中国企業の海外進出にともない拡大する越境決済市場

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決済とEコマース(EC)は切っても切れない関係だ。中国ではECの業態が徐々に成熟していくのにともない、インフラとしてのモバイル決済もすでに国民の生活の各方面に浸透している。

海外市場についても同様のことがいえる。「一帯一路」政策のもとで海外事業がECの新しい成長分野になった。決済もそのインフラとして海外へ進出した。オンライン決済サービス「支付宝(アリペイ)」、「微信支付(WeChatペイ)」、カードの「銀聯(UnionPay)」など個人向け決済がいち早く海外進出するなか、企業向けの越境決済を行う企業も各自発展の道を探っているところだ。

越境決済が近年急速に発展している理由は主に二つ。

■ 中小企業のニーズ:被仕向送金。輸出やEC、ゲーム、金融などの市場の急速な成長が中小企業の海外進出を後押ししたが、どのように代金を回収するのか、どうやって国内の口座に着金するのか、従来の決済サービスでは一部の海外ビジネスのニーズを満たせなくなってきている。

■ 個人のニーズ:仕向送金。旅行や留学などで出国する人が増加の一途をたどるなか、それにともない決済や送金などのニーズも生まれている。中国の消費者は国内では便利でスピーディーなモバイル決済に慣れており、海外でも同様に決済を行いたいと考えている。

そのため、サービス対象からみると、越境決済は主に「個人向け」と「企業向け」に分けられる。個人向けの越境決済事業についてはアリペイ、WeChatペイ、銀聯に独占されており、これらの企業は現地のウォレットサービスを切り口にし、多くのアクワイアラーと提携して加盟店を増やし、ウォレットサービスの現地化と総合支払いシステム構築に取り組んでいる。

越境決済のサービス提供者は以下の5種類に分類できる。

1.銀行

ECが誕生するまでは、銀行送金が企業と個人の送金の重要なチャネルだった。銀行は電信送金、手形送金、郵便送金などを取り扱っている。電信送金の場合、一度の取引で取引金額の1%の手数料に加えて150元(約2300円)前後の電信料がかかるため、高額取引に適している。

電信送金はほぼSWIFT(国際銀行間通信協会の国際送金システム)頼みだ。しかしSWIFTの欠点は一度の取引で複数の銀行を中継したり、マネーロンダリングの抽出検査などが行われると、着金の遅延や組戻しが起こりやすい。また、為替差損などの問題もある。

しかしここ数年、ライバルの出現によって従来の業界にも変革が起きている。例えばSWIFTは2017年から「SWIFT gpi」という国際送金を30分以内に完了させるサービスを打ち出した。越境決済の速度、透明度及び端末間の照会サービスを向上させ、現在SWIFT gpiを利用した決済のうち40%は5分以内に受取人口座に振り込まれるという。中国国内でも中国銀行の「中銀智匯」など多くの銀行がこのサービスに加盟している。

2.国際送金サービス会社、カード会社

少額送金ではVisaやMasterなどのカード会社や国際送金サービス大手のウエスタンユニオン、マネーグラムなどが主要なサービス提供者だ。送金スピードは速いが手数料が高いという欠点がある。例えばウエスタンユニオンは取引回数に応じた手数料がかかるため、小額取引が頻繁に発生するEC企業にとっては費用負担が非常に大きい。

3.インターネット企業大手

かつて個人向けの海外決済は銀聯の天下だった。そしてアリペイ、WeChatペイの海外進出によってこの市場での競争は徐々に激しくなっている。個人向け越境決済の中核は決済モデルと業態を海外に移行し、中国のユーザーと海外の現地ユーザーに自社の決済チャネルを利用してもらうことだ。

個人向け越境決済の参入企業一覧

ここ数年、大手企業の海外事業拡大ペースは加速している。今年2月までに、アリペイは世界54の国と地域で展開。しかも株の取得など様々な方法でインドやタイを初めとする9つの現地ウォレットサービスのパートナーを獲得している。中でもインドのペイティーエム(Paytm)はすでに世界第3位の電子ウォレットになっており、提携の効果は著しい。

WeChatペイも欧州、米国、香港などに進出しており、アリペイと同様に中国人旅行客に照準を当てている。WeChatペイは目下のところ海外で現地向けウォレットサービスを提供することはせず、人気の海外旅行スポットを訪れる中国人旅行客向けのサービスに注力するとしている。

4.第三者越境決済企業

電子商務研究センター(ECRC)が発表した「2018年(上)中国越境EC市場データモニタリングリポート」によると2018年上半期の中国越境EC取引は4兆5000億元(約70兆円)規模に達し、前年同期比25%増だという。中でも企業間取引が84.6%を占め、企業と個人間取引の割合は5分の1にも満たなかった。巨大な市場があることは間違いない。

企業向けの代金回収事業を行う企業一覧

第三者決済企業は単なる決済の出入金や両替などの業務から、プラットフォームやエコシステムを構築する段階に入ったといえるだろう。ユーザーにサプライチェーンサービスやVAT(付加価値税)納税、サプライチェーンファイナンスなどの付加価値サービスを提供し、中には仕入れや売り上げ、在庫管理などの業務を行って企業を支援するところもあるという。越境決済を手がける「PingPong」が発売した越境EC専用システム「Seller OS」や、「連連支付(LianLian Pay)」が発売した越境プラットフォーム「LianLian Link」などもこうした流れの一つだ。

5.ブロックチェーン技術を中心とする越境決済企業/事業

ブロックチェーン技術の分散型台帳やコンセンサスアルゴリズムという特徴はは越境決済への応用に適しており、決済プロセスをフラット化することができる。全てのプロセスにおいて、ほぼ同時に情報の確認ができるため、帳簿を照合する時間を削減でき、越境決済企業の決済準備資金を減らすこともできる。そしてブロックチェーンの改ざん防止という特徴が詐欺などを防止する有力なツールとなり得るため、資金流通におけるリスクを低下させる。「リップル」や「サークル」などはブロックチェーン企業の中でも越境決済を手がけている典型例だ。

しかし注意すべきなのは、ブロックチェーン技術が理想的に見えても、実用化には長い時間がかかることだ。例えばシティバンクが以前打ち出した「シティコイン」計画は越境決済分野で利用が見込まれていたが、最終的には計画を断念した。銀行間の提携とモニタリング、コンプライアンスなどはブロックチェーン技術が解決しなければならない以前からの問題だ。(翻訳・山口幸子)

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