北京・深圳間で遠隔手術が成功 MR技術で遠隔医療を支援する「縉鋮医療」

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中国では今年3月、北京の大型医療機関の専門チームが2200キロ離れた深圳市の病院で行われた手術に遠隔で技術指導を行い、手術を見事に成功させた。これは5G通信(第5世代移動通信システム)を通じ、MR(複合現実)技術を用いて実現したものだ。術前計画から実際の執刀まで、北京と深圳の2つの医療チームがリアルタイムで連携し、重大疾患の患者2人を救っている。

5G通信を導入したこの手術の全過程において、画像や音声の遅延や中断といったトラブルはなく、高精細画像の転送やAIを用いた3Dリコンストラクション、インタラクション技術を通じて高精度な遠隔手術を行えることが証明された。

この遠隔手術を支援したのは、医療テック企業「縉鋮医療科技(JinCheng Medical Science and Technology)」だ。2015年に北京で創業した企業で、AIを用いたMR可視化技術に特化した医療製品を手がけている。AI、MR、AR(拡張現実)、5Gなどの最先端技術を駆使して、術前計画、術中のインタラクション、術後の再診まで、外科手術に関わる全プロセスを支援する。

CEOの張晋兵氏によると、同社は独自のCNN(畳み込みニューラルネットワーク)によって医療の専門知識や医療専門家の経験をコンピュータ言語に変換し、AIを活用した3Dリコンストラクションエンジンを開発した。CTや二次元NMRなどの断層画像データを自動で分割・再構築して3Dモデリングを行う。さらに、MR技術を通じて現実空間にホログラフを融合させることによって、医師は迅速、精確、かつ直感的に病変部位および周辺組織の分析をすることができる。また、遠隔地にいる医師間で協力して診療を行うことも可能にした。

既存のソフトウェアを用いて3Dモデリングを行う場合、十数時間という長時間を要する上に操作も複雑で、操作に習熟するには長時間の学習を必要とした。しかし、縉鋮医療のAI技術はこのプロセスをわずか数秒にまで縮めた。ヘッドセットを装着すると、AR画像表示システムを通じて、腹腔鏡の視野、患者の画像資料、3Dモデリングされたバーチャル内視鏡画像などのマルチモーダルデータを見ることができる。

実際の臨床データを蓄積して3Dリコンストラクションのアルゴリズムを最適化するのに、3年以上を費やして専門家の指導を仰いだという。コンピュータの実行速度が上がり、アルゴリズムが刷新されるに従い、この蓄積作業は継続的に加速を続け、自社開発のアルゴリズムは同社にとって重要な差別化要素となった。

無論、中国国内には医療画像の3Dモデリングソフトが多数存在している。これらは縉鋮医療と同様にMR技術に基づいたものだが、医学知識と連携したアルゴリズムの開発が難しいうえ、AIを用いた画像の自動分割・再構築が不可能だった。アリババ、テンセントなど大手を筆頭に遠隔医療分野に参入する企業は多いものの、外科手術の領域にまで踏み込める企業は少ないのが実情だ。

縉鋮医療は、神経外科領域で比較的高度なコアアルゴリズムを30以上も開発してきた。さらに今年は、心臓血管外科や肝胆膵外科領域にも着手している。また、特許やソフトウェア著作権をすでに数十件も申請中だ。

張CEOは、これらの技術が大規模に活用されれば、臨床医療として以下のような重要な意義があると考える。1)医師の業務量が飛躍的に削減でき、診療における効率や精度を高められる。また、専門人材の価値がより拡大できる。2)農村部などの末端で就業する医療従事者や医療機関に対し、遠隔医療の支援により診療水準の向上が図れる。

商業的価値の面から見ても、遠隔医療は必ず将来の趨勢になると考えられる。医療リソースが北京・上海・広州などの超大都市に集中する中、遠隔医療の最難関である外科手術をクリアすれば、その市場は100億元(約1600億円)規模になる可能性がある。手術はリスクも高く、想定外の事態も発生しうるが、多くの疾病治療に欠かせない治療手段だ。中国国内で年間6000万件の手術が行われると仮定すれば、上記のような数字は現実味を帯びてくるだろう。

同社の医療技術や医療製品はすでに多くの大手医療機関や病院連盟、政府によるプロジェクトで導入されている。ハーバード大学医学大学院、清華大学付属の清華長庚医院、中国人民解放軍総医院などと提携するほか、清華大学とAI技術に基づくMR医療画像データの開発や応用の研究、実用化へ向けて協力を進めている。

創業者兼CEOの張晋兵氏は医療業界で20年以上のキャリアを持つシリアルアントレプレナーで、起業マネジメントの経験も豊富な人物だ。縉鋮医療は近くシリーズAでの資金調達を完了する見込みだという。
(翻訳・愛玉)

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