EVバッテリーの大量廃棄に備え急務、中国のリサイクル市場はどう動くのか ー現地専門家が指摘

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世界で電気自動車(EV)産業が目覚ましい発展を遂げるのに伴い、廃棄バッテリーのリサイクルが注目を集めるようになっている。36Krではこのほど、車載バッテリーの交換・カスケード利用に取り組む代表的な企業、「賽徳美(Saidemei)」の趙小勇会長と「藍谷智慧(北京)能源科技」の孫杉副社長を招き、バッテリーリサイクルの将来と課題について話をうかがった。

藍谷智慧能源は自動車大手・北京汽車集団(BAIC)傘下のハイテク企業として2016年に設立され、スマートバッテリー交換ステーションの研究開発と運営、車載バッテリーのカスケード利用などを手掛けている。賽徳美も2016年に北京で設立され、新エネルギー車の車載バッテリーのカスケード利用とリサイクルに注力し、バッテリーの破砕と素材リサイクルの物理選別技術では国内のパイオニア的存在だ。

両社ともに中国政府の「新エネルギー車の廃バッテリー総合利用業界規範条件」を満たす企業としてホワイトリストに掲載されている。

一気に増える廃棄バッテリー

中国の新エネルギー車保有台数は2024年6月末時点で2472万台に達した。その多くが間もなく一斉に寿命を迎え、大量の車載バッテリーのリサイクル問題が生じる。孫副社長は、バッテリーのリサイクル市場には大手から中小まで多くの企業が参加しているものの、技術や運用レベルには大きな開きがあり、業界は混乱していると指摘、政策を通じた業界の適正な運営を進める取り組みが国家レベルで行われていると語った。

趙会長は、世界最大級の自動車リサイクル市場、また膨大な数の自動車を保有している中国には、多くのリサイクル企業が存在しており、特にリチウムイオン電池のリサイクルでは技術や規模、イノベーション能力で世界のトップレベルにあるとした。

車載バッテリーのリサイクルとカスケード利用は環境保護につながるだけでなく、新エネルギー車産業の経済効果を向上させる点でも極めて重要だ。孫副社長は、新エネルギー車ではバッテリーが車両コストのおよそ40%と大きな部分を占めていることに言及し、カスケード利用することでバッテリーの価値を高めれば、消費者が負担するコストを抑えることができると指摘した。趙会長は、新エネルギー車の廃車時にバッテリーをリサイクルできれば、消費者にも一定の利益がもたらされ、車両の残価評価や下取りなどバッテリーの価値に注目した新たな販売方法が登場するかもしれないと考えている。

廃棄バッテリーの活用法

廃棄バッテリーのリサイクルには大きく分けて、カスケード利用と再資源化の2つがある。孫副社長はカスケード利用できるシーンとして、産業・商業用蓄電システム、アウトドア、フォークリフト、予備電源、街灯や緊急用照明、小型車用などを挙げた。最も重視されるのは安全性であり、安全検査を経ずに市場に出回ることはないという。

カスケード利用は、バッテリーの解体方法や効率の点で課題がある。また、完成車メーカーやバッテリーメーカーが製品設計の段階からカスケード利用を手掛ける企業と協力し、電池性能に優れ、かつリサイクルしやすいバッテリーを共同開発することも課題だ。このためには産業全体が協力し、経済効果と環境保護の両面でプラスとなるように努力する必要がある。

趙会長は、電池の型式を標準化し実装方法を改良することで、産業全体のコスト削減と効率化を実現し、最終的に自動車メーカーやバッテリーメーカー、さらには社会全体の持続的発展に寄与することができるとの考えを示した。

業界全体でウィンウィンを実現

最近では、車載バッテリー大手の寧徳時代(CATL)や贛鋒鋰業(Ganfeng Lithium)もバッテリーリサイクルへの参入に動き出している。リサイクル企業はこれら大手とどう戦っていくのかについて、趙会長は以下のように述べた。多くの大手企業や国有企業がリサイクル業界に参入するのは、メーカーとしての社会的責任を果たすためであり、市場の主導権を握ろうとしているわけではない。またバッテリーの大部分は消費者が個人で使用しているもので、最終的には全国に存在する数千もの処理企業へと流れていくため、サードパーティー企業は特定のブランドに限定されることなく多くの自動車メーカーと提携でき、チャネル、技術、協力のチャンス、すべてにおいて有利になる。

孫副社長は中国電動汽車百人会のデータを挙げて、2030年までに新エネルギー車の保有台数が8000万台から1億台になる見込みで、あらゆる規模の企業をのみ込める巨大市場になると話す。企業各社が力を入れる点は異なっているので、完成車メーカーやバッテリーメーカーが参入すればサービスの多様化が期待できる。切磋琢磨し、ウィンウィンの関係を構築することが新エネルギー車産業の際立った特徴になるだろう。

EUバッテリー新規則の影響

EUはEVのバッテリーリサイクルに関して、廃棄後に必ず製造国に送り返して処理することを求めるとの新たな規則を打ち出した。中国は固体廃棄物の輸入を厳しく制限しており、非金属のバッテリーは中国への持ち込みが許されていないため、廃棄バッテリーを中国に送り返して処理するというのはあまり現実的ではなく、中国企業は国外でリサイクル問題を解決する必要がある。

趙会長は、中国企業が自動車を輸出する際、現地での回収システム構築を含めライフサイクル全体での管理を検討しなくてはならないとし、この新規則によって中国のバッテリー産業はいっそうグローバル化が進み、サーキュラーエコノミーの発展を推進する結果になるだろうと語った。

孫副社長は、リチウム資源が乏しい中国にとって、EUのバッテリー規則は資源保護や貴金属材料の適切なリサイクルにプラスに働くとの考えを示す。そのために中国企業は海外での工場建設や技術協力、現地企業との提携などを進める必要があるという。

最後に

バッテリーリサイクル産業の台頭は新たな巨大市場の誕生を示唆している。技術が絶え間なく進歩し、市場が徐々に整備されれば、バッテリーリサイクルは環境にやさしいだけでなく、産業全体の経済効果を高めるものとなる。消費者には、新エネルギー車の使用コストが下がるというメリットをもたらし、企業にとっては果たすべき社会的責任であると同時に、新たなビジネスチャンスにもなり得る。

(翻訳・36Kr Japan編集部)

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