驚くほど低価格で量産!中国ショートムービー広告制作の舞台裏とは

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驚くほど低価格で量産!中国ショートムービー広告制作の舞台裏とは

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中国発の世界に広がるショートムービー。中国最大手の「抖音(Douyin、グローバル版TikTok)やそのライバルの「快手(KuaiShou)」が有名だ。各社が独自に開発したアルゴリズムにより、各ユーザーに合わせた動画を提供しているのは各所で報じられている通りなので紹介は省くが、少なくとも中国向けのサービスにおいて平均して35本程度のショートムービーを流し見していくと、1つの広告が表示される。広告は見慣れれば見慣れるほど、ストーリーは似ていて庶民的で、出演者は似たような顔、あるいは同じ人が別のブランドで出ているのに気づく。遊ぶとお金がボーナスでもらえるゲームとか、1元(約18円)で買えるスマートフォンというキャンペーン動画はしばしばあるが、実際はリアルに広告の文言通りの恩恵を受けることはない。

中国では6月末時点で87335万人が利用しているというショートームービー。ショートムービーに多くの人が時間を割く中で、雨後の竹の子のように中国全土でショートムービー専業の業者がでてきてレッドオーシャンになっている。この広告事情の一片について紹介する。

ショートムービーでインフルエンサーになった人はいるし、高い出演料をもらい、財を成す人はいる。だが大体はそうではない。ショートムービーの広告業者によれば、ちょっと検索しただけで、中国全土で撮影業者を3000元程度(約5万円)で見つけることができる。値段にして従来の広告の10分の1程度と安い。

武漢のメディア企業の蘇さんは「3000元でショートムービー広告を創りますよ」という。「オリジナルのコンテンツ、長めの1分、編集」という最も高いプランを選んでも5000元で済む。メディア企業とは名乗っているが、彼は創設者でCEOだが、従業員は蘇さんただひとり。監督でも脚本家でも写真家でも編集者でもある。会社のほうが都合がいいのでそう名乗っている。一人でも十分爆速で映像広告をつくることができる。

忙しすぎるときは請負業者になり、脚本家を名乗っている人に難易度に合わせて50300元で脚本を書いてもらう。また技術力を求めないかたちで作業を外部委託し、一時的にチームとして制作する。このモデルで、蘇氏は月に最大で5万元を稼ぎ、武漢に家を持つことができた。

中国伝媒大学を卒業した脚本家の思さんは、「結局のところ、この広告動画の業界では、中身のクオリティはどうでもよく、そもそもオリジナルである必要はまったくありません」と語る。

思さんは大学卒業後に故郷の成都に戻り、ショートムービーを制作する企業で脚本家として勤務。その勤務初日に、動画の監督が水を差した「独創的なコンテンツである必要はない。爆発的なモデルから学ぶことが成長するための最速の方法だ。」という注意が彼女の記憶に残る。

同社は多数の短いビデオアカウントを所有しており、地元の生活についての動画を撮影し、同時に広告の撮影の注文を受けている。思さんの毎日の仕事は、同僚が動画を選択できるように少なくとも10個の動画と撮りだめするというもの。家庭で子供が動揺するとか、隣人が別の家族についてのうわさ話を言うとか、夫婦が喧嘩して離婚するとか、そういった話がウケがよく、ビュー数が伸びる。

大学を卒業した後はまだ思さんは広告業界についていくつかの幻想を持っていた。かつて自身が提出した台本に、自らの考えを巧妙に「混ぜ合わせ」ようとして、最終的にはすべて削除されたことがある。このとき彼女は納得せず顧客に台本を見せた。ところが顧客の反応は「あなたのアイデアは素朴さが足りない。誰もが理解できず、興味がない」というものだった。

付さんは広告で活躍する素人の役者だ。有名大学在学時にはその容姿からモデルも行っていた。

杭州で就職するも家賃や物価があがっているため、ショートムービーのサービスに登録し、いくつか自撮りを行いファンを集めた。その後広告をもらおうとアピールしたことが叶い、2018年以降広告用の動画自撮りの注文を受けるようになる。広告の要件は非常に単純で、製品を持ち上げていくつかのセリフを話せばいいだけだった。美貌を兼ね備えた付氏は30秒の広告の撮影で彼女は500元を得るようになった。

ショートムービー広告出演で500元という値段は妥当な値段だ。以前はほとんどの広告がプロのモデルやパフォーマンス専攻で登場し、1日あたりの料金は数千元かかったが、今では数百元で広告を撮ってくれる人を見つけることができるようになった。

ところが付さんは意図していなかった広告を受けるように成る。スキンヘアの彼女がシャンプーを使うと髪が伸び女神になったとか、職場で醜い扱いを受けていた彼女が、化粧をすると社長になったとか、そういったストーリーの広告に出演するようになってしまった。彼女はこうした撮影を経験し「ビデオから3秒以内に強い感情があって、誇張された演技スキルを使用して雰囲気を作り出し、新たな展開にもっていく、そうしなくてはいけないのです」と結論付けた。

付さんは醜いビデオに出演したくなかったし、安定した収入でこのアルバイトをあきらめたくなかった。そこで付氏は自らが演じるのではなく、素人の人々を活用する「請負業者」になることに決めた。チャットグループに仕事の案件で声をかけ、あっという間に立候補し参加した12人の女性に出演してもらい、動画が完成した後、50100元の値段を払うというものだ。出演に手を挙げた女性たちはコピーライター、管理職、学生などで、副業としてショートムービーに参加した。

最初に紹介した思さんにとって、ただでさえレッドオーシャンに感じていたショートムービー広告動画業界に、さらにモデル出身の付さんのような人々も参入。いよいよ思さんは危機を感じ、撤退の選択肢も考慮するようになった。

広告代理店で勤務する張さんは、広告ページにジャンプした後に、ユーザーにダウンロードさせたり購入させたりする仕組みを作っている。2015年に開始したときはプラットフォームは少なかったが、今多数のプラットフォームを見なくてはならなくなった。 「広告自体に詐欺があったとしても、取引はプラットフォーム自体に表示されないため、証拠を入手して権利を保護することはさらに困難です」と彼は語る。

張さんは「もちろんその前にはにコンテンツが広告ページに誘導させる必要があります」と語る。「素朴で下品であり色気がある広告が一般に支持されます。強い陰謀の対立、低レベルの反撃の物語、地元のラブストーリー、さらには正義が好まれますね。とにかく庶民的であればあるほど、よりバズるのです」。

彼は加えて「最も重要なことは、コンテンツの審査メカニズムを理解し、審査を通すことです。」と説明する。プラットフォームにもよるが、審査はキーワードでフィルタリングして、その上で人力でふるいに残ったものをチェックしている。そこを通ってしまえばいいという考えだ。広告動画は最初の3秒間で成否が決まるという。コンテンツとプラットフォームのレビュールールに従って資料を最適化し、審査を抜けて正常に配信できるようにするよう、さらに審査を通したコンテンツの成果をフィードバックしてさらなる最適化を目指す作業を日々行っている。

それぞれ異なる中国茶ブランドの動画だが、類似した撮影スタイルである。

中国のショートムービーの広告は驚くほど低価格に、そして中国全土で大量に量産されている。クリエイティブなサービスや製品が出る今でも、広告は非常にシンプルで文学性は求められていない。日本のSNS向けのゲーム広告で、貧乏な境遇の人や金持ちになって見返す、不潔な人が見違えるほどきれいになるといった内容のものをよく見るが、中国で人気の広告動画のセオリーによって作られているのかもしれない。

作者=山谷剛史

アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。

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