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ガチ中華ブームは火鍋、マーラータン(麻辣湯)と、四川由来のピリッと辛さが効いた料理が牽引し続けてきた。その裏で地味ながら着実に存在感を高めているのが「湖南(こなん)料理」だ。2019年ごろから日本にも専門店が徐々に増え、最近は中国発のチェーン店や1人で食べに行けるような米粉(ビーフン)の店、高級感ある上品な料理が味わえる店など、湖南料理の中でも業態が多様化している。あなたが「四川料理」だと思って食べているガチ中華メニューは、実は湖南料理かもしれない。
四川料理、広東料理と並ぶ八大料理の一つ
湖南料理とはその名の通り中国の湖南省で食べられている料理だ。四川料理や広東料理と並んで中国八大料理の一つに数えられる。日本では四川料理の父とも言われる陳建民氏が戦後に四川料理を広めたことで、辛い中華料理といえば四川料理が真っ先に連想されるが、中国では湖南料理も負けず劣らず人気ジャンルなのだ。
ちなみに、中国では湖南省を表す「湘」をとって「湘菜(シャンツァイ)」や「湖南菜」と呼ばれている。
中国の内陸部に位置する湖南省は山間部と盆地に分かれ、夏は気温が上がり湿度も高いことから、体の湿気を取り出してくれる効果がある唐辛子が好んで食べられるようになったと言われている。
「辛い中華」はどれも同じように感じるかもしれないが、中国人に言わせると辛さにも多様性がある。日本でよく知られる四川料理は唐辛子だけでなく花椒(ホアジャン)を使った痺れるような麻辣(マーラー)。一方、湖南料理は唐辛子を塩で漬け込み発酵させ、酸味も感じられる「酸辣(スアンラー)」や、300種類もあると言われる多種多様な唐辛子を使い分け、その香りを活かした「香辣(シャンラー)」が特徴的だ。

なぜ湖南料理店が増えているのか?
筆者が知る限りではあるが、湖南料理は高田馬場や上野、池袋などいわゆる「ガチ中華」が密集するエリアに固まって出店しているほか、浅草や赤坂などにもぽつぽつと点在している。
湖南料理が増えている理由について、まず考えられるのはガチ中華ジャンルでの差別化だ。コロナ禍以降、飲食店が閉店し賃料が安くなったテナントに多くのガチ中華の店舗が出店した。火鍋や四川料理、東北料理などの店が一気に増えたことで、競争が激化し、他の店と差別化するためにまだ日本ではあまり食べられない中国の地方料理や特色料理を出す店が増えた。湖南料理もその流れの中で存在感を高めた。
ガチ中華がブームになる前の2017年から営業する湖南料理店の古株「李厨」は、高田馬場、上野店に加え、系列店の「湘遇」を複数店舗展開し、東京を代表する湖南料理店のチェーン店に成長した。「李厨」や「湘遇」では代表的な湖南料理である「唐辛子と牛肉の炒め物」や「剁椒魚頭(魚の頭の発酵唐辛子蒸し)」ながが提供されている。

米粉(ライスヌードル)専門店のように一人飯に特化した湖南料理店も増えている。池袋の「湖南香辣米粉」や上野の「歳歳紅」などがその代表で、日本で言うラーメンや牛丼のように1杯のライスヌードルを一人でサクッと食べる形式。
2024年に浅草にオープンした湘南飯店はランチが2000円から、ディナーの単価が5000円〜8000円と、比較的高価格路線。博多の料理にラーメンから水炊きまであるように、湖南料理の店も層が厚くなっている。

四川料理とは違った辛さが人気に
ガチ中華料理店向けにQRコードメニューのシステムを導入している株式会社IDの楊さんは「特に中国の若者の間では辛い料理が人気ということもあり、コロナ以降は四川料理の店が増えました。最近では四川料理が増えすぎたので違う種類の辛さを味わえる湖南料理が注目されているのではないかと思います」と話す。
上野に2024年にオープンした湖南料理店の「味上」は湖南省の省都である長沙で20店舗以上展開するチェーン店。湖南省と同じレベルの湖南料理が食べられるとあって、日本に暮らす中国人の間でも話題になり、100席ほどの店内は夜になると連日満席になる人気ぶりだ。
オーナーの劉さんは「一度食べたらクセになるのが湖南料理です。発酵させて酸味が効いた唐辛子を使った料理はご飯が進む味なので」と話す。同店は料理人の育成なども行なっており、上野店で働く料理人も湖南省から派遣されているため本場の味を日本で楽しめるという。

日本人に認知されない課題

湖南料理店は都内を中心に着実に増えているものの、「李厨」や「味上」などの客層はほとんどが中国人だ。そもそも日本人の湖南料理に対する認知度が低いことに加え、湖南料理が「本場と全く同じ辛さ」になると、唐辛子が多すぎて日本人にとっては辛すぎるからだろう。日本人に受け入れられるようになったガチ中華のトレンドと逆光している感もある。
最近流行っているマーラータンはスープの辛さレベルを調整できるので辛いのが苦手な人でも食べられるが、湖南料理の店は依然として大皿をシェアするような店が多いため辛い料理好きにしか受けにくいという側面がある。
日本人客をターゲットにした少しマイルドな辛さの料理を出す湖南料理店が増えてくれれば客層が広がるかもしれない。
文:阿生
東京で中華を食べ歩く26歳会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。Twitter:iam_asheng
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