メンバーはいずれも香港科技大学(The Hong Kong University of Science and Technology)の出身だ。
CEOの成旭然氏はかつて香港科技大学ロボット研究室に所属し、プロジェクトマネジメントやハードウェア開発に従事してきた。これまでにセルフィースティックやアクションカメラ、ペットロボットの開発を手がけ、世界最大のクラウドファンディングプラットフォーム「Kickstarter」を通じて高額資金調達に幾度も成功してきた。2018年にはプロダクトデザイン賞「レッド・ドット・デザイン・アワード」を受賞している。
パートナーの呂葉涛氏も香港科技大学ロボット研究室の出身で、マシンビジョンやロボット学などの分野で経験を積んでいる。技術責任者の曽璨程氏は香港科技大学でマーケティング哲学(企業戦略論)を専攻。マシンラーニングやコンピュータービジョン関連のアルゴリズム開発に携わっている。COOの李奇思氏は香港科技大学でグローバルビジネス学と経済学を専攻。中国のスマートデバイス企業の米国進出を支援してきた。
(翻訳・愛玉)
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