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アップルのiPhone製造を手がける世界最大手のEMS企業「富士康科学技術集団(フォックスコン、Foxconn Technology Group)」は、ブラジルや米国に引き続き、インドでの新工場建設計画も頓挫した模様だ。
印マハーラーシュトラ州のデサイ産業相は今月7日、同社が建設を計画していた電子製品工場のプロジェクトはすでに取り消しになったと発表し、その理由について「フォックスコンとアップルの間で紛糾があったため」と述べた。
フォックスコンはこれ以前に、2020年までにインドでコンシューマー向け電子製品の製造拠点を10~12カ所構えるとしてインド政府と合意していた。今回の発表を受け、アップルとの摩擦について否定したほか、インドでの製造計画については現在も進行中だとしている。
主に中国に製造拠点を置くフォックスコンだが、近年は第三国に新たに製造拠点を設けると何度も報じられてきた。しかし、複数のプロジェクトが頓挫する結果となっている。
2011年にはブラジルに進出するも、2017年にリストラを行い生産規模を縮小した。2014年にはインドネシアに10億ドル(約1100億円)を投資する計画を明らかにし、2018年には米ウィスコンシン州で新工場が着工したものの、いずれも翌年に中止となっている。もちろん、すべての海外プロジェクトが失敗に終わったわけではないが、第三国にある製造拠点の多くはアップル製品を手がけているわけではなく、生産規模も小さい。フォックスコンにとって、アップル製品の製造は最大の収益源であるにも関わらずだ。
フォックスコンが“脱中国”を目指す理由
「卵は一つのカゴに盛るな」と言われるが、フォックスコンにとっての「卵」は中国一極集中となっている。昨年新たに董事長に着任した劉揚偉氏も、フォックスコンの製造能力のうち中国以外で担っている割合はわずか25%に過ぎないと明かしている。しかし、その構造にも変化の兆しが表れてきた。
フォックスコンが変革への意志を強めた最も直接的な理由は米中貿易摩擦だ。中国で組み立てを行ったiPhoneは米国へ持ち込む際に追加関税を徴収される可能性が生じ、これがフォックスコンとアップルの双方にとってコスト面での脅威となったのだ。アップルの年度報告によると、同社の固定資産の30%が中国にある。
第二の理由は、新興市場が関税を増税するという手段を講じ、アップルの製造拠点を自国へ誘致しようとしていることだ。インドを例にとると、スマートフォン本体の輸入関税に関し、同国はここ数年で基本税率を段階的に10%から20%へ引き上げたほか、製造に係るコア部品にも10~15%の関税を課し、インドに製造拠点を構える企業に対し、同国内で部品を調達するよう促している。
第三の理由は、中国の人件費の高騰だ。中国統計局の調査では、製造業に携わるワーカーの平均年収は2012年から2017年の5年間で50%も増加した。現時点でインドの人件費は中国のわずか3分の1だ。
さらに、中国国内市場が強力な競合市場に食い荒らされている点も挙げられる。昨年後半、トランプ米大統領の鶴の一声によって海外事業が大打撃を受けたファーウェイが国内市場を大々的に強化し、アップルを含む競合のシェアを大幅に奪った。調査会社カナリスによると、昨年第3四半期、中国市場におけるファーウェイのシェアは42%に達している。
中国国内で製造されたiPhoneは同国市場で売るだけでなく、その他の新興市場をもターゲットにする必要性が出てきた。
フォックスコンの第三国拠点が成功しづらい理由
1) 政情や経済情勢の不安定さ
フォックスコンが初の海外製造拠点に選んだのはブラジルだった。
2011年、数十億ドル(数千億円)を投じ、現地で十万人以上に就業機会を提供するとして始動したブラジルプロジェクト。同国の週刊誌「イスト・エ・ディニェイロ」は当時、「サンパウロ市で世界第2位の大規模なiPhone製造ラインが完成した」ともてはやした。
しかし、2017年時点でフォックスコンが雇用する現地スタッフは2800人に留まる。同国でのプロジェクトは不安定な政権と経済成長の不振に阻まれた形だ。当初フォックスコン工場の誘致に積極的だったルセフ大統領(当時)が2016年に罷免され、税制上の優遇策など政権の後ろ盾が弱まったことなどに起因する。
現地メディアは、ブラジルで製造したiPadやiPhoneの価格は従来の3割減になると見込んでいた。スマートフォンの輸入関税が税率60%を超えていたからだ。しかし、フォックスコンの進出は値下げには結びつかなかった。発売日もグローバル市場より遅れている。
2)インフラやサプライチェーンの不足
インドの政情はブラジルよりも安定しており、経済成長にもより勢いがある。スマートフォン市場としては最後のブルーオーシャンだ。
フォックスコンは2015年に初のインド工場を稼働させ、1万5000人のワーカーを雇用した。その大部分は女性で、平均日給はわずか4ドル(約440円)。同工場では、アップル製品ではなく中国のスマートフォン大手シャオミ(小米科技)の製品を組み立てていた。
2017年には二つ目の工場で1万2000人を雇用し、2019年に初のインド製iPhoneを実現するとし、実際に同年の10月にこれを達成した。
しかしロイターの調査結果によると、インドおよびブラジルで製造されたアップル製品はあくまで現地需要を満たすだけにとどまっている。対してアップルの公式データによると、アップル製品の製造を請け負うフォックスコンの中国工場は2015年の9件から2019年の29件にまで数を伸ばしている。スマートウォッチやAIスピーカー、ワイヤレスイヤホンなどの製造ラインが増えているのだ。
組み立て工場だけではなく、サプライチェーンでもアップルの中国依存は減るどころかむしろ増すばかりだ。
インドの弱点は明らかで、サプライチェーンとインフラが後れていることだ。廉価な労働力は備えているものの、道路・鉄道・給水施設などのインフラや整ったサプライチェーンを構築するには、国家規模で当たっても長い時間を要するだろう。現段階で、フォックスコンのインド工場は中国から多くの部品を調達せざるを得ない。
3)廉価な労働力の不足
製造業には大規模かつ廉価な労働力が必要だ。
ベトナムの人件費は安いが、同国の人口は9554万人で労働力は多いと言えない。
米国は人件費が高い。フォックスコン創業者のテリー・ゴウ(郭台銘)氏は米ウィスコンシン州の同社工場について、従業員の年棒は約5万3000ドル(約580万円)としたが、中国国内では月給3000元(約4万8000円)程度だ。ウィスコンシン工場は当初の計画では1万3000人の雇用を予定していたが、2018年末時点で同工場の従業員はわずか156人だった。
昨年2月、フォックスコン幹部はメディアに対して「米国工場の建設はもう行わない」とした。しかし直後にテリー・ゴウ氏とトランプ米大統領が「秘密裏の対談」を行い、米国工場プロジェクトがすでに単なる商業的概念を越えて、一種の政治ゲームと化している。
2011年、当時の米オバマ大統領がアップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏に「iPhoneの製造を米国に戻すにはどうしたらよいか?」と尋ねたことがある。ジョブズ氏は迷わずこう答えた。「それは永遠に不可能だ」。
「1日60万台以上のスマートフォンを製造できるのは中国以外にない」。オンデマンド製造のマッチングを手がける米「Fictiv」のデイブ・エヴァンスCEOも、ロイターの取材に対しこう発言している。
フォックスコンは世界で「もう一つの中国」を見つけられるだろうか?
※アイキャッチ画像:Visual Hunt
(翻訳・愛玉)
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