日本半導体業界の失われた35年 TSMC誘致などで捲土重来なるか

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日本半導体業界の失われた35年 TSMC誘致などで捲土重来なるか

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1980年代は日本の半導体製造黄金期だった。最盛期の1988年には、日本の半導体製品の生産量が世界全体の半分近くを占め、1990年の世界半導体メーカーTOP10ランキングには日本企業6社が名を連ねた。

しかしその後日米貿易摩擦が過熱すると、アメリカは圧力をかける対象を繊維製品や鉄鋼から自動車、カラーテレビと、次々に広げていった。こうした動きを受けて日本政府は受け身になり、続けざまに条約に署名した。中でも「日米半導体協定」の衝撃は大きく、これを機に日本の半導体産業は衰退を始める。

アメリカからの締めつけは確かに大きな影響があったが、日本自身にも問題があった。萩生田光一前経済産業相は、日本半導体の衰退はアメリカなどライバルからの圧力や反撃と関係しているが、それよりも日本自身の戦略、戦術の誤りが衰退と挫折を招いたとの考えを示している。

1987年に台湾積体電路製造(TSMC)が設立され分業方式が取られるようになると、半導体の設計と製造は切り離されていった。このとき、世界の半導体業界で覇権を握っていた日本企業は従来の方法に慣れ切っており、設計と製造を分けるという新しい方式を試そうとはしなかった。産業チェーンのほぼ全てを自らの手の届く範囲に置こうとしたことも、日本の凋落を招いた原因となった。

日本の半導体業界では長い間、ウエハファウンドリは遅れていると決めつけ、古い技術と労働集約型産業を代表するもので、ただ安く受託生産するだけだと考えていた。今振り返ってみると、製造技術が進化を遂げ、新しい工場や生産ラインの建設、古い設備の減価償却費が半導体製造における最大のコストとなりROI(投資対効果)が下がると、業務の一部をTSMCなどファウンドリで委託生産したほうがはるかに割がよくなる。

インテルとサムスンがこれに気づいたのはしばらくしてからだが、最終的にはなんとか時代の流れに間に合った。日本だけはあくまで譲らず、手をこまねいてチャンスを逃してしまった。

科学技術と市場が発展するにつれ、半導体供給は全世界での分業体制になった。設計、製造、パッケージング・テストを経て製品となり世界各地へ届けられる。これにより生産効率が飛躍的に向上し、企業にとっても効率よくコストを抑制できた。ところが日本企業はやはり旧態依然の生産方式にこだわり、大規模化して効率的に生産することもできず、結局は日本の半導体産業全体が世界市場で何から何まで後れを取る結果となった。

日本企業が半導体製造の分業スタイルの必要性と、国内半導体製造業の衰退に気づいたときにはすでに遅かった。ウエハのOEMは多額の資金投入と高度な技術を必要とし、資金回収までの期間が長い。巨大マーケットはすでに台湾と韓国のメーカーに持っていかれていた。

半導体産業における日本のシェア長期推移(日本経済新聞中国語サイトより)

日本の半導体産業分野におけるシェアは最大で50%だったが、2020年には10%にも満たないところまで落ち込んだ。かつて最も勢いのあった製造業の衰えは激しく、業界トップグループ企業から日本企業の姿は消えた。

その後状況が変わって世界の半導体サプライチェーンに不確実な要素が増え、日本は国内半導体産業を復活させるべく動き出した。

捲土重来目指す日本

日本は2020年4月の会議で、世界的な半導体の供給不足を巡って国内投資の支援策について議論を交わし、分散型サプライチェーンの構築が必要との認識に至った。

日本の電子部品工場が国内に戻る動きが見られるようになり、村田製作所、ローム、ジャパンディスプレイなどが海外の製造拠点を日本に移すことを検討し始めた。

データによると、海外に工場を持つ日本企業のうち、すでに約13.3%が工場を国内に移している。今年4月の日本の機械製造受注は3.8%増加、金額が80億ドル(約1兆円)近くに上ったことは、海外工場の国内回帰と明らかに関係している。

日本政府は5月31日、「2022年版ものづくり白書」を閣議決定し、改めて半導体産業の競争力の重要性を強調した。

世界市場の動きと各国政府の施策に刺激されて日本は半導体産業復活の決意を新たにし、国内半導体産業を再興して昔日の栄光を取り戻そうとしている。材料と装置で優位性を持つ日本は、半導体製造に照準を合わせた。

TSMCの誘致

日本の最初の攻略対象となったのは、世界最大のウエハファウンドリであるTSMCだ。

TSMCは21年2月、最大1億8600万ドル(約250億円)を投じて日本に子会社を設立、3D ICを研究すると発表した。

注意すべきは、この提携はチップ製造ではなく、先進的な3次元パッケージング技術を対象にしている点だ。TSMCは先進的製造プロセスでは群を抜いている。日本に研究拠点を開設して材料や設備の優位性を利用し、3次元パッケージング技術の研究と発展にいっそう注力する。日本としてもTSMCとの提携を機に、自国半導体企業の競争力維持を支援する考えだ。パッケージング・テストのラインは昨年下期に建設が始まっており、22年に正式に研究開発が進められる計画だ。

