脱炭素政策を追い風に、船舶向け駆動用バッテリー開発の中国企業が台頭

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中国政府がカーボンピークアウトとカーボンニュートラルの「双炭(ダブルカーボン)」達成を目指す中、船舶業界では動力システムとエコシステムのあり方に構造的な変革が起こる見通しだ。国有送電大手・国家電網(ステートグリッド)のデータによると、2060年にはエネルギー消費に占める電力機器の割合が79~92%となり、船舶も電動化されていくと見込まれる。世界の電動船舶産業はまだ動き出した段階で、中国の内陸水運では電動化率が1%に満たない。今後は世界で少なくとも10万隻の大型船と410万隻の小型漁船に電力システムの改造が必要になるとも言われ、1兆元(約20兆円)規模の市場は業界にとってブルーオーシャンとなった。

2018年に広東省深圳市で設立された「安易控動力(AYK Power)」は、新エネルギー船舶向けの駆動用バッテリーと蓄電システムの統合ソリューションを手掛け、船舶輸送業界が世界的に低炭素化を進めるカギとなる動力システムの提供を目指している。主要プロダクトのバッテリー管理・統合システムは蓄電用のバッテリーセルを集積して特定船舶の用途に活かし、安定性のある安全な電力供給を可能とする。

同社は2種類のバッテリーシステムを開発した。うち大容量バッテリーシステムは主にエネルギー密度の大きなシーンに使われ、電力機器に長時間の給電が可能になる。また、高出力型バッテリーシステムは瞬間的に電力密度が高くなる場合に主に使われ、船舶発進時に十分な動力を提供する。

船舶向け駆動用バッテリーシステムのバッテリーパック(画像:IC photo)

現在は第3世代船舶向け動力バッテリーシステムの研究開発と実用化に焦点を当てている。旧世代のシステムに比べ、第3世代システムは取り付け時の不具合解消や内外部の構造改善によって、セルの熱暴走防止機能、エネルギー密度、コストパフォーマンスなどが向上した。例えば、システムに組み込まれた複数のセンサーが故障を検知すると自動的に消火装置が作動する。また、グローバル型クラウドを介したデータ監視プラットフォームが人工知能を使って潜在的な危険を認識し、不具合を起こしそうなセルを事前に取り換えることでセルの正常な動作を保つ。

同社の強みは製品の安全性、バッテリー管理の効率性、電力システムの安定性が高いことだという。

バッテリー産業では川中にあたるバッテリーのシステムインテグレーターとして、同社は中国のサプライチェーンと市場の優位性を生かし、川上のセルメーカーや川下の電力システムインテグレーターなどと提携しながら、船舶向け動力システムと蓄電システムのソリューションを提供している。提携先は船舶用動力・エネルギーに注力するバルチラ(Wartsila)、電力や自動化技術を手掛けるABB、中国長江三峡集団(CTG)、中国のセル製造業者などとなっている。

安易控動力の責任者は市場開拓戦略について「国内外の両方で事業を展開している。中国市場では漁船やタグボートなど船舶の電動化事業に参加するほか、政策的に進められている長江での船舶電動化事業を開拓している。海外では欧州に事業所を設立することで世界の船舶市場に参入すると共に、北米と東南アジア市場にも進出していく計画だ。今年は三元系もしくは他の新型セルによるバッテリーシステム設計・開発に加え、広東省珠海市で工場建設を計画している。2030年までには世界の大型船舶市場で50%のシェアを握り、2GWh以上の受注量を目指したい」と話した。

船舶向けバッテリーサプライヤー大手のCorvus Energyは強力なライバルとなるが、安易控動力はセルの生産能力と価格面で優位に立つ。安易控動力のバッテリーシステムは1Wh当たりの販売価格が中国で約2元(約40円)、海外で2.5~3元(約50~60円)で、Corvus Energyなどの3~4元(約60~80円)よりもコストパフォーマンスに優れている。

安易控動力の社員は30人余り、うち研究開発担当者の占める割合が3分の1を超えている。創業者のChris Kruger代表取締役は欧米で24年にわたり半導体と駆動用リチウムバッテリーの関連業務に従事し、Corvus EnergyなどでCTOを務めた。今年2月、同社はシリーズAで盈富泰克創業投資基金から4000万元(約8億円)の資金調達をした。

(翻訳・大谷晶洋)

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