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中国の電気自動車(EV)メーカー最大手「BYD(比亜迪)」は6月25日、日本向け乗用車第3弾となる「SEAL(シール)」を発売した。それから約半月、市場からはどういう反応を得ているのだろうか。
BYDは1995年、広東省深圳市にてバッテリーメーカーとして誕生した。競合相手の日本メーカーよりもはるかにコストを抑えて製造し、2002年にはニッケルカドミウム電池において世界トップのシェアを獲得するまでに成長した。
一方、もうひとつの屋台骨が自動車事業だ。国営兵器製造会社「中国北方工業(NORINCO)」傘下の「西安秦川汽車」を2003年に買収し、「BYD汽車」が誕生した。08年には世界初の量産プラグインハイブリッド車(PHEV)「F3 DM」を、09年にはBYDとして初めての電気自動車(BEV)である「e6」を発売した。そして20年経った2023年、BYDは全世界で年間302万4417台を販売し、EV(BEV+PHEV)販売において世界トップのメーカーに輝いた。そのうち、157万4822台がBEV、143万8084台がPHEVとなる。
BYDは以前より日本でバッテリー事業や電気バス事業、電動フォークリフト事業などを展開していたが、22年に日本の乗用車市場への本格的参入を発表した。そして23年1月の「 ATTO 3(アット3)」、同年9月の「DOLPHIN(ドルフィン)」に続き、24年6月には第3弾となる「SEAL(シール)」が発売された。
シールは22年8月に中国で発売されたセダンで、海洋生物や艦種から車名やデザインの着想を得た「海洋シリーズ」におけるフラッグシップを担う。中国仕様は2種類のバッテリーからなる全5グレード展開だが、一方で日本仕様は出力308 hpの後輪駆動(RWD)と出力523 hpの四輪駆動(AWD)両方のトップグレードのみ。どちらも容量82.56 kWhのリン酸鉄(LFP)リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を搭載し、一充電走行距離(WLTCモード)はRWDモデルで640 km、AWDモデルで575 kmとしている。
シールへの期待値は発売前より高く、ディーラーアンケートでは「発売されたらすぐに購入したい」と答えた人が約100人だという。「アザラシ」を彷彿とさせるエクステリアは確かに唯一無二だし、航続距離と性能、装備を考慮すれば、テスラのModel 3よりもはるかにお得と考える消費者が多いのだろう。
こうして満を持して発売されたシールだが、さらに先着1000台限定での特別価格を打ち出した。メーカー希望小売価格はRWDモデルで528万円、AWDモデルで605万円としているが、最初の1000台はそれぞれ495万円と572万円で販売される。これに加え、政府によるCEV補助金は35万円と見込まれており、実際の乗り出し価格はかなりお手頃となる。
BYD Auto Japan(BYDオートジャパン)に聞いたところ発売から半月ほどが経ち、すでに200台弱の受注を獲得、その7割がRWDモデルとのこと。また、現時点で試乗できるのはRWDモデルのみである。8月以降に順次展開されるAWDモデルの試乗車も試してから決めたいとの声も多く、さらなる伸びが期待される。最初の1000台に関して、同社の東福寺厚樹社長は「年内に達成したい」と、シールの発売を記念した報道発表会で語っている。
BYDは23年1月から24年6月中旬まで、日本で累計約2500台を販売してきた。これまでに日本で乗用車を売ったことのない輸入ブランド、それも中国ブランドであることを鑑みるとかなり上出来だが、BYDとしてはまだまだ上を目指していきたいところだろう。
その意思が「#答えは試乗で」というシールのプロモーションや、テレビCMにおける女優・長澤まさみ氏の起用にも現れている。CM総合研究所の6月度のデータによると、BYDのCM好感度ランキングは輸入車ブランドでトップ、自動車全体でも3位を記録している。中国車が日本におけるCM好感度でドイツ車を抑えてトップになる日が来るとは。
日本だけでなく世界的にセダン需要はSUVに取って代わられており、BYDが日本にもEVセダンを投入すると発表したことには少々驚かされた。だが、BYDとしてはシールが所属する「Dセグメント」市場において販売の5割がセダン車種であることから、セダンを投入しても十分に戦えると見込んでいるとのこと。シールのデザインや安全性、走行性能に加え、BYD本来の強みである「Value for Money」をアピールすることで、より多くの人の選択肢にBYDが加わるようにしていきたいとの狙いだ。
BYDはこれまで全国30か所に整備と販売を担うディーラー拠点を設けており、2024年の終わりまでに90か所へ増やすと先日発表、当初の目標「2025年中に100拠点」へより加速していく形だ。ディーラー販売に馴染み深い日本人消費者のマインドをよく理解し、次にどういったものを求めるかの声にも的確に答えていく姿勢がBYDの強みと言える。BYDは今後、新規車種を毎年最低1車種は投入していくとも表明しており、日本の電動車市場において注目すべき存在となっていくだろう。
(文:中国車研究家 加藤ヒロト)
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