成長し続けるテンセント 1日64億円稼ぎ出すIT企業になれたわけ

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中国IT大手のテンセント(騰訊)は11月11日、創業22周年を迎えた。翌12日には第3四半期の決算を発表し、その目覚ましい業績は資本市場への強い刺激となった。

11月20日の株価は588香港ドル(約7900円)をつけた。2004年に上場した当時の0.7香港ドル(約9.5円)の800倍以上だ。

同日、時価総額も5兆6000億香港ドル(約76兆円)となり過去最高を記録。アリババの5兆4000億香港ドル(約73兆円)を抜き、テンセントは名実ともに「香港株式の王」となった。

また、同四半期の純利益は385億4000万元(約6200億円)で、1日当たりの純利益は約4億元(約64億円)になると推算できる。テンセントは中国で最も稼ぐIT企業になったといえよう。

コロナ禍の巣ごもり経済を追い風に

世界経済が1993年以来の落ち込みをみせた今年第1四半期、テンセントの売上高は1080億元(1兆7000億円)を記録し、第2四半期もその勢いを増し続けたことは注目に値する。テンセントはコロナ禍における「巣ごもり経済」で、中国IT企業最大の受益者になったのだ。

世界各地の人々が引きこもりを余儀なくされ、オンラインエンターテインメントへのニーズが高まる中、ゲーム市場をリードしてきたテンセントは際立った業績を叩き出した。5月には「PUBG MOBILE」と「和平精英(Game for Peace)」の売上高がともに2億ドル(約208億円)を超え、世界ランキングの1位と2位を独占した。

外出が難しい生活の中でオンラインでの交流へのニーズが高まり、もともと巨大だったテンセントのSNS事業はその規模をさらに拡大した。チャットアプリの「微信(WeChat)」と「QQ」で1日にやり取りされたメッセージ数と利用時間は第1四半期、ともに前年同期比2桁増となり、2つのアプリを合わせた月間アクティブユーザー数(MAU)も8.2%増えて12億人を突破した。

テンセントは2018年に法人向け事業の集約を柱とする組織再編(通称「930改革」)を発表し、オフィスツール「企業微信(WeChat Work)」やビジネス版QQとも呼ばれる「Tencent TIM」、クラウドサービスの「騰訊雲(Tencent Cloud)」などを打ち出してきた。今年、コロナ禍の中でこれらの法人向けサービスにも成果が現れ始めた。

これ以外にもフィンテックや広告などの事業で目覚ましい成果を上げている。

テンセントを支えるオンラインゲーム事業

中国では今年下半期、感染症対策が功を奏して日常生活が戻ったことにより、テンセントのゲーム事業の成長に翳りがみられる可能性が指摘されていた。ところが、ゲーム事業の業績は下がるどころか上がり続けている。

第3四半期の売上高は中国ゲーム産業全体の売上高685億2200万元(約11兆円)の約3分の2に当たる414億2200万元(約6兆6000億円)だった。伸び率は前年同期比45%増で、第2四半期に続いて40%以上の伸びを記録している。

テンセントはゲーム事業の海外進出も推進し、数多くのゲームに投資しており、世界的人気を誇る「リーグ・オブ・レジェンド(L.O.L.)」の全株式を、「フォートナイト(Fortnite)」の開発元「Epic Games」の株式の48.4%を保有している。

成長するフィンテックと広告事業

ゲーム事業が売上高の3分の2を占めてはいるものの、第3四半期はフィンテック事業と法人向け事業の売り上げも伸び、2つの事業の合計売上高は、前年同期比24%増の332億5500万元(約5兆3000億円)となった。

テンセントは2005年にフィンテック事業をスタートし、現在は決済サービスの「WeChatPay(微信支付)」を中心に、資産運用プラットフォームの「理財通(Licaitong)」や消費者金融サービスの「微粒貸」、インターネット銀行の「微衆銀行(WeBank)」などを運営している。

第3四半期の決算報告書ではWeChatPay上のビジネス決済および資産運用プラットフォームは引き続き業績を拡大し、SNS決済および少額融資も持続的に成長したとし、ビジネス決済による取引額は前年同期に比べ30%以上伸びたことを明らかにしている。

また、インターネット広告事業の売上高は前年同期比16%増の213億5100万元(約3兆4000億円)となった。不振の続いていたメディア広告事業も、自社制作のバラエティ番組やドラマ「三十而已(Nothing But Thirty)」の配信により、売上高の下げ幅が1%にとどまった。