東京理科大学の若林秀樹教授はこれについて、「半導体製造の後工程は現在付加価値が上がり続けている。日本がここで一歩先に出ることができれば、半導体分野の競争において再び優位に立てる」と指摘した。

TSMCの研究所開設は日本の半導体産業の士気を高めるに違いないが、それだけにとどまらなかった。日本政府はTSMCの工場を誘致するために補助金を惜しまず、経済産業省は6月17日、4760億円にのぼる助成を決めた。TSMCはソニーやデンソーと提携し、熊本県に86億ドル(約1兆1400億円)を投資して工場を建設、これにより1700人の雇用が創出されると見られている。

工場は4月に着工しており、24年末に10-20nm(ナノメートル)台の半導体の月産能力が5.5万枚になる見込み。計画では旭化成やイビデン、JSRなど半導体企業20社がTSMCと提携することになり、これを機に日本半導体の競争力復活を図る。

TSMCの日本工場建設が政府からの補助を獲得したことは、日本の半導体製造能力向上のカギになると捉えられている。これに関し政府の「半導体・デジタル産業戦略検討会議」で座長を務める東哲郎氏は、これでもまだ十分ではなく、もし半導体産業の再興を望むのであれば来年は減税優遇措置が必要で、今後10年間で企業投資が10兆円程度に達するようにしなくてはならないとの考えを示している。

東氏はまた、日本の半導体産業低迷は数十年に及んでおり、補助金を増やすことは劣勢からの巻き返しを図るきっかけになるが、政府の初期投資がなければ民間企業は投資しようとはしないと考えている。

さらに現在のような半導体不足の状況にあって、世界各国が製造能力を拡充し、補助金投入を増やしている。アメリカはすでに520億ドル(約6兆9800億円)を投じており、TSMCとサムスンの工場建設も誘致した。中国や欧州、シンガポールでも同様の動きが見られる。

マーケットの需要を満たすため、TSMC以外にも日本の産業チェーンに連なる企業の動きが活発になっている。

自動車部品製造のデンソーは、ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(USJC)と提携してパワー半導体の製造工場を開設し、自動車用パワー半導体を製造して自動車市場からの増え続ける需要に応える。

USJCのウエハ工場に絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)生産ラインを設ける。これは日本初の300mm(12インチ)ウエハでのIGBT製造となる。デンソーのIGBTデバイスとプロセス技術、USJCの300mmウエハ製造能力を合わせてIGBTを量産する。生産開始は23年上期を予定している。

アメリカと手を組み2nm半導体を

「永遠の敵はいない、あるのは永遠の国益だけだ」日米半導体の歴史にこれほどふさわしい言葉はない。かつての支援からその後の圧力、さらには圧殺、そして再び現在の協力に至るまで、常に利益という二文字が優先されてきた。

今年5月、日米両国は半導体の基本原則で合意した。バイデン大統領と岸田文雄首相は、半導体の製造能力強化と先進的製造の協力強化で一致した。萩生田前経産相は5月のアメリカ訪問を終えた際、これを「奇異な運命」と表現している。

日本経済新聞の報道によると、両国が合意した協議内容に基づき、早ければ25年に日本で2nm半導体の製造拠点を完成させ、次世代先進プロセスによる量産と商業化の競争に向け準備を進める。新たに企業を設立する可能性も排除できないという。さらに、日本政府は資金を提供して日本企業の2nmの次となる次世代半導体製造技術の研究を支援するとも伝えられている。

ということは、日本が計画している2nm技術の商業化スピードは、業界トップのTSMCやサムスン、インテルと同等のレベルということになる。

2nmの研究開発では、実力を持つIBMが昨年すでに原型を開発しており、インテルも研究を進めている。日本では国立産業技術総合研究所つくばセンターでプロジェクトが進行しており、2nm製造技術を含む次世代半導体生産ラインの製造技術開発を進めている。東京エレクトロンやキヤノンといった半導体製造メーカーも参画している。

また、日本には信越化学やサムコなど大手半導体材料サプライヤーがあり、アメリカにも半導体製造設備大手のアプライド・マテリアルズがある。主要サプライヤーの協力で2nm半導体量産技術の順調な実現を目指す。

TSMCが熊本県に工場を建設するとはいえ、製造するのは10-20nm台だ。日本はTSMCの誘致でカギとなる半導体の穴埋めをすることはできるが、アメリカと手を組んで次世代技術に追いつくチャンスも見逃しはしない。
(翻訳・36Kr Japan編集部)

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