ECよりも高い値段で売れる本屋、中国「西西弗」が儲かり続ける理由

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中国でときどきものすごく内装に凝った書店が話題になる。中国でも日本でも書籍販売は真っ先にECの影響を受けた。さらに言えば中国ではもともと人々が本をそれほど買わず、街の書店といえば蔵書数は多いが地味で客もまばらな新華書店しかなかった。その環境に煌びやかな書店を新たに展開するのである。このような条件を考えるととても書店運営は儲かりそうにないが、チェーン店の西西弗は儲けている。どのような仕組みなのか紹介しよう。

西西弗(SISYPHE)という書店チェーンがある。上海や深センはもちろん、中国全土の都市の目立ったモールにはよくテナントとして入っているので、中国全土の省都クラスの住民には知られている書店だ。筆者は以前雲南省の昆明に在住していたが、昆明の近所のモールにも西西弗があった。店舗数は340店余りで、会員登録者数は約500万人だ。資金調達は一度もなく、これまでの資金調達の相談は数多くあったもののこれを拒み成長をした。

セール日を除き西西弗で販売されている本は割引されていない。書店入口の目立つ本棚には、村上春樹の最新小説「一人称単数」が定価の56元で売られているが、本棚で京東を開くと、3割引の価格で販売されている。書店内にはコーヒーを買って座って本を読めるカフェが入っている。競合各社のようにメニューにこだわることなく、37~40元という結構な値段のするラテを頼めばコーヒーマシンで作られたコーヒーを店員は持ち帰り用のカップに入れてくれて、38元のお茶を注文すればティーバッグが1袋もらえて後は自分で飲み物を作る。

それでも大人気とは言わないが、まずまず人が入って消費をし、儲かっているのである。

中国の多くの場所でショッピングモールの存在感は大きい。なんとなく人々はショッピングモールに足を運び、ショッピングを楽しみ、食事をして、映画や屋内型アミューズメントスポットを見て楽しむ。西西弗は読書好きではなく、本屋に行かない人々を狙い撃ちにした店舗づくりをしている。

したがって店に入ってまず目立つのはわかりやすい村上春樹氏や、ノーベル文学賞を受賞した莫言氏の本や、ドラマ化された原作の小説だ。さらに店の中をちょっと進むと「コミック版明代300年」「まんが宇宙のビッグバン」「中国の漫画史」といった子供向けの本や、「人気動画の作成」「自走力」「メタバース革命」といった職場で知識不安を感じる中高年や、スーツ姿の女性を表紙に飾る「女性力」「自分を開放する」「不安と自分を受け入れる」といった若い母親向けの本が並ぶ。家族連れでショッピングモールに来ると、西西弗はいろいろちょうどいい。

一人やカップルで西西弗に来店したなら、買った本を静かなカフェで読むという手もある。書店内カフェはそれ自体が目的だから、落ち着いた音楽が流れるレトロな装飾の空間で本を読むことができる。西西弗で消費することで、自らを演出できるわけだ。同社の売上は本が8割、飲食が15%、その他が5%(2019年1~10月)だという。

ここまでは顧客のニーズと、支払わせる空間づくりだ。ではどうやって利益を出しているのか

まずテナント料を安く抑えている。多くの大型ショッピングモールが積極的に書店(西西弗に限らない)との協力を模索し、その会場を低価格、または無料で書店に貸し出している。ショッピングモールにとって、書店は文化的価値と機能的価値の両方を備えた場所であり、一方ではショッピングモールの格調を高めるため、また人々が休憩するための場所となることから、書店はショッピングモールに人を呼び込む要素となっている。書店としてもショッピングモールにテナントを構えることで客を呼び込めるのでWin-Winの関係だ。競合他社と異なる点では、西西弗の店舗サイズは500平米と競合書店より小さく、巨大スペースがなくても入店できる点が強い。

次に人件費を安く抑えている。本社が指定する本を並べればよく、書店員が目利きをして凝った本棚をつくる必要はなく、レジや品出しをするだけでいい。レジ担当も含めて1店舗につき店員は4~6人、カフェは1~2人ですむ。単純作業ゆえに店員も北京で4000~6000元、他都市では2000~4000元とかなり安い。コーヒーチェーンの店員の月収の半分程度しかない。

西安迈科中心にある言几又の旗艦店

西西弗はコロナ禍においても店舗を閉鎖することなく営業し続けた。一方で同じく書店チェーンの「言几又」は一部店舗を閉店をしてコストカットを決断している。言几又もまた、テナント料を低価格で抑えてテナントに入ったが、消費者受けを狙い内装にコストをかけすぎたのが原因だという。

蔦屋書店が中国で展開し話題になった。ショッピングモールサイドとしては、より話題性があって、様々な人を引き寄せる書店チェーンのほうがありがたく、最初ほどの人の入りはなくなっても好評とのこと。よりライトな客を引き寄せる話題性のある書店が生き残りそうだ。

(作者:山谷剛史)

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