自社制作のアニメやドラマのほか、音楽関連サービスの「QQ Music(QQ音楽)」や「Kugou Music(酷狗音楽)」「Kuwo Music(酷我音楽)」 、カラオケアプリ「全民K歌(We Sing)」なども人気を呼び、大量の課金ユーザー獲得につながった。

第3四半期の有料サービス利用者は前年同期比25%増の2億1300万人となっており、うち動画視聴サービスの会員数は20%増の1億2000万人だった。

SNS広告およびその他広告収入の増加は、主にWeChat朋友圈(モーメンツ)の利用者増やeCPM(コンプレッション単価)の上昇、動画への広告出稿の効果が広告主に認められたことによるものだ。

テンセントは今年第1四半期にWeChatへの動画投稿機能「視頻号(Channels)」をリリースし、「抖音(Douyin、海外版「TikTok」)」や「快手(Kuaishou)」などショート動画プラットフォームとの競争に打って出た。11月初旬には視頻号にライブ配信機能が追加され、急速に業績を伸ばしており、広告収入増加にも寄与している。

テンセントがこれほどまでに業績を伸ばしている理由は、ゲームを含む多領域エンターテインメント事業で培ったビジネスモデルにある。

経済学者の陳志武氏は著書「馬化騰何以這麼富(馬化騰はなぜこれほど金持ちになったのか)」の中で、テンセントが急速に成長し収益を増加させたのは、限界費用(マージナルコスト)が限りなくゼロに近いからだと指摘している。

テンセントが手掛けるSNSやゲーム、フィンテックなどはマージナルコストが低く、大量のアクセスを誇るWeChatを基盤とすれば売上規模は無限に拡大できるだろう。

WeChatエコシステムの構築を加速

膨大なトラフィックを持つWeChatは、金融事業や広告事業の発展において重要な役割を果たしてきた。テンセントはここ数年、動画投稿機能やミニプログラム、特定の相手の注意を引く機能「拍一拍(Paiyipai)」などを相次いで打ち出すなど、WeChatエコシステムの構築に注力し続けている。

とくにミニプログラムは電子商取引(EC)やソーシャルメディアの機能とも結びつき、目覚ましい成果を上げるようになった。

2019年には取引額が8000億元(約1兆3000億円)を超え、アリババや「京東(JD.com)」「拼多多(Pinduoduo)」に続く第4のECプラットフォームになる可能性が見えてきた。現時点でミニプログラムは200業種以上を網羅。100万種以上が展開され、デイリーアクティブユーザー数(DAU)は4億人を超えている。

テンセントは第2四半期の決算報告書で、WeChatエコシステムをインターネット広告として再定義したとし、公式アカウントやミニプログラムでの広告展開は従来の一方的な広告とは異なり、深く長い顧客関係が築けると指摘した。

今年になってWeChat上にライブコマース機能「小程序直播(Mini Program Live)」やオンラインモール「微信小商店(WeChat Mini Shop)」などEC関連機能が加わったことも、顧客関係構築に寄与している。

今年は法人ユーザーからのソリューションニーズが高まったことを受け、テンセントは「WeChat Work(企業微信)」「Tencent Meeting(騰訊会議)」「Tencent Doc(騰訊文檔)」を含むSaaS型ツールパックのバージョンアップを図った。結果、Tencent Meetingの登録ユーザーは1億人を超え、DAUは前年同期比の2倍以上に増加した。

一方、第3四半期のクラウド事業の成績は振るわなかった。クラウド事業の成長は法人向けサービスの成長に大きく関係するため、テンセントは第4四半期にはクラウド事業への注力を強めるとみられる。

インターネット企業はポストコロナ時代に向け、デジタル産業化に向けた転換に直面している。もはや「インダストリアルインターネット」は目新しい言葉ではなくなった。テンセントのゲーム・広告・金融以外の事業にも注目が集まるに違いない。それこそがテンセントが目指す方向性だ。

もう一つ注目すべきなのは、11月10日に「WeChat Pay(微信支付)」を運営する「財付通科技(Tenpay)」の法定代表者がテンセントCEOの馬化騰氏から林海峰氏に交代したことだろう。このトップ交代も、テンセントが「生き続ける」ためのストラテジーに他ならない。
(翻訳・田村広子)

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