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昨年の東京オリンピックの選手入場でゲームミュージックが流れた。プレイしたことがある人にとっては、聞き覚えのある曲が流れて思うところがあったのではないだろうか。ゲームミュージックはゲームを構成する一大要素として、多くの人が作曲に携わった。そのうちの一部の名曲と評価された楽曲は、音楽単体で聴かれ演奏された。
近年モバイルゲームをはじめとして存在感を強めた中国ではどうかというと、実はこれまでゲームミュージックを重要視していなかった。音楽の一ジャンルとして評価されなかった、世間的に認められないと、ゲームミュージックに関する各記事で同じように書かれているのだ。中国で昔から日本のゲームに触れ、ゲームミュージックを聞いているにも関わらず、母国でのゲームミュージックの作曲については評価されなかったわけだ。一方でゲームミュージックに関する記事が出るということは、最近ゲームミュージックが評価されつつある。
テンセントミュージックデータ研究所が今年発表したゲームミュージックに関する調査レポートによると、ゲーム音楽制作の規模は2021年の上半期の時点で2020年1年間を上回るほど増え、動画で100万再生を超える曲も増えている。また2019年から2021年前半にかけて、ゲームのサウンドトラックの開発も大幅な成長をした。ゲームミュージックもIPとして活用される傾向が強まった。ゲーム企業はゲームミュージックを強化している様子はうかがえる。
今年6月、テンセントがリリースするロングランの「王者栄耀」という人気ゲームに久石譲氏が楽曲を提供してゲームファンの間で話題になった。中国で著名なヒーローや日本のキャラクターなど無数に用意されたキャラクターからプレイヤーを選び、5対5のオンライン対戦を行う「MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)」というジャンルのゲームだ。
このゲームのキャラクターに桑啓というキャラクターがいるのだが、この桑啓のテーマソングを久石譲氏が提供した。中国での久石譲氏の知名度はジブリ作品や映画などで高いことから、その反応は大きく好評を得ている。興味があれば百度などの中国の検索サービスで「久石譲 王者栄耀 桑啓」で検索すると作品を聴くことができるだろう。
また過去にテンセントは王者栄耀のローンチ時に、「インセプション」、「ブラックホークダウン」や「ライオンキング」など映画音楽の制作で知られるドイツ人のハンス・ジマー氏にテーマソングを依頼している。
他にも近年のゲームタイトルでは、テンセントの女性向け恋愛ゲーム「光と夜の恋」で、作曲家の林ゆうき氏と橘麻美氏が作曲。現在大人気となっているmiHoYoの「原神」もゲームミュージックに力を入れていて、キーパーソンとなるのが80后の作曲家「陳致逸」氏率いる同社の音楽チーム「HOYO-MiX」が作曲しているほか、東京フィルハーモニー交響楽団、上海交響楽団、ロンドンフィルハーモニー交響楽団などによるサウンドトラックを制作した。
海外ではフランスSloclapによるプレイステーション4,5とSteam向けのタイトル「Sifu師父」で、北京で生まれ育ったHowie Lee氏が作曲し中国的世界をゲームミュージックで海外のゲームファンに伝え評価された。SloclapのチーフサウンドデザイナーであるLucas Rousselot氏は、2018年にリリースされたHowie Lee氏のアルバム「自然災害」を聞き、SIFU師父の作曲に非常に適していると考え、彼を招待したという。
5年以上前だが中国のゲーム史でひとつのマイルストーンとなった作品に、2016年にネットイースがリリースした日本の中世を舞台にしたファンタジーゲーム「陰陽師」がある。この作品は日本を舞台にしただけでなく、当初は中国向けゲームながら日本の声優を多く採用したのが話題となったが、音楽もまた作曲家の梅林茂氏を採用し、音楽にも力を入れている。
このように中国のゲームは何かと日本や欧米の作曲家を活用し結果をだしている一方、中国人作曲家も徐々に台頭している。中国国内から著名な作曲家がこれまでほとんど誕生しなかったのは、ゲームミュージックが低い評価を受け、長い間発展しておらず、プロのゲームミュージックに強い作曲家が不足していたからだという。
そうだとすれば今後は中国からも徐々に育成されそうだが、今中国ではゲームの新規タイトルを抑えている状況で、中国のゲーム業界は海外に目を向けている。海外市場を考えるならば中国人のほかに外国人のクリエイターを使ったほうがいいという意見がある中、中国のゲームの作曲家として台頭するのは簡単ではなく、ゲームミュージック作曲を志望する中国人の中には海外を目指す人も多くいるだろうし、海外へのゲーム展開を意識する中で日本の作曲家も採用されそうだ。
(作者:山谷剛史)
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