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中国版Slackとも呼ばれる、アリババの企業向けコラボレーションツール「釘釘(DingTalk)」は、海外進出を戦略的プロジェクトと位置づけ、すでに社内の複数部門から人材を集めてプロジェクトチームを組織していることが36Krの取材で分かった。
DingTalkは、アリババグループが企業業務の効率化を支援するために自社開発した一体型コミュニケーションおよびモバイルオフィスツール。2015 年よりサービスを開始し、23 年末までに2500万を超える企業や学校、行政機関、7億人のユーザーに利用されるプラットフォームに成長した。
DingTalkはこれ以前にも、海外事業を展開する中国企業を対象に一部サービスを提供していたが、今回は海外進出を戦略的に進めていく姿勢を明確に打ち出した。
この件について36KrがDingTalkに問い合わせたところ、海外での事業展開に向けて組織拡充を進めている段階だとし、現時点では主に既存顧客向けにサービスを提供しているとの回答だった。
状況からしても、DingTalkがすでに必要な人材獲得に動き始めているのは間違いない。つい先日も、DingTalkがビジネスSNSのLinkedInを通じてマレーシアやインドネシア、シンガポールなどの地域で働くエリアマネジャーやソリューションマネジャーなどを募集し始めたと、あるセルフメディアが報じたばかりだ。
海外進出を考える企業はさまざまな問題をクリアする必要がある。まず、現地の法律や異なる言語、時差などの問題に対処しなければならない。進出してからも、国内外の連絡に使うプラットフォームは種類が多く複雑で、プロセスやシステムを海外でも同じように使用するには解決すべき課題が多かった。
ここ2年間、DingTalkはプロダクトのユーザーエクスペリエンスを高め、グローバル化を進めるために多くのエネルギーを注いできた。今では、1つのアカウントで国内チームと海外チームを一元管理できるようになっている。インスタントメッセージやビデオ会議機能も、インドネシア語やベトナム語、タイ語、フランス語など15言語の翻訳に対応した。さらに、デスクトップカレンダーにはタイムゾーンの自動変更などの機能が追加され、会議のスケジュールを組む際には参加者がいる地域の現地時間を知らせてくれる。
DingTalkに近い人物によると、DingTalkはすでにパートナー企業と連携して海外進出企業向けのサービスエコシステムを整え始めており、オープンプラットフォーム上でマーケティングや顧客管理、クロスボーダー決済、ネットワークセキュリティー、人事管理などのアプリケーションを公開しているという。
DingTalkが海外へとサービスを広げるのは必然的な流れと言える。中国の企業向けコラボレーションツール市場はすでに黎明期を脱しており、DingTalkのほか、バイトダンスの「飛書(Feishu、海外版Lark)」やテンセントの「WeChat Work(企業微信)」などのツールは、いずれも収益化を進めている。しかし国内のSaaS市場はそれほど大きくないため、過去数年は企業向けコラボレーションツール市場で大混戦が繰り広げられた。前述の各大手ツールもすでに、SaaSへの支出に積極的な企業はほぼカバーしており、新規の需要を見込みにくい状況になっている。
国内のSaaS市場の成長が鈍化するなか、数少ない選択肢の1つとなったのが海外進出だ。2021年以降、多くのSaaS企業が成長を求めて欧米や日本、東南アジアなどの市場へと参入した。そのなかには、データ分析サービスの「神策数拠(SENSORS Data)」や労務管理システムの「蓋雅工場(GigaWorks)」、顧客関係管理プラットフォームの「紛享銷客」などSaaS分野の老舗のほか、音声通信技術の「Agora(声網)」やデータベースを提供する「PingCAP」など、設立当初からグローバル展開を掲げるスタートアップも少なくない。今回のDingTalkの海外進出も、業界全体のこうした流れを裏打ちするものだ。
DingTalk関係者によると、まずは海外進出した中国企業のニーズを満たすことを第一とし、特にこのところ海外進出が盛んな太陽光パネルやリチウムイオン電池、EV関連の企業にサービスを提供していくという。
とはいえ、海外のSaaS市場も強豪がひしめく激戦区であり、TeamsやSlack、Zoomなどの大手サービスがかなりのシェアを握っている。DingTalkがこの環境で存在感を発揮するには、現地に合わせた運営や海外向けのブランディングなど、多くの課題を乗り越える必要があるだろう。
(翻訳・畠中裕子)
